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王都の休日・舞台鑑賞

第五幕・PHASE-01

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 ――最終である第五。その幕が厳かに上がる。

 
 協議を行う場より始まる。

 玉座に座る王。家臣団と、勇者ティアナ、アサシンのニコもその場に居並んでいる。  
 
 しかし、マルケル達、一部の家臣はその場には参上していなかった。呼び出しに応じることなく、体調の不良を訴えての欠席であった。
 
 むろん、この場の者達は、それが偽りであることは理解しているが、マルケルの思いも理解出来るため、口に出して彼を咎めようとすることを皆、避けた。
 
 それは王も同じであった。
 
 沈黙の場が続く。
 

 ――それを破るのは、ボロの外套を纏った騎士であった。
 
 鉄製の鎧は、重いものでの殴打が原因なのか、左肩の部分が凹み、右部分と比べると形状が変わり果てていた。
 胸当て部分は、自分のものか、相手のものか分からない血も付着しており、剣戟の中をかいくぐったことが瞭然であった。
 
 王は玉座より飛ぶよう立ち上がると、体を引きずる騎士にかけより、自らの体を貸してやった。
 
 その姿によい結果ではなかったか……。と、場に立つ者達は肩を落とし目を伏せた。落胆に支配された玉座の間。
 
 しかし、傷を負った騎士は無事にやり遂げたことを、か細くも振り絞るように声を出し、それをかろうじて耳にすることが出来る王が、代弁するように皆に伝えた。
 
 一気に場の空気が明るくなる。
 
 ――王の思いは通じたのであった。そう、皆が歓喜し側に立つ者と強くお互いの手を握り合う。
 

 王都を占拠される苦渋を味わい、無理に奪還を考えていた思いをかなぐり捨て、矜持は自分の思いではなく、世界のためと改めた王は、騎士団に下知し、使者として古都へと向かわせた。
 
 むろんこれは死地に赴くと同義。無理強いを避け、志願した者達に託した。
 
 魔王との会談。それを行いたいということを不死王に伝えもらいたいと願いを伝える役目。
 
 古都を占拠し、王弟である大公を手中にし、次なる侵攻を考えていた矢先に、騎士団が決死の思いで、古都へはせ参じた思いをくみ取り、聞き入れる為の場を設け、不死王は願いを聞き入れた。
 
 不死王を介した願い。
 
 その日のうちに、魔王は、その申し入れをすんなりと受け入れた。
 
 あまりにも簡単だったので、裏があると疑いを持ちながらも、騎士団は会談の約束を取り付けたことに成功し、また、王弟や、残った家臣団、民たちの無事も知り、王へと伝えたい一心から、疲弊した体に鞭を打ち、急ぎ王都へと踵をかえした。

 ――――その道中。

 王都まであと六里という距離で、小休止を取っていた矢先、強襲を受けた。 
 
 迎え撃った騎士団と、襲いかかる獣の毛皮を体中に纏った蛮族。
 
 激しい剣戟のすえ、王への伝令を必ず果たさなければならないと、一人が馬に飛び乗り、それを死守するように、我が身を盾にする残りの騎士団。
 彼等の思いを馬の足に宿らせ、ここまでたどり着くことが出来た。
 
 王は、命がけの使者に頭を下げる。王が下げるが故に、一階の騎士に家臣団が王に続いて頭を下げた。
 
 ふらつく体でその対応に困惑しながらも、会談の日時を王へと伝え、ティアナが差し出した水を口にした騎士は、人心地ついたところで、襲われた蛮族のことを話し始めた。
 
 ――あれは、蛮族ではないと。
 
 では、ただの野盗だったのか。
 それとも魔物だったのか。
 やはり魔王軍の罠だったのか。
 と、家臣団は矢継ぎ早に、声が聞き取れるくらいの音量になった騎士に問う。
 
 騎士は全ての問いに否定の言葉と、首を左右に振る動きで伝える。
 
 ――では、何者だったのか。 
 家臣団に代わり王が問うと、騎士は、あれはこの国の兵達だと伝えた。
 
 剣の構え、打ち込み、体捌き。全てがこの国の兵達が学ぶ基礎動作そのものであったと、
 
 そんな馬鹿なと、言いたい者もいたようだが、それを口にすることは出来なかった。家臣団は皆、一点に目を向ける。
 
 マルケルが普段たつ王に隣接する場。空席となるその場。彼の決意が牙を剥いてきたと悟り、王はやおら目を閉じ、彼の決意に立ち向かってでも、会談を成功させねばならないと、目を見開き決意する。
 
 
 ――場が変わり、会談の当日。
 王都から離れたケルプト山の麓。霊山でもあるこの山は、現在、炎竜王が統治し、住まう地でもある。
 
 
 麓にて、魔王との会談のために、炎竜王、自らが出迎え、中腹にある自身の館へと案内するために同行する。
 
 ここから王の周囲は、相手を刺激しないために、最低限の人員で構成される。ティアナとニコ、そして家臣の中から腕の立つ三名からなり、王を守護するのは五人と、魔王軍が牙を剥けば、死から逃れることは出来ない構成であった。
 
 それでも信頼をしてもらうことに重きを置くための、今、王が相手に見せる最大の誠意である。
 
 馬上の人となり中腹までもうすぐといったところで、後ろより濛々と砂塵を舞わせ追跡する者達が近づいてくる。
 
 何事かと、炎竜王は階調色の髪を揺らしながら振り返り、王は彼女を刺激しないためにも、こちらの問題で有り、それをここまで持ってきたことを深く謝罪し、馬上の人から地に足を付ける存在になると、近づく砂塵に不動の姿勢で佇む。
 
 家臣三名にティアナとニコは、得物の柄に手を軽く乗せて警戒をするが、王は柄より手をどかし、普通にしていて欲しいと頼む。
 
 王の命ならばと、皆、それに従う。
 
 砂塵を舞わせる騎馬の集団は、不動の王が眼界に入ると、襲歩、駈足、速歩、常歩となり、王の前で止まる。
 
 目に入るだけでも三十騎。数は六倍と、脅威の数である。この日を見越してなのか、全員が洗練された、陽射しで煌めく鎧で身を固めている。
 
 先頭に立つマルケルが馬より下りると、それに合わせて残りが降りる。
 整った動き、練度の高さが窺える。
 勇将であるマルケルを慕う者達。むろん武の腕も一般の兵とは桁が違う。
 
 マルケルは最後通牒とばかりに、王にこの様な愚行はやめてもらいたいと願い出る。そうでなければと、マルケルは目を据わらせ柄を掴む。

 彼の読み違いは、この場に炎竜王がいたことだった。流石の武勇を誇るマルケルでも、彼女を相手にすれば、一瞬で灰にされることは理解出来る。

 だからこそ、マルケルは、これはこちら側の矜持の問題で有り、そちらは干渉しないことを望むと頭を下げた。

 もとより、王が同じ事を口にしていたので、炎竜王は干渉しないことを誓う。
 
 言質をとったマルケルは、再度、王にこの地より王都へと戻り、今一度、国の行く末を語り合いたいと、白刃を鞘から抜きだし伝えた。
 
 王は、中傷にもとれる発言をこれより発すると、炎竜王へ伝えて謝罪し、マルケスの脅しともとれる行動に、
 魔王軍の侵略と同様の行動を行うとは思わなかった。と、寂しさを滲ませて語る。
 
 これは浅慮であったと、マルケスも抜剣の行為を恥じたものの、もう後戻りの出来ないところまで来てしまい、それを作ったのは王であり、自分でもあると、
 王だけに罪をなすりつけることなく、自信も罪人であると、理解した上で剣を向けた。
 
 成否を正す最終決断は、自分の意志をぶつけあう、力と力の存在のみ。マルケスに躊躇はなく、白刃を振り上げる。
 
 それは攻撃の合図で有り、マルケスと同調した家臣や、麾下は彼に従い、例え王であろうとも。と、躊躇なく驀地してくる。
 
 王を後ろへと下がらせ、迫る三十に三人の家臣が剣を抜き迎え撃つ。
 
 狭い山道での戦い。驀地してきた先頭の兵は、三人の前で骸となり転がる。洗練された家臣の剣技。
 
 その間、ティアナとニコは躊躇して動けなかった。一度は得物の柄に手を置いたが、彼女たちが勇者として、それを支えるアサシンとして相手にするのは、人類の脅威たる魔王軍。
 それを相手にする覚悟は幼少から植え付けられたが、対人となると、少女、少年には迷いが生じてしまう。
 
 魔王軍相手なら、命を奪っても、退治、討伐というふうに思うことが出来るが、人の命を奪えば、人殺しである。
 
 
 ――剣戟の音が舞台から響く中、光が二人にだけ当たる。
 どうすれば良いのか、困惑する表情の少女と少年。
 そこに王にも光が当たり、
 二人は闘わなくてもいいと、優しく告げる。
 
 

 自分が愚かであったが故に、忠臣が自分に剣を向け、その剣から守るために忠臣が盾となる。この業を生み出した自らがこの運命に立ち向かわなければならない。
 
 王はそう言い、自らも抜剣し、三人の家臣達と共に前線に立つ。
 
 マルケルは前へと出た王に対し、一歩後退。王の迫力、威光などではなく、やはり躊躇が生まれてしまう。
 
 ――しかし、現状は反逆者。
 
 そんな自分に付き従い、先陣をきり骸と変わった配下を目にし、覚悟を決めたように諸手で、柄を搾るように力強く握ると、王へと目がけて突き進み、大きく口を開き咆哮。
 
 勇将のそれに、王を守る家臣も身じろぎをしつつも、守る者の前に立ち、振り下ろされる剣を防ごうと、剣脊けんせきで受けるが、剛力のマルケルの一振りを防ぐことが出来ず、家臣の首元に剣が入ると、マルケルはそのまま振り抜く。
 
 ガシャリと鎧が地に触れる音と共に、家臣の一人が倒れ、残った二人が王には触れさせんとばかりに遮る。

 振り下ろした剣を、力任せに振り上げるマルケル。王を守る一人の鎧にそれが直撃すると、衝撃で後ろへと飛ばされた。
 
 残った一人がマルケル目がけて刺突を仕掛けるが、剣脊を左腕で払いのけ。逆襲の刺突で、鎧ごと剣が家臣を貫く。
 
 刺された者は、死の直前まで王を守ろうとするかのように、マルケルの体にへばりつき、足並みを鈍重にする。
 
 マルケルはそんな彼を乱暴には扱わず、ゆっくりと地面に寝かせ、最後を看取る。
 同胞である。
 その死は汚すことが出来なかった。
 
 やおら立ち上がると、王へと、進む。
 
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