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熱砂地帯の二王
PHASE-12
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どうしよう……。
僕は今、地面に突っ伏したまま動けずにいる。
ここで動いてしまえば、ロールさんの絹を裂くような声が発せられてしまう可能性があるからだ。
そうなれば、何事かと、この状況を目にした方々によって、【のぞき魔】という、不名誉な称号を与えられてしまうだろう。
それだけは回避せねばなるまい。
幸いにも、ロールさんは突然の状況に困惑しているようだ。突っ伏していて周囲は窺えないが、声を出さないという事は、そういう事と認識して良いだろう。
ここで、僕が取る選択肢は、このままの体勢を維持だ。
これまた幸いに、僕の腰から下には、濡れたカーテンに覆われている感覚がある。下半身が隠されたのは、神の恩恵だと信じたい。これで、【露出狂】の不名誉な称号も避けられる。
――さあ、この重圧を耐えきるのだ。僕としては、このままの状態で、ロールさんがこの場より去ってくれる事を祈るだけだ。
――――――。
なぜ、動きがないのだろうか。お願い、ロールさん。さっさと、動いてください。決して顔を上げるという行為はしませんので!
「大丈夫なの?」
あの~。ここで心配されると、困るんです。優しさが辛いです。
首肯で返すだけに留める。さあ、僕が口を開かない事で察してください。今、この時こそ、この場から立ち去れる好機だという事を!!
「見られちゃったかな~」
「見てません!」
ぬぅ、言下で発してしまった。
見たと言っているようなものではないか……。
でも、見てないんです。不可抗力だったとしても、見てませんから。本当に……。
しかし、なぜにそんなに軽い口調なの? 大人の余裕なの? 一歳しか違わないけど、二十歳と十九歳では超えられない壁で隔たれているの? もしかして、これこのまま怒られないで済むのかな。
もし、そうなら僕は大いに助かります。
「私、左胸に大きなほくろがあってね、それがコンプレックスだったりするんだよね……」
「いやいや、そんなの無かったですよ。綺麗なピンク色しか……」
――――見てませんから。本当に……。と、思っていたが、あれは嘘だ……。
困った。お湯ではない体から吹き出すもので、体中がびっしょりになり始めた。そして、謀られた。僕が完全にロールさんの胸を見てしまった事が本人にばれてしまった。
「あの、不可抗力だったんです……」
女神の慈悲に後はすがるしかなかった。
でも、本当にわざとじゃないんです。この樽の不安定さが悪いんです。なにとぞ慈悲を与えてください!
地面にずっと這い蹲ったまま、許しをいただけるまで、耐えるしかない。
「気をつけないといけないよ」
パシャリと、湯船から出る音が耳朶に届く。僕は石のように、その場を動くかず、ロールさんが出て行くのを待った。
「とりあえず、荷役台の隙間から泥が跳ね返って、体、泥だらけだから、ちゃんと流すんだよ」
「わかりました」
足音が、遠ざかっていく。
僕はやおら頭を動かして、周囲の状況確認。
隣の樽風呂が丸見えな状態。
倒れた樽風呂。現在、側面が下になった状態。若干のお湯が残っている。
体に目を向ければ、カーテンで隠された下半身。本当に良かったと神に再度、感謝する。下全体が上手く隠れていた。
泥に触れたお湯が反射したものが体に当たり、波紋のような泥汚れが体前面全体を彩っていた。
「最悪だよ……もう…………」
でも、良かった。ロールさん怒ってなかったし、それどころか心配までしてくれた。僕との信頼感は揺るがないものかもしれない。
それに、不可抗力だったしね。それも理解してくれてたんだろう。やっぱり優しいよな~。ますます好きになってしまう。
――さあ、流そう。
――――。
ロールさんが入ってたんだ……。
――――いかん、いかん! 変態的な事が頭を支配しようとしていた。飲むなんてしないんで。ただ、残り湯で体を流すだけなんで。
飲むとか確実に歪んだおっさんの変態的な思考だから。僕まだ十九だから。そんな事はしませんよ――――。
――周囲を確認しているけども、飲みません。絶対に……。
バシャバシャと洗面器にお湯を汲んで流す。
「こぉぉぉぉ」
高鳴りを抑えるかのような息吹で呼吸を整える――――。
柔軟で筋肉をほぐして、腰をひねって、煩悩を絞り出す。雑巾を絞って水を出すイメージで、
――――。
なんて、素敵な夜空なんだ。最高じゃないか。この世に生まれた事に感謝。ありがとう。
僕はとっても冷静だ……。うん…………。
「ヒャッハー!」
高揚爆発で、女神の残り湯にダイブ。
冷静? 知るか! この世に生まれた事を感謝? ああ、感謝さ。女神の湯に浸かれるんだからね。
煩悩なんて絞り出せるかい! こちとら多感な十代なんだよ! なめんなよ!!
安心してください。飲みませんよ。そこまではやはり出来ませんから。
「疲れも次元の彼方まで飛んでいくってもんだ」
怒られなかったし、この状況を満喫出来ているし。
「最高だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
森全体に響く程の大音声だったね。
――――――。
テントに用意されてたのは寝袋だったけど、女神の湯船の効能で、寝心地は最高だった。
「おはよう」
「おはようございます」
笑顔でロールさんが挨拶をしてくれた。昨晩の事はやっぱり気にしていないみたいだ。よかった、よかった。
歯を磨いて、顔洗って、さあ、お仕事だ。
本来なら、昨日のうちに終わってた事だったんだけども。まあいいや、僕いま幸せだから。遅くなったからこそ発生したイベントだったしね!
僕は今、地面に突っ伏したまま動けずにいる。
ここで動いてしまえば、ロールさんの絹を裂くような声が発せられてしまう可能性があるからだ。
そうなれば、何事かと、この状況を目にした方々によって、【のぞき魔】という、不名誉な称号を与えられてしまうだろう。
それだけは回避せねばなるまい。
幸いにも、ロールさんは突然の状況に困惑しているようだ。突っ伏していて周囲は窺えないが、声を出さないという事は、そういう事と認識して良いだろう。
ここで、僕が取る選択肢は、このままの体勢を維持だ。
これまた幸いに、僕の腰から下には、濡れたカーテンに覆われている感覚がある。下半身が隠されたのは、神の恩恵だと信じたい。これで、【露出狂】の不名誉な称号も避けられる。
――さあ、この重圧を耐えきるのだ。僕としては、このままの状態で、ロールさんがこの場より去ってくれる事を祈るだけだ。
――――――。
なぜ、動きがないのだろうか。お願い、ロールさん。さっさと、動いてください。決して顔を上げるという行為はしませんので!
「大丈夫なの?」
あの~。ここで心配されると、困るんです。優しさが辛いです。
首肯で返すだけに留める。さあ、僕が口を開かない事で察してください。今、この時こそ、この場から立ち去れる好機だという事を!!
「見られちゃったかな~」
「見てません!」
ぬぅ、言下で発してしまった。
見たと言っているようなものではないか……。
でも、見てないんです。不可抗力だったとしても、見てませんから。本当に……。
しかし、なぜにそんなに軽い口調なの? 大人の余裕なの? 一歳しか違わないけど、二十歳と十九歳では超えられない壁で隔たれているの? もしかして、これこのまま怒られないで済むのかな。
もし、そうなら僕は大いに助かります。
「私、左胸に大きなほくろがあってね、それがコンプレックスだったりするんだよね……」
「いやいや、そんなの無かったですよ。綺麗なピンク色しか……」
――――見てませんから。本当に……。と、思っていたが、あれは嘘だ……。
困った。お湯ではない体から吹き出すもので、体中がびっしょりになり始めた。そして、謀られた。僕が完全にロールさんの胸を見てしまった事が本人にばれてしまった。
「あの、不可抗力だったんです……」
女神の慈悲に後はすがるしかなかった。
でも、本当にわざとじゃないんです。この樽の不安定さが悪いんです。なにとぞ慈悲を与えてください!
地面にずっと這い蹲ったまま、許しをいただけるまで、耐えるしかない。
「気をつけないといけないよ」
パシャリと、湯船から出る音が耳朶に届く。僕は石のように、その場を動くかず、ロールさんが出て行くのを待った。
「とりあえず、荷役台の隙間から泥が跳ね返って、体、泥だらけだから、ちゃんと流すんだよ」
「わかりました」
足音が、遠ざかっていく。
僕はやおら頭を動かして、周囲の状況確認。
隣の樽風呂が丸見えな状態。
倒れた樽風呂。現在、側面が下になった状態。若干のお湯が残っている。
体に目を向ければ、カーテンで隠された下半身。本当に良かったと神に再度、感謝する。下全体が上手く隠れていた。
泥に触れたお湯が反射したものが体に当たり、波紋のような泥汚れが体前面全体を彩っていた。
「最悪だよ……もう…………」
でも、良かった。ロールさん怒ってなかったし、それどころか心配までしてくれた。僕との信頼感は揺るがないものかもしれない。
それに、不可抗力だったしね。それも理解してくれてたんだろう。やっぱり優しいよな~。ますます好きになってしまう。
――さあ、流そう。
――――。
ロールさんが入ってたんだ……。
――――いかん、いかん! 変態的な事が頭を支配しようとしていた。飲むなんてしないんで。ただ、残り湯で体を流すだけなんで。
飲むとか確実に歪んだおっさんの変態的な思考だから。僕まだ十九だから。そんな事はしませんよ――――。
――周囲を確認しているけども、飲みません。絶対に……。
バシャバシャと洗面器にお湯を汲んで流す。
「こぉぉぉぉ」
高鳴りを抑えるかのような息吹で呼吸を整える――――。
柔軟で筋肉をほぐして、腰をひねって、煩悩を絞り出す。雑巾を絞って水を出すイメージで、
――――。
なんて、素敵な夜空なんだ。最高じゃないか。この世に生まれた事に感謝。ありがとう。
僕はとっても冷静だ……。うん…………。
「ヒャッハー!」
高揚爆発で、女神の残り湯にダイブ。
冷静? 知るか! この世に生まれた事を感謝? ああ、感謝さ。女神の湯に浸かれるんだからね。
煩悩なんて絞り出せるかい! こちとら多感な十代なんだよ! なめんなよ!!
安心してください。飲みませんよ。そこまではやはり出来ませんから。
「疲れも次元の彼方まで飛んでいくってもんだ」
怒られなかったし、この状況を満喫出来ているし。
「最高だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
森全体に響く程の大音声だったね。
――――――。
テントに用意されてたのは寝袋だったけど、女神の湯船の効能で、寝心地は最高だった。
「おはよう」
「おはようございます」
笑顔でロールさんが挨拶をしてくれた。昨晩の事はやっぱり気にしていないみたいだ。よかった、よかった。
歯を磨いて、顔洗って、さあ、お仕事だ。
本来なら、昨日のうちに終わってた事だったんだけども。まあいいや、僕いま幸せだから。遅くなったからこそ発生したイベントだったしね!
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