拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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ブートキャンプへようこそ♪

PHASE-07

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 その場にへたり込み、皆、もう動きたくないといったところだ――――。
 
 

 ――――疲れた体を引きずりながら、テントへ、
 
 分隊での使用だ。この演習中は、男女なんて関係ないようで、シナンさんも同じテントを使用するとの事。
 
 男女が同じところで寝食なんて、浮ついた気持ちになってしまう。
 ――――なんて――、こんな疲労下の中では、頭の中が桃色に染まるなんて事は、ありゃしない。
 そんな元気もない……。
 
 黙々と、配給された、お馴染みとなった、アイアンプレートこと堅パンハード・タックを手にして、どうやってこれを口にするかを考えていると、
「ホットミルク持ってきたニャ」
 と、光明を与えてくれる台詞で、シナンさんがトレーに乗せた湯気の上がるマグカップを四つテントに持ってきてくれた。
 
 僕たちは真っ先にそれに手を伸ばし、泥水に、ロープを渡る時の風の魔法にと、周りは砂漠なのに、そんなの関係ないと思えるくらいに冷え切ってしまった体。
 それを暖めたくて、両手で掴んで暖かさを堪能する。
 
 ふぅふぅと、しながら一口――――。

「あ゛ぁぁぁぁぁ――――」
 胃の腑に染みる美味さである。
 砂糖のきいた甘いホットミルク。これまで飲んできたどのホットミルクよりも美味いと常套句が脳漿に浮かぶ。
 
 この暖かなミルクがあれば、パンも少しはましに食べられるってもんだ。
 
 ただ、シナンさんは一人、
「熱いニャ!」
 って、見たまんま猫舌なようで、暖かさが伝える美味さと感動を、堪能出来ないでいた。
 一説には猫舌なんていないらしいけどね。
 舌で一番敏感な先端で真っ先に触れると熱いらしい。ようは舌の使い方が下手な人が猫舌だそうだ。

「シナンさん」

「ニャ?」
 舌を前に出さないで、前歯に舌を当てながら飲んでみてください。と、説明。
 下手な人は口から舌が自然と出てしまうから、一番敏感な舌先が熱に触れて熱がるらしいからね。
 訝しげにしつつも、僕の言葉を信じて飲むと、
「やっぱり熱いニャ! ピートさんはとんでもない嘘つきニャ!」
 どうも、人間と、猫の獣人ヴィルコラクは舌の構造が違うようだ。ごめんなさい。使えない知識をひけらかしてしまって。
 
 僕らのやり取りを、床に寝っ転がったまま笑って見ているロウさんとググタムさん。
 流石に泥まみれの状態じゃ、臥所ふしどに横になりたくないもんね。

「一応、風呂もあるそうですけど、入ります?」
 ロウさん、如何にも自分はもう疲れたから、入るのは嫌だな~って、感じを出しながら、僕に聞いてくる。
 ググタムさんも、ロウさんと同じ考えなのか、明らかに入浴に乗り気じゃない表情。
 反対に、シナンさんは入りたがっている。そこはやはり女の子である。

「僕は、入りますよ。疲れて面倒ですけど、入って体をほぐさないと明日がきつそうですし」
 それに、入浴して寝るのと、このままの状態で寝るのとでも、疲労の取れ方も違うだろう。泥まみれじゃ、落ち着いて寝る事なんて出来やしない。現在、都会在住のメンタルが顔を出してくる僕。
 それに、予備の服をもらっているとはいえ、洗わないままだと、今来てるのを今後使うとなると、泥まみれな状態。それは嫌だ。
 半長靴だってドロドロだから、風呂で一緒に洗いたい。これの予備はないからね。
 
 僕がそう意見すると、渋々といった感じで、僕に従おうとする。
 いや、別に自分のしたいようにすれば良いんじゃないかな……。
 
 ――――。

 ほうほう、樽風呂ではなく、大勢で入る岩風呂ですか。どうやって造ったんだろか? こんな広い場所。
 木製のしっかりとした仕切りもあるし、男性女性でここは分けてもらえて助かるね。
 こんな風に作ってもらえれば、昨日のような事にはならなかったのに……。

「どうしました?」
 ついつい思い出して、落ち込んでしまう僕に、ググタムさんが心配そうに顔を覗き込んできた。
 昨日の僕は、いい思いをした反面、思い出せば馬鹿な事もしていたし、救いようがなかったね……。
 ロールさんの残り湯ではしゃいでいた僕は本当に何だったのか……。本当に恥ずかしく、情けない。
 知られてしまったら、終わりだ……。絶対にこれだけは、誰にも語らず、墓の下まで持っていかねば!

「本当に大丈夫ですか?」
 再度の心配に問題ないと答えて、湯船に入る前に体の泥を流し、持参した、ドロドロの服と、半長靴をゴシゴシと手で入念に洗って、汚れを落としてから入浴。
 
 これだけ広いのに、僕たち以外いない。
 他の皆は、もう、寝てしまったのかな?
 
 仕切りの向こう側では、華やいだ声が聞こえてくる。やはり女性は、人間だろうが亜人だろうが、美に執着するようだ。
 おっと、いかんいかん。偏見いかん。
 
 体を揉みながら、夜空を見上げる。満点の星空だ。湯加減も熱くなく、ぬるくなく、丁度よい。長く入れる。

「こうやって、ゆっくりするのもいいですね」
 気持ちのいい息を漏らしながら、泥色から勝色に戻ったロウさん。
 その横ではググタムさんが、疲労とお湯の温もりから微睡んでいる。顔が湯に沈むとビックリして起き上がり、また、微睡んで――と、繰り返す様は笑えた。

「しかし、一般の方なのに、よくこなせましたね」

「いや~心折れかけましたよ。でも、僕以上に、重りを付けてる皆が頑張ってるんですからね」

「それだけの訓練を学舎でこなしてますから、下準備もない段階でやってるピートさんには感嘆ですよ」
 そう言われると悪い気はしないけども、隣を見れば、僕の体とは別物の筋肉の持ち主にそんな事を言われても、説得力が無いというか……。空しくなると言うか……。
 華奢だな、僕の体…………。
 
 ――――――。

 汚れも落として気分もいい。疲れもあるけど、入る前とは違う小気味よい疲労度といってもいい。
 風呂は偉大である。

「ピートさんが言ってた意味が分かりましたよ」
 と、微睡んでいたググタムさんが、体から湯気を上げて気分よさげに口にする。三人並んで、配給された冷えたミルクを一気飲みして、テントに戻り、外に訓練服と半長靴を吊してから、材木で簡単に作られた臥所に体を置く。
 
 少しでも疲労をほぐすために、ストレッチも欠かさず行う。
 見よう見まねで、二人も臥所の上で行っていると、綺麗なピンクの髪の毛に戻ったシナンさんが、髪の色みたいに肌の色を染めて、耳を気分よさげに動かしながら、僕たちの行動を目にすると、きっとやらなければいけないんだろうな。と、思ったようで、後に続いた――――。

「消灯!」
 短くもしっかりとした声がテント外から聞こえる。
 罵声を上げてた方々が見回りのようだ。規則正しい時間に寝て、早く起きるといったところか。
 
 ほのかな光を灯すランプの火を消してから、演習一日目を終える――――。
 
 ロールさんや整備長は今頃なにをしているのか……。
 僕のこと思ってくれてたりするのかな~。
 
 ――…………。
 
 そんな事を思いながら、記憶が薄れていく…………。 
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