拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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お兄様Incoming

PHASE-06

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「では、そのイーロン・クエストなるレースを止めてもらえませんか」

「なに言ってんだ女! んなこと出来るか!」

「ですが、個人で開いているレースですよね? 公のものでないレースじゃないですからね。まずは許可を取ってもらわないと。違反ですよ」 

「違反金をこっちは払ってんだよ。問題ないだろうが! そもそもここは甲鎧王様が統治してんだ! レースしようが自由だ」
 問題ないってのが、問題だよね。違反金払えばOKなんだから。
 だからこそ、好き勝手な振る舞い。まあ、統治下ですから自由ではあるけど、麓は貴方方の統治じゃないですからね。

「そうかもしれませんが、倫理で行動していただきたいんです。支払えば迷惑が発生しないというのは身勝手な考えですよ」
 強気な姿勢で、バッサリと否定。
 向こうとしては、ルール守って、支払いをしてやってるのに、なんだその態度は! と、顔は見えないけども、不愉快だというのが、体からにじみ出ている。
 平然と、流血させる事も厭わない方々のようだから、刺激しすぎると危険だ。

「これだから王都の奴はよ」
 お、なんだ? 何かしらの思い出でもあるのかな? 語調からして、いいものではなさそうだけども。

「偵察隊もさっさと村取って、そのまま王都を攻める足がかり作れば良かったのによ」
 偵察、村、王都。
 何だろうか。何かが引っかかる。どこかで経験しているような……。

「お芝居じゃないかな?」
 腕組みして考え込んでいたところで、僕が何を考えていたのかを理解していたようで、ロールさんが助言を与えてくれる。

「ああ!」
 お祭りの時の芝居が蘇る。
 王様が湯治に出かける時のシーンで、村に攻めてきた魔王軍。
 風体は鎧を纏っていたな。
 あれって、この方々の仲間なんだ。
 てっきり、魔族っぽく見せるために、禍々しい鎧を纏わせた演出だと思っていた。あのお芝居って、そこまで細かくこだわってたんだな。
 ――――見れば見るほど、得心がいく。
 得心がいくからこそ、この方々が危険な存在なのも理解出来る。あんまり刺激を与えると、本当に命を奪いにくるかも。

「とにかく――だ。女。俺たちは止めねえよ。お前等の倫理なんかに付き合う義理も無いしな」
「心が狭い方々ですね。自信が無いのかな。だから全身を隈無く鎧で覆ってるんですね」
「女。俺たちのこれはポリシーだ。甲鎧王様の配下だぞ。分かれよ」
「貴方方のポリシーを理解してあげる義理なんて無いです」
 やめましょう。それ以上はいけない。相手の語気が明らかに低くなってます。本気で命を取ろうと考えてますよ。
 無謀とは思いつつも、僕は護身のために、コートの下に忍ばせた銃に手を伸ばす。グリップに指がちょっと触れる状態で待機。
 動かれたら、素早くグリップを握れるように。

 ――。

『レースは一時中止~連れてこい』
 雪原に響く。
 今にも飛びかかりそうな状況だったその時に、軽い調子の声。
 ピタリと動きが止まる。
 ――と、思いきや。

「勘弁してくださいよ。邪魔されてこけにされてんですから」
 空を仰いで反対する一人が、ロールさんに接近。指呼の距離で食指を伸ばしてくる。
 ガントレットの指先部分は鋭利に尖り、触れるものを切り裂けそうだ。
 それを理解しているから、ロールさんの服に沿う仕草。
 着ている物を切って、寒空の中で肌を晒してやろうかという考えが窺える。
 変態め! 服の生地に触れてないとはいえ、女性に対して侮辱的だ。
 ロールさんが騎乗していたグライフ君に目を向ける。
 意気込みが伝わる視線を僕に送り返してきたので、顎をしゃくって、ロールさんに近づいた奴に顎先を向ける。
 瞬間、グライフ君の強靱な前脚が顔面に目がけて打ち込まれた。
 兜が大いにひしゃいで、豪快に吹き飛ぶ。兜飾りクレストが派手に舞い散る。
 雪に埋もれる体。足だけが視界に入る。ピクピクと動いております。
 一瞬のしじまから、
「何してんだ! この鳥!」
 一人が吠える。
 それを合図に一気に臨戦態勢。

「キュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 普段、鳴かないグライフ君が甲高く、耳朶に響く声を山脈に木霊させ、【うちの主人の肌に触ろうとするな! やっちまうぞゴラァァァァァァァァ!!】とばかりに威嚇し、体を低くして、巨体を更に大きく見せるように翼を広げてから睨み付ける。
 それに続いて、【やんの? んの?】と、残りのグライフ君も臨戦態勢。
 普段は乗って移動だけの存在だから、あまり気にも止めてなかったけども、大型の幻獣、それも三頭が戦おうとする意志を見せる姿は圧巻だ。猛禽の目つきが完全に狩りの体勢。
 鎧を纏った連中も、流石に脅威を覚えているようで、後退りだ。グルルル――って、唸ってたヘルハウンドさんの同族さんも、雪毛に覆われた尻尾が後足の間に巻き込んで、恐怖を感じている。
 大抵のモンスターなら瞬殺出来る力を持っている幻獣が三頭。怯むのもしかたない。

「はいはい、落ち着いて」
 グライフ君の背中を優しくさすってあげることで、ロールさんが興奮状態を解いてあげようとする。
 意志が伝わるように、低くした体をいつもの位置に戻す。

「お前等な!」
 臨戦態勢をといた途端に、こちらに戦闘の意志が無いと理解するや、強気に戻るも、
『お前等さ~俺の命令聞こうか~』
 再び雪原に響く声。
 先ほどと違い、軽い調子の中に、些か怒りの感情が交じっている。それを感じ取ったのか、こっちに迫っていた足を止める。

『じゃあ、もう一回だ。連れてこい』
 渋々とした態度を見せながらも、集団は僕たちを誘導するように、橇を反転させ、グライフ君に跨がるのを確認すると、進み出した。

「帰りたい~」
 先ほどまで雪の中に隠れていたペトロム整備長が、泣きそうな声を出して、必死に整備長にしがみついている。
 おっさん二人のそれは見てるだけで辛くなってくるね……。
 そう思える余裕が出来たのは、何事も無かった事でほっとしているからかな。
 
 飛翔するグライフ君は当たり前に乗っているけど、襲歩のグライフ君に騎乗するのは新鮮だな。
 雪深い山を、駿馬並みの速度で走れるんだな~。優秀ですね~。我らが幻獣様。

「怖くなかったですか?」
 露骨にいやらしい脅しにも似た所作に、内心では恐怖に支配されていたのではと、心配してしまう。

「怖かったよ」
 併走するロールさんが僕の方に顔を向けて、何も無くて安堵した表情だった。流石にあそこまで攻撃的な態度を取ってくる方々は、今まで出会った事が無かったですからね。 
 カグラさんが王都周辺の担当で良かったと心から思える。
 こんな連中ばっかりだったら、間違いなく王都近辺は戦いの絶えない場になっていたに違いない。
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