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お兄様Incoming
PHASE-15
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――――街に到着すると、ペトロム整備長が体に似合わない身軽さで、積もった雪なんてなにするものぞとばかりに疾走し、イーロン整備局に入っていく。
――整備長の活躍を皆さんに伝えていると想像出来る。
だって、整備長が僕の横で、すっごく調子に乗った笑顔だもの。
間違いなくグライフ君に騎乗している間も、後ろに座るペトロム整備長に相当に盛った話をしたに違いない。
下手したら、甲鎧王は俺が殴りつけて言う事を聞かせたとも言っている可能性もあるな。そうなると、墓穴ですからね。
そんな事が出来るわけ無いというのは王都では周知の事実ですからね。盛った話だけは回避しとかないと、また相手にされなくなりますよ。
足下だけはすくわれないように慎重にやってください。
――――。
イーロンの整備局の方々は、話がついた事に驚きもありつつ、そんなまさかと信じられないのか、怪訝な面持ちだった。
更に僕たちに遅れて甲鎧王の一団が街を訪れると、恐怖で皆さん及び腰。局内に逃げ込み、窓から状況を窺うといったところ。
住人の方々も、甲鎧王の姿に、いよいよ街まで攻めてきたと思い、この世の終わりを迎える覚悟なのか、恐怖を通り越して、もはや無表情だ。
まったく、甲鎧王が原因で、随分とイーロンの街の方々の心は、細く折れやすいものに変わり果ててしまったんだね~。
「お待たせしました」
終わりを想像していた方々は、自分たちの目を疑っているようで、まなこを擦り、なんども整備長の――、正確にはロールさんの前で跪く甲鎧王と配下を眺める。
見ては目をつぶり、そして擦り、また見る。これをずっと繰り返している。
今までの甲鎧王の態度からしたら、信じられないんだろうね。
僕としては、整備長の立ち方が信じられないよ。
上手い具合に衆目が注がれる位置に立っているんだ。位置はロールさんの斜め後方。
実際はロールさんに跪いてるのにね。腕組みで胸を張る仁王立ちで、周囲から見れば、整備長に服従しているように見えるね。
狡猾というか、処世術が巧みというか……。
感心するよ、本当に…………。
「よく来た。さあ、謝罪行脚だ。出来ないなら、邪神様が義妹様の為にまた来るぞ。たった一言で直ぐ来るからな! また味わうか? 地獄を」
【出来ないなら――――】のところから、周囲に聞こえない感じで言うところが小物ですね。整備長。
邪神の義妹様には忠誠を誓っているようで、ご命令は絶対とばかりに、甲鎧王は街の中を歩き回り、一軒一軒に赴いて頭を下げ、慰謝料の入った革袋を手渡していった。
その間、僕たちは、整備局で暖と軽食を取る。
付き添うべきなんだろうけど、ロールさんの威光もあるし、暴れることはないだろうから、当事者だけで動いてもらう。
謝罪行脚は問題無く行われているようで、ここに来たばかりの時には耳にすることが出来なかった住人の方々の明るい声が、外の方から僕の耳朶に届いてくる。
そして――、何とも厳禁なもので、甲鎧王の脅威が無くなったと街中に知れ渡ると、心身共に疲れ切ってしまったイーロン整備局、局長のアームラン氏が局の入り口である二重構造のドアを、バン、バンと激しく音を立てて開き、入室してくる。
よほど急いでいたんだろう。寝間着姿のままだ。
寝込んでたというのは真実みたいだ。ガリガリだね。死相が見えるくらいに……。どれだけストレスを貯め込んでいたのか。
「やってくれたのか!?」
寝癖ボサボサの栗色の髪。
キョロキョロと忙しなく目を動かし、マッケンチーズを口に運んでいる僕たちを見つけると、
「よくやってくれました!」
突進するかのような勢いと、現状の体躯から想像出来ないくらいの大音声。
整備長の前で、鼻息荒く立ち止まる姿はちょっと怖かったから、三人して椅子から腰を浮かせてしまった。
「ありがとう。ブートガイ君。本当にありがとう……」
泣き始めたよ。
どれだけ追い込まれてたんだよ。
整備長の諸手をガッシリと手にして、膝を突く姿。救いを求める者の前に現れた神でも見るかのような眼差し。
英雄視されて、まんざらでもないおっさん。
よかったね。これでイーロンの整備局も通常運転になるね。
――。
「ありがとうね」
「何がです?」
「必死になって、私を助けようとしてくれたでしょ」
すっと、左頬に手を当てられた。
ズキリと痛みが走って、反射的に左目を閉じてしまった。
「ご、ごめん」
「いえ、問題ないです」
でも、よくよく考えると危ない橋を渡ってしまった。
もし、甲鎧王の悋気にふれて、力を込めて殴られていたら、即死だったよね。
きっと、首から上がスプラッシュだったにちがいない。気温が原因ではない寒さが背中に走る……。
無理をしてはいけないね~。
でも――――、無理したおかげで、この笑顔を救えたわけだから、いいとしますかね。
ほっぺを触ってもらえたし。ご褒美だと思おう。
「宴だ!」
何が宴だ。寝間着姿を何とかしろ。
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉ! 支払いは甲鎧王でお願いね」
コイツ等……。ここまで現金な奴らもいないだろう。他力本願のイーロン整備局め! 僕たちの苦労も知らないで。
「酒だぁぁぁぁぁぁ! この英雄様に酒を持ってくるんだぁぁぁぁぁぁぁ」
くそ! イーロンの連中が曇ってしまうくらいに現金な男が僕の上司だったな。
英雄とか! 一応、甲鎧王に口は出してたけども、ロールさんが抱き上げられた時なんて、僕だけじゃないか。動いてたの。
僕をもてはやせよ…………。
――――クソ寒い空の下で、街中の人々が広場に集まり、祭りが始まりました。
――整備長の活躍を皆さんに伝えていると想像出来る。
だって、整備長が僕の横で、すっごく調子に乗った笑顔だもの。
間違いなくグライフ君に騎乗している間も、後ろに座るペトロム整備長に相当に盛った話をしたに違いない。
下手したら、甲鎧王は俺が殴りつけて言う事を聞かせたとも言っている可能性もあるな。そうなると、墓穴ですからね。
そんな事が出来るわけ無いというのは王都では周知の事実ですからね。盛った話だけは回避しとかないと、また相手にされなくなりますよ。
足下だけはすくわれないように慎重にやってください。
――――。
イーロンの整備局の方々は、話がついた事に驚きもありつつ、そんなまさかと信じられないのか、怪訝な面持ちだった。
更に僕たちに遅れて甲鎧王の一団が街を訪れると、恐怖で皆さん及び腰。局内に逃げ込み、窓から状況を窺うといったところ。
住人の方々も、甲鎧王の姿に、いよいよ街まで攻めてきたと思い、この世の終わりを迎える覚悟なのか、恐怖を通り越して、もはや無表情だ。
まったく、甲鎧王が原因で、随分とイーロンの街の方々の心は、細く折れやすいものに変わり果ててしまったんだね~。
「お待たせしました」
終わりを想像していた方々は、自分たちの目を疑っているようで、まなこを擦り、なんども整備長の――、正確にはロールさんの前で跪く甲鎧王と配下を眺める。
見ては目をつぶり、そして擦り、また見る。これをずっと繰り返している。
今までの甲鎧王の態度からしたら、信じられないんだろうね。
僕としては、整備長の立ち方が信じられないよ。
上手い具合に衆目が注がれる位置に立っているんだ。位置はロールさんの斜め後方。
実際はロールさんに跪いてるのにね。腕組みで胸を張る仁王立ちで、周囲から見れば、整備長に服従しているように見えるね。
狡猾というか、処世術が巧みというか……。
感心するよ、本当に…………。
「よく来た。さあ、謝罪行脚だ。出来ないなら、邪神様が義妹様の為にまた来るぞ。たった一言で直ぐ来るからな! また味わうか? 地獄を」
【出来ないなら――――】のところから、周囲に聞こえない感じで言うところが小物ですね。整備長。
邪神の義妹様には忠誠を誓っているようで、ご命令は絶対とばかりに、甲鎧王は街の中を歩き回り、一軒一軒に赴いて頭を下げ、慰謝料の入った革袋を手渡していった。
その間、僕たちは、整備局で暖と軽食を取る。
付き添うべきなんだろうけど、ロールさんの威光もあるし、暴れることはないだろうから、当事者だけで動いてもらう。
謝罪行脚は問題無く行われているようで、ここに来たばかりの時には耳にすることが出来なかった住人の方々の明るい声が、外の方から僕の耳朶に届いてくる。
そして――、何とも厳禁なもので、甲鎧王の脅威が無くなったと街中に知れ渡ると、心身共に疲れ切ってしまったイーロン整備局、局長のアームラン氏が局の入り口である二重構造のドアを、バン、バンと激しく音を立てて開き、入室してくる。
よほど急いでいたんだろう。寝間着姿のままだ。
寝込んでたというのは真実みたいだ。ガリガリだね。死相が見えるくらいに……。どれだけストレスを貯め込んでいたのか。
「やってくれたのか!?」
寝癖ボサボサの栗色の髪。
キョロキョロと忙しなく目を動かし、マッケンチーズを口に運んでいる僕たちを見つけると、
「よくやってくれました!」
突進するかのような勢いと、現状の体躯から想像出来ないくらいの大音声。
整備長の前で、鼻息荒く立ち止まる姿はちょっと怖かったから、三人して椅子から腰を浮かせてしまった。
「ありがとう。ブートガイ君。本当にありがとう……」
泣き始めたよ。
どれだけ追い込まれてたんだよ。
整備長の諸手をガッシリと手にして、膝を突く姿。救いを求める者の前に現れた神でも見るかのような眼差し。
英雄視されて、まんざらでもないおっさん。
よかったね。これでイーロンの整備局も通常運転になるね。
――。
「ありがとうね」
「何がです?」
「必死になって、私を助けようとしてくれたでしょ」
すっと、左頬に手を当てられた。
ズキリと痛みが走って、反射的に左目を閉じてしまった。
「ご、ごめん」
「いえ、問題ないです」
でも、よくよく考えると危ない橋を渡ってしまった。
もし、甲鎧王の悋気にふれて、力を込めて殴られていたら、即死だったよね。
きっと、首から上がスプラッシュだったにちがいない。気温が原因ではない寒さが背中に走る……。
無理をしてはいけないね~。
でも――――、無理したおかげで、この笑顔を救えたわけだから、いいとしますかね。
ほっぺを触ってもらえたし。ご褒美だと思おう。
「宴だ!」
何が宴だ。寝間着姿を何とかしろ。
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉ! 支払いは甲鎧王でお願いね」
コイツ等……。ここまで現金な奴らもいないだろう。他力本願のイーロン整備局め! 僕たちの苦労も知らないで。
「酒だぁぁぁぁぁぁ! この英雄様に酒を持ってくるんだぁぁぁぁぁぁぁ」
くそ! イーロンの連中が曇ってしまうくらいに現金な男が僕の上司だったな。
英雄とか! 一応、甲鎧王に口は出してたけども、ロールさんが抱き上げられた時なんて、僕だけじゃないか。動いてたの。
僕をもてはやせよ…………。
――――クソ寒い空の下で、街中の人々が広場に集まり、祭りが始まりました。
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