拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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異文化

PHASE-05

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「どうでしょうか、嶺庵りょうあんの造りは」
 この建物の名前だそうだ。
 率直な感想を述べるなら、まあ、狭いよね。
 建物は茶室だそうで、お茶を飲むための建物だそう。
 わざわざお茶飲むために、別に建物を建てるってどうよ? 最初に迎えいれられた部屋でもいいじゃない。
 正直、向こうの方が広かったし。
 
 三畳台目さんじょうだいめと呼ばれる作りの茶席。これよりも狭い空間があるそうだ。
 ――――前言撤回しよう。もっと、狭いところでも良かった!
 ロールさんと肩が触れそうなこの距離。これより狭いなら、完全に密着出来てたわけか……。おしい! 実におしい!!
 で、なんでこんなに狭いのかというと、狭いところで一つの茶碗でお茶を飲み、信頼関係を作っていくとか、密談をするのには狭いのもいいという事から、このような狭い空間の建物が出来たそうだと、諸説ある中から教えてもらった。

 まあ、それが伝統になって、今もこんな狭い感じなんだそうな。 
 もてなしの最中にも、話し合いもするわけだから、場所としては、お似合いではある。
 ――でも、信頼関係や密談なんてどうでもいい。
 一つの茶碗を使って飲むだと……。そこだけが凄く引っかかるんだよ。
 てことは、この並びの順番でいくと、僕が一番最初に飲む事になるのだろうか――。
 それは困る。 
 そう! 困る!!
 ロールさんの後じゃないといけないんだ。そうする事で、ロールさんと間接チューが合法的に出来る。
 お茶の前に、ごくりと、唾を飲んでしまう。
 まさか、この様な僥倖に恵まれるなんて。
 なんて素敵なんだ。茶室。ワギョウの伝統、最高!
 
 ここは、上役からという事を利用して、整備長に先に飲んでもらおう。
 リスクとしては、整備長との間接チューの可能性もあるが、どの部分で飲んだかを凝視しておけば、そのリスクは容易に避けられるものだ。
 そして、ロールさんの飲み口は、絶対に瞬きもせずに、目に焼き付けなければならない。茶碗の作りから、目印になるようなもの全てを記憶する! 見逃せば、舌をかみ切る、絶命の覚悟で挑むのだ。
 顔には出すな。心理戦もまだ始まっていない。とにかく、整備長から先に飲ませる事に誘導を優先だ。
 あのおっさん、まだ気付いていないはずだ。
 お奉行の話は聞いているような顔して、聞いていない。そんな男だ。きっとそうだ。
 
 現に一つの茶碗を使ってのくだりを耳にしても、表情は変わらなかった。おっさんの事だ、おいしい思いが出来ると分かったら、目の色が変わるはず。
 だが、その動きはなかった。気取られたくないから表情には出さなかった? いや、それはない。おっさんはおいしい話が出たら、直ぐに顔に出る。
 ――――OK。聞いていないと考えて良い。
 顔には出すなよ。僕だって、直ぐに顔に出ると指摘されるからな。クールに行こう。クールに――――。
 僕は今、百発百中の浄天眼じょうてんがんのスキルを持つ狩人ヤークトだ。息を止め、狙いを定めて、銃の引き金を引くかの如く――――、だ。
 僕は射撃の腕だけは、演習生の中でもよかったからね。成し遂げてやる!
 フハハハハハハハ――――。行ける。行けるぞ! 高まれコンセントレーション。間接チューは我が物よ!!


 

「異文化ということもあり、作法を押しつけるのも不作法。今回は皆様のために、茶碗を三つ用意しました」
 チキショウめ!!
 おぶぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!
 てめえ、この野郎!! こんな時に気の利きすぎた事をやるんじゃないよ!
 おもてなしも度が過ぎると、迷惑行為なんだよ!
 何のために僕が脳内で色々と巡らせてたと思ってたんだ。水泡だよ、水泡に帰するとは正にこの事!
 なんという、皮算用か……。一人で浮かれて。
 とんだピエロだよ。

 おのれ、お奉行! 余計な事を、腹を召されよ! あれだろ、この国の戦士達は失態をすると、腹を切るとかいう野蛮なHARAKIRIなる自決行為を行うんでしょ。やりなさいよ。

「どうしたの?」
 ふてくされてるんですよ。貴女と間接チューしたかったから。
 血涙が出せるなら、出してるところですよ。
 ――――は! 整備長は!?
 ――――ぼけっとしてやがる! 僕と同じ考えたかみにはやはり至っていなかったか!
 なんという事だ……。このまま、茶碗一つだったら、間違いなくロールさんと間接チュー出来てたのに。
 間接チュー……。
 
 ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――……。

「痛い!!」

「どうされました?」
 僕の苦痛の声に、お奉行が心配そうな声を上げてくる。

「なんの問題もないです」
 と、代わりに言ってくれたのはロールさん。
 笑顔のまま僕を睨んでおります。
 どうやら、僕は暴走気味になっていたようだ。唇が尖って、ロールさんに迫ってでもいたのだろうか。
 つねられた太ももが痛い。

「更に、落ち着きある人間になるために、もう一回、二王さんの演習行く?」
 小声のそれに、左右に勢いよく首を振って返した。
 
 ――――真面目に、この空間を堪能させていただきます。
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