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ITADAKI-頂-
PHASE-34
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「はっ」
刺突を放った姿勢から体をよじり右手一本でムツに横薙ぎ。
身を低くして回避し、立ち上がる反動を利用して後方に跳躍。
動きを読んでいたサージャスは、
「うかつ!」
の、言葉と共に、木刀の切っ先を床に当て、それを軸としムツに向かって跳び蹴り。
「うぅぅん……」
胸に入る。
痛みからムツの表情が歪む。
決勝の初撃はサージャスが得る。
「ごほっ……本当にうかつだ」
と、サージャスの台詞を咀嚼し、嚥下し、吐き出す。
ドレークとの戦闘から成長していない自分に歯がゆさを抱いてしまう。
手にする棒きれを目にして、これだけを使って戦ってきた経験しかないから、これだけが強力な攻撃手段と体に染みついている。
「悪癖だな」
サージャスに見舞われた胸部ではなく、腹部をさする。
ドレークの一撃を思い出す。
成長しないから攻撃を受ける。受けないためには、手にしているもの以外も強力な武器となる事を意識しなければならない。
この二戦で、それをいい加減、体に染みこませなければいけない。
今更こんな事を覚えなければならないとは、如何にぬるま湯に浸かった戦いの世界に存在し、ワギョウ十指に入る実力者と敬われていた事を意にも介していないつもりだったが、心底では誇らしく思っていたのでは? とすら考えてしまう。
これでは剣聖への道のりはまだまだ先だと猛反省であるが、その間もサージャスの攻撃はやまない。
「はぁ!」
痛みで歪むところに快活なかけ声を発して攻め立てられる。
自然と足捌きが回避重視のものになるが、体に染みついたそれに、頭から留まるように指示を出し、足を止め、サージャスの上段からの振り下ろしを柄頭で受け止める手練の捌きで事なきを得る。
続いて左手でサージャスの襟首を掴み、力任せに自分に近づけ、捌いた柄頭でそのまま顎先を狙う。
「つぅ……」
かろうじて迫る柄頭を左の掌で受け止めるが、拘束の状態。
順手で持つ木刀では密着しているため、決定打にかけ、足技をしかけようとも考えるが、それよりも早く、逆手で持つ、柄を使った速さのある零距離からのムツの攻撃を防ぐ事に集中しなければならない状況。
サージャスも、ならばと、柄で攻めてみるが、襟首を掴まれると同時に、右腕が上がらないように、ムツの左腕が妨げており、前腕だけの力の入らない攻撃が精一杯である。
――――みるみると攻撃を防ぐサージャスの掌が腫れていき、内出血により青黒く染まっていく。
「前戦終了後の回復。恩はある。だが、容赦なく。容赦なく――――」
独白で、念仏を唱えるように呟くムツ。
掌から先が引きちぎられそうな感覚と激痛に襲われ、耐えがたいその痛みに、アメジストの瞳から涙が流れ、玉のような汗は、じっとりとした脂汗へと変わる。
ムツは試合だけの経験しかない事を捨て去るように、非情を自らにすり込ませていくように同じ台詞を呟き続け、サージャスの防御が崩れるのをただひたすら待つように打ち続ける。
見ている者たちは一応に自らの左手を擦ったり、おさえる仕草。
「あぁ……」
根が尽きてしまったかのような呻きにもにた叫びが闘技場に響くと、少女の痛々しい様に目を背ける者も現れる。
――。
「エグいもんだ……俺の時とは変わったな。いや――最後の方で片鱗は見せたか。戦いに容赦がない。生き残るため――――、勝つためには手段を選ばないって感じだな」
「淡々と言わないでくださいよ!」
解説調だったのが無性に腹立たしかったのか、ピートはドレークに、焦燥から来る怒りをぶつける。
大人なドレークは〝失言だった〟と、頭を下げる。
そして、ゆっくりと頭を上げ、ピートに強い眼力を向けると、
「声をかけてやるのは、違反でも卑怯でもないんだぞ」
そう言われて、ここで何もしないのは男として恥とばかりに、
「まだまだ、これからですよ! サージャスさんならやれます!」
しじまな状態になった闘技場に響き渡ったピートの声。
刺突を放った姿勢から体をよじり右手一本でムツに横薙ぎ。
身を低くして回避し、立ち上がる反動を利用して後方に跳躍。
動きを読んでいたサージャスは、
「うかつ!」
の、言葉と共に、木刀の切っ先を床に当て、それを軸としムツに向かって跳び蹴り。
「うぅぅん……」
胸に入る。
痛みからムツの表情が歪む。
決勝の初撃はサージャスが得る。
「ごほっ……本当にうかつだ」
と、サージャスの台詞を咀嚼し、嚥下し、吐き出す。
ドレークとの戦闘から成長していない自分に歯がゆさを抱いてしまう。
手にする棒きれを目にして、これだけを使って戦ってきた経験しかないから、これだけが強力な攻撃手段と体に染みついている。
「悪癖だな」
サージャスに見舞われた胸部ではなく、腹部をさする。
ドレークの一撃を思い出す。
成長しないから攻撃を受ける。受けないためには、手にしているもの以外も強力な武器となる事を意識しなければならない。
この二戦で、それをいい加減、体に染みこませなければいけない。
今更こんな事を覚えなければならないとは、如何にぬるま湯に浸かった戦いの世界に存在し、ワギョウ十指に入る実力者と敬われていた事を意にも介していないつもりだったが、心底では誇らしく思っていたのでは? とすら考えてしまう。
これでは剣聖への道のりはまだまだ先だと猛反省であるが、その間もサージャスの攻撃はやまない。
「はぁ!」
痛みで歪むところに快活なかけ声を発して攻め立てられる。
自然と足捌きが回避重視のものになるが、体に染みついたそれに、頭から留まるように指示を出し、足を止め、サージャスの上段からの振り下ろしを柄頭で受け止める手練の捌きで事なきを得る。
続いて左手でサージャスの襟首を掴み、力任せに自分に近づけ、捌いた柄頭でそのまま顎先を狙う。
「つぅ……」
かろうじて迫る柄頭を左の掌で受け止めるが、拘束の状態。
順手で持つ木刀では密着しているため、決定打にかけ、足技をしかけようとも考えるが、それよりも早く、逆手で持つ、柄を使った速さのある零距離からのムツの攻撃を防ぐ事に集中しなければならない状況。
サージャスも、ならばと、柄で攻めてみるが、襟首を掴まれると同時に、右腕が上がらないように、ムツの左腕が妨げており、前腕だけの力の入らない攻撃が精一杯である。
――――みるみると攻撃を防ぐサージャスの掌が腫れていき、内出血により青黒く染まっていく。
「前戦終了後の回復。恩はある。だが、容赦なく。容赦なく――――」
独白で、念仏を唱えるように呟くムツ。
掌から先が引きちぎられそうな感覚と激痛に襲われ、耐えがたいその痛みに、アメジストの瞳から涙が流れ、玉のような汗は、じっとりとした脂汗へと変わる。
ムツは試合だけの経験しかない事を捨て去るように、非情を自らにすり込ませていくように同じ台詞を呟き続け、サージャスの防御が崩れるのをただひたすら待つように打ち続ける。
見ている者たちは一応に自らの左手を擦ったり、おさえる仕草。
「あぁ……」
根が尽きてしまったかのような呻きにもにた叫びが闘技場に響くと、少女の痛々しい様に目を背ける者も現れる。
――。
「エグいもんだ……俺の時とは変わったな。いや――最後の方で片鱗は見せたか。戦いに容赦がない。生き残るため――――、勝つためには手段を選ばないって感じだな」
「淡々と言わないでくださいよ!」
解説調だったのが無性に腹立たしかったのか、ピートはドレークに、焦燥から来る怒りをぶつける。
大人なドレークは〝失言だった〟と、頭を下げる。
そして、ゆっくりと頭を上げ、ピートに強い眼力を向けると、
「声をかけてやるのは、違反でも卑怯でもないんだぞ」
そう言われて、ここで何もしないのは男として恥とばかりに、
「まだまだ、これからですよ! サージャスさんならやれます!」
しじまな状態になった闘技場に響き渡ったピートの声。
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