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ITADAKI-頂-
PHASE-35
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欄干から上半身を乗り出す見慣れた光景。落ちてはまずいとロールがしっかりと抑えている姿も見た光景。
「声援に応えないと、勇者の名折れ」
「もう、諦めるべきだ」
トドメとばかりに、木刀を握る手に渾身の力をこめて、美しい少女には似合わない腫れ上がった掌ごと、柄頭で顎をねらう。
「諦められない。勇者として退くわけにはいかない。声援を受ける限り」
開いていた掌をグッと握り、拳を作る。
「!! つぅぅ……」
指一本を動かすだけで体中に電撃に似た激痛が走るのに、五指すべてを動かすサージャスは、痛みで失神に襲われそうになる。
それを気力で撥ね除け――、
「はぁ!」
ムツが木刀を手にする右手にその拳を叩き付けた。
「失策。前戦と同様の過ち……」
ドレークも自らの右腕を贄に捧げた。
サージャスもこの状況を打破する為に、左手を贄に捧げたようなもの。
これだけ痛めているのだから、よもやそちらで攻撃をしてくるとは思ってもいなかったし、見舞われたところで些末な一撃と高をくくってしまっていた。
先ほど徹底して手に持つ以外の物も脅威となると、体に染みこませねばと考えていたのに、結果がこれ。
「ぐう……」
ムツから苦痛の声。
木刀を落とす事こそ無かったが、手首に走る痛みはかなりのもので、腫れ上がった手から繰り出された拳とはとうてい想像出来ない威力だった。
(覚悟の重みが宿っている……小生とは違う)
加えて、自身の進歩のなさと、サージャスの思いの強さに当てられて、精神的にも衝撃を受けてしまう。
それらの痛みで、一瞬だが動きが止まるムツ。
黄金の時間が出来たと、サージャスは腹筋を使い膝を上げ、執拗に自分の顎を狙ってきたムツの顎を射抜く。
「がっ!」
弓なりになり、フラフラと後退り。
体勢を整えようとするも、顎の痛みと、脳の揺れによって定まらない視界。
懸命に捉える眼界に入ってくるのは、痛めた左手をだらりとさせながらも、右手に持った木刀の切っ先を床に擦らせながら迫る拘束から解放された少女の姿。
(まずい……)
心底で焦燥しつつ、迎撃へと思考を切り替えるが、見事に顎を打ち抜かれているために、今にも膝が砕け落ちそうで、それに耐えるのが精一杯。
迎撃する事を除外して、防ぐ事だけに傾倒。
自分に比べればか細い腕。それが右手一本で木刀を握り、斬り上げを見舞ってくる。
(防ぐ!)
まずはこの一撃をしっかりと防ぎ、距離を取って、定まらない視界だけでも回復させねばと画策。
諸手で柄を絞り込むように握り、サージャスの斬り上げを横凪で払う。
木の心地のよい音とは裏腹に、
「なんだと!?」
ムツは自分の体が浮き上がった事に驚く。
焦点が合い始めたところで、いったい何が起こったのかを確認する。
サージャスの斬撃は確かに払い防いだが、威力を防ぎきれなかった。
なぜ? どうして!? という単語が頭の中を駆け巡る。
小柄な少女の片腕だけの一撃では自分を浮かせる事など出来ない。魔法でも使用したかと疑いたくなるほどであった。
浮き上がりながらもサージャスを凝視すると、斬り上げた時に振り切っていたのは右腕だけでなく、右足も空へと向かって伸びていた。
「そういう事か……蹴撃を加えているのか」
「左手が駄目でも、まだ右腕と両足がありますから」
木刀の峰部分に蹴りを入れて斬撃の加速と威力を高める。
刀剣でなく、徒手空拳も得意とする彼女だからこその発想であった。
「感心する」
「ありがとうございます。日々、精進してますから」
左手には相当の激痛が走っているだろうに、恨みもせずに笑顔を見せてくる胆力は御見事と、試合中でありながら、ムツは少女に対して尊敬の感情を抱く。
「だが――容赦はせん」
「こっちの台詞です!」
「確かに――――」
未だ足に力は戻っていない。会話を交わしてはいるが、サージャスは止まらない。台詞通りに次が迫る。
「そこっ」
刺突でムツの胸部を狙う。
従来の足捌きが出来ない中で、後退しつついなすが、次には蹴撃が襲ってくる。腕を動かして受け止めると、もう片方の蹴撃が迫る。
「ええい!」
尻餅をつく無様な姿。
連撃による一撃目の蹴撃に比べれば、二撃目は腰の回転が活かされていないから、威力は小さかったが、胴に直撃して呼吸がままならなくなるには十分な威力だった。
間髪入れずに上段から振り下ろされる木刀に、呼吸を整えながら、尻餅をついた姿のまま後方に下がり、かろうじて躱す。
華麗に回避するムツの姿はそこにはなく、その姿に観衆はどよめく。
サージャスの攻撃は止む事は無く。振り下ろした切っ先は床に触れずに切り返して斬り上げと同時に峰への蹴撃。
中々にお目にかかれない攻撃方法であるから、本来ならゆっくりと目にして学びたいところだが、それを見舞われているのは自分自身。
故に自分の体で受けて学ぶしかない状態。
木刀の斬り上げと蹴撃の複合を受け、ゴロゴロと後方に転がりながら、何とか連撃の嵐を一時切り抜ける。
「声援に応えないと、勇者の名折れ」
「もう、諦めるべきだ」
トドメとばかりに、木刀を握る手に渾身の力をこめて、美しい少女には似合わない腫れ上がった掌ごと、柄頭で顎をねらう。
「諦められない。勇者として退くわけにはいかない。声援を受ける限り」
開いていた掌をグッと握り、拳を作る。
「!! つぅぅ……」
指一本を動かすだけで体中に電撃に似た激痛が走るのに、五指すべてを動かすサージャスは、痛みで失神に襲われそうになる。
それを気力で撥ね除け――、
「はぁ!」
ムツが木刀を手にする右手にその拳を叩き付けた。
「失策。前戦と同様の過ち……」
ドレークも自らの右腕を贄に捧げた。
サージャスもこの状況を打破する為に、左手を贄に捧げたようなもの。
これだけ痛めているのだから、よもやそちらで攻撃をしてくるとは思ってもいなかったし、見舞われたところで些末な一撃と高をくくってしまっていた。
先ほど徹底して手に持つ以外の物も脅威となると、体に染みこませねばと考えていたのに、結果がこれ。
「ぐう……」
ムツから苦痛の声。
木刀を落とす事こそ無かったが、手首に走る痛みはかなりのもので、腫れ上がった手から繰り出された拳とはとうてい想像出来ない威力だった。
(覚悟の重みが宿っている……小生とは違う)
加えて、自身の進歩のなさと、サージャスの思いの強さに当てられて、精神的にも衝撃を受けてしまう。
それらの痛みで、一瞬だが動きが止まるムツ。
黄金の時間が出来たと、サージャスは腹筋を使い膝を上げ、執拗に自分の顎を狙ってきたムツの顎を射抜く。
「がっ!」
弓なりになり、フラフラと後退り。
体勢を整えようとするも、顎の痛みと、脳の揺れによって定まらない視界。
懸命に捉える眼界に入ってくるのは、痛めた左手をだらりとさせながらも、右手に持った木刀の切っ先を床に擦らせながら迫る拘束から解放された少女の姿。
(まずい……)
心底で焦燥しつつ、迎撃へと思考を切り替えるが、見事に顎を打ち抜かれているために、今にも膝が砕け落ちそうで、それに耐えるのが精一杯。
迎撃する事を除外して、防ぐ事だけに傾倒。
自分に比べればか細い腕。それが右手一本で木刀を握り、斬り上げを見舞ってくる。
(防ぐ!)
まずはこの一撃をしっかりと防ぎ、距離を取って、定まらない視界だけでも回復させねばと画策。
諸手で柄を絞り込むように握り、サージャスの斬り上げを横凪で払う。
木の心地のよい音とは裏腹に、
「なんだと!?」
ムツは自分の体が浮き上がった事に驚く。
焦点が合い始めたところで、いったい何が起こったのかを確認する。
サージャスの斬撃は確かに払い防いだが、威力を防ぎきれなかった。
なぜ? どうして!? という単語が頭の中を駆け巡る。
小柄な少女の片腕だけの一撃では自分を浮かせる事など出来ない。魔法でも使用したかと疑いたくなるほどであった。
浮き上がりながらもサージャスを凝視すると、斬り上げた時に振り切っていたのは右腕だけでなく、右足も空へと向かって伸びていた。
「そういう事か……蹴撃を加えているのか」
「左手が駄目でも、まだ右腕と両足がありますから」
木刀の峰部分に蹴りを入れて斬撃の加速と威力を高める。
刀剣でなく、徒手空拳も得意とする彼女だからこその発想であった。
「感心する」
「ありがとうございます。日々、精進してますから」
左手には相当の激痛が走っているだろうに、恨みもせずに笑顔を見せてくる胆力は御見事と、試合中でありながら、ムツは少女に対して尊敬の感情を抱く。
「だが――容赦はせん」
「こっちの台詞です!」
「確かに――――」
未だ足に力は戻っていない。会話を交わしてはいるが、サージャスは止まらない。台詞通りに次が迫る。
「そこっ」
刺突でムツの胸部を狙う。
従来の足捌きが出来ない中で、後退しつついなすが、次には蹴撃が襲ってくる。腕を動かして受け止めると、もう片方の蹴撃が迫る。
「ええい!」
尻餅をつく無様な姿。
連撃による一撃目の蹴撃に比べれば、二撃目は腰の回転が活かされていないから、威力は小さかったが、胴に直撃して呼吸がままならなくなるには十分な威力だった。
間髪入れずに上段から振り下ろされる木刀に、呼吸を整えながら、尻餅をついた姿のまま後方に下がり、かろうじて躱す。
華麗に回避するムツの姿はそこにはなく、その姿に観衆はどよめく。
サージャスの攻撃は止む事は無く。振り下ろした切っ先は床に触れずに切り返して斬り上げと同時に峰への蹴撃。
中々にお目にかかれない攻撃方法であるから、本来ならゆっくりと目にして学びたいところだが、それを見舞われているのは自分自身。
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