拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

文字の大きさ
304 / 604
ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ

PHASE-06

しおりを挟む
「やられたか!」

「おう、Nナッツが落とされちまった」

「Nuts!」
 ええっと、ナッツにナッツ? ピーナッツでも食べたいのかな? 
 というのは冗談として、最初のNはフォネティックコードの一つかな? 僕も演習で使わせてもらった。
 ナイゼルさんの返しは、悔しかったのを表現したナッツだろう。
 言葉遊びが出来る余裕はあると見るべきか。

「誰がやられた?」

「ブルムスの一行がやられた。全滅だ」

「そうか――――開始早々、出鼻を挫かれたな」
 え!? なにその感じ。イリースさんの事も軽く僕に伝えたけど、ここでもそれですか?
 やられて、全滅って事は、お亡くなりになったって事でしょ?
 軽いぞ、ここでは命が羽毛の如き軽さだぞ。

Nナッツは破棄だな。対応していた残存戦力はOオレンジQクイーンを攻略。その後、Rロバートを挟撃だ」
 やはり、ナイゼルさんが指揮官のポジションか。
 上に立つ人物だからこそ、死者の数を統計でしか見ていないのかな。

「あの~」
「なんでしょう?」
「どんな戦いを?」
「ああ、説明していませんでしたね。今回はコンクエストです」
 コンクエスト? 武力による制圧って事かな? 単純な戦闘を行っているわけじゃないみたいだね。

「ウィザースプーンさんは高台に下ろします。本日はそこで見学を、明日からは随伴で」
 いえいえ、結構ですよ。今日も明日もずっと高台で身をかがめて過ごします。
 
 ――――ふわりとした落下から、足を地にゆっくりと下ろす。
 僕の着地を確認したナイゼルさんは、伝達の方と爆心地へと飛んでいった。
 
 ヴィン海域での戦う相手――――。
 勇者を中心とした冒険者さん達が挑んでいるのは、もちろんカグラさんの妹である、氷竜王のシズクさんって方だ。
 見た事ないけど、やっぱりカグラさんと姉妹なんだから、とんでもない美人様なんだろうね。
 すんごいスタイルでさ――――。へへ、真っ先にそっちに挨拶に行くべきだったかな~。
 なんて事に思いを巡らせてるけども、見下ろす方向ではさ……。

 ――――こんな天気のいい日にですよ、天候をわざわざ自分たちで変えてさ、雷だの氷の槍みたいなのをさ、空から降らせてさ、ドッカンドッカンと激しい音を立ててさ、衝撃波で大気に海面を震わせてさ、なにやってんだか……。
 
 ガチ勢の皆々様は、命を惜しまずに激しい戦いを心の底から楽しんでる。
 ――――て、ことはですよ。シズクさんも戦いに愉悦を浸らせる人物なのだろうか? カグラさんの妹さんて考えると、それは信じがたいな。
 だが……、自分好みの理想なんて持つもんじゃない。裏切られた時の衝撃は計り知れないからね。
 こういう時は、悪いほうで考えるといいよね。保険ですよ保険。
 生き肝抜いて、けたたましい高笑いをする方という可能性も、このヴィン海域だと、ゼロじゃないからね……。
 
 情報を手に入れるまでは、両サイド共に、深入りしないようにする事が、ここでは吉だな。
 てこでもここから動かないようにしたいものだ。
 てなわけで、見学重視だ。
 
 ――――。
 
 ハハハ……。
 先ほど消滅したばかりなのに、小島が新たに誕生したよ。
 凄いよ、もっとそれを世の中のために活かしてよ。でもそうなったら、僕たち整備局員はお役御免になるな……。

「おお!」
 巨大な水柱が上がる。天にも届く勢いってやつだ。

「あんなのとも戦うのか……」
 水柱の中から遠目でもはっきりと輪郭が分かる、どでかい海龍が姿を見せる。
 ワギョウへの行き来でお世話になった大海蛇モーガウルが、可愛いサイズに見える。
 とてつもなく大きな存在だ。
 胸鰭に背鰭、そして小島を簡単に包み込みそうな巨大な翼を広げて、海から空の存在になってる。
 水しぶきが綺麗な虹を作りつつも、見える範囲の青空が漆黒の空に直ぐさま変わるや、雲耀と稲妻をバックに巨体をうねらせて空を舞う。

「ぶっは!」
 翼を羽ばたかせれば、それだけで颶風を思わせる風が、僕のいる高台まで届く。
 飛ばされるよ! 潮の香りがダイレクトに届くよ。
 身を低くして、四肢でしっかりと踏ん張って、必死に颶風に耐える僕。
 そんな中で、海龍が仕掛ける――――。
 
「すっげ……」
 海龍が大きく口を開くと、集束された一筋の線が放たれ、海面を走り、先ほど誕生したばかりの小島に直撃すると、真っ二つになりましたよ……。
 首を可動させて、集束された一筋を放出し続ける。
 暗闇の空に触れると、そこから切り開かれ、青空が姿を見せる。
 光芒こうぼうが黒雲の空間を彩り、神秘的なものに変える。
 薄明光線エンジェルハイロウの神々しさとは違って、禍々しい攻撃である。
 多分だけど、水を集束させての攻撃なんだろう。とんでもない威力だ。
 
 なによりも――――、
 雲まで届くってことは、ここにも余裕で届いてたって事だからね。
 もしここに飛んできてたら、今ごろ僕は――――、故人でしたよ……。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...