拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ

PHASE-35

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「大魔法を!」
 次の一手を、と、ナイゼルさんが指示。

「させない」
 淡々とした語調にて、ナイゼルさんの指示で大魔法を唱えようとした冒険者さん達に向かって、シズクさんが手を振り向ける――――。
 
 それだけで、氷の世界に閉じ込められるんだもんな……。血に染めたくないなら、そうやって氷漬けにすればよかったんじゃないかな? 先ほどのダグラスさん達。
 
 氷の壁を見れば、マリアンさんにザンデさん、バロニアさんと、パーティー仲良く氷漬けだ……。
 この子は一体、こんな事を何度、経験していくのだろうか……。
 見たくなかったよ。十三歳の氷漬けとか……。

「大魔法とかされちゃったら、館まで被害が出る。館はいいとしても、浜辺を傷つけるわけにはいかない」
 射抜いてくるような、眼力。
 右目は、全てを凍りつかせるような冷酷さを宿した紺碧の瞳。
 左目は、負けてやるものか! とばかりの情熱的な深紅の瞳。
 オッドアイが感情を表してるね。

「くぅ……」
 おお! ナイゼルさんが気圧されてる。見た感じ、本気も出していないシズクさんに、豪傑たちが手も足も出せないでいる。
 ――――で、口を開く度に、シズクさんは僕を見る。なんでだろう?
 いやしかし、これで本気出したらどうなるんだ。
 以前も感じたけど、間接的にカグラさんの実力も理解できる。そら、不死王さんにキドさん、ちびっ子もビビるわ。
 妹であるシズクさんに対しても、同様の畏れの感情を抱いているだろうね。

「流石です! シズク様」
 主の姿に士気が上がる、館前方に待機する方々。

「うるさい」
 え!? なんで配下の皆さんまでも氷漬け……。
 半漁人サハギンさん達がそれだと、まるで魚の冷凍保存……。
 ――に、見えてしまう不謹慎な僕。

「貴方たちが不甲斐ないから、私が戦場に立つわけでしょ」
 お怒りなのは分かるけど、好感は下がるな。この辺は、配下の方々を大事にするカグラさんとは大きく差が開くね。

「相も変わらず冷血だな」
「うるさい」
「そればかりだ。ピートさんとよい関係になったと噂で聞いたが、冷血さは変わらんな」
「う、うるさいわね!」
 あ、なんかあっぷあっぷした。押し倒された事を思い出したのかな。
 あれは事故だけどね。
 変に噂を広げられて困っていたらすみません。
 顔まで赤くして、やはり初心だな。そこは可愛いんだけどね~。行動がね。冷酷すぎるんだよね。

 ――。
 
「ちょこまかと!」
 ナイゼルさんは流石だね。臆しながらも、指示を出しつつ、氷漬けにならないように回避しながら、切っ先をシズクさんに向けて突っ込んでいき、それを掩護するために、息の合った動きで、周囲も呼応。
 死線を潜ってきた――――というか、死んで絆を深めていった。というのが正しいのかな。
 とにかく、いい時宜で手にしたエクスペンダブルズを投げてから、自分たち自慢のタリスマンも併用して、威力を重複させてからの魔法発動。

「だから、ここを汚さないでほしいの!」
 強い語気になる。


「なん……だと」
 唖然とするナイゼルさん。
 シズクさんのフィンガースナップ一つで、投げ込まれたエクスペンダブルズだけを正確に氷漬けにしてしまった。
 ――――氷の内部で暴走爆発する魔法。
 ただの氷じゃないようだ。爆発が起きても、包んでいた氷は砕けない。
 通常魔法、それも上位のものになれば、エクスペンダブルズにタリスマン併用で、大魔法レベルにもなるというのに、その爆発を氷の中に封じ込めて、氷自体は無傷なんだもの。ナイゼルさんが唖然とするのも頷ける。
 全てにおいて、レベルがかけ離れすぎている。

「もう終わりなのかしら? まだまだ脅威になり得ない存在ね」
 またもフィンガースナップ。
 魔法を防いだ氷がそれを合図に細かく砕けて、キラキラとした粒子となって、ダイヤモンドダストのような幻想的な風景を見せてくれる。

「イリース!」
 戦楽師の歌で潜在能力の底上げを狙うナイゼルさん。
 イリースさんが首肯で返し、
「ボエェェェェェェェェェェ――――」

「うるさい」
 歌い始めたところで、氷の中の存在になってしまった。

「攻撃向きなんじゃないの? 今までの誰よりもダメージがあったわ。耳が痛い程度だけど」
 やっぱりそうなんだ。この歌は攻撃向きなんだな。

「分かっちゃいるが、毎度、痛感するな。とてつもない強さだ。どうするよ……ナイゼル」
 次の指示を仰いでいる。
 
 ――でも、返答はない。先ほどイスキさんを仕留めたやり方が、容易く対処されてしまった事で、ナイゼルさんの中で何かがポキリと折れたのかな。
 勇者であっても、圧倒的実力差の前では、矜持が挫かれるのかもね。
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