拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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変転

PHASE-46

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「この、はげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 空気を振動させるような大音声。
 その声に、男爵様に、僕たち、王様もビクリと肩を震わせる。
 モノクルの奥から見せる猛禽の如き目で、眉を吊り上げた大公様が一歩一歩、強い足取りで迫ってくる。
 脳内で、ズンッズンッという効果音が勝手に再生される。

「ぎゃん」
 大公様の容赦のない前蹴りが、男爵様に見舞われ、勢いよく地面に倒れ込む。

「違うだろう! 違うだろう!! 挨拶は後でよいわ! 貴様はさっさと軍備を整えんか! 名目上で侵攻しているが、本気でここを乗っ取ってやろうか! それが嫌なら貴様のその粗末な脳みそを全身全霊で酷使して回転させよ!」

「はい!」
 可哀想に。男爵になってから初めてかもな。領主としてこれほどの仕事をこなしているのは。

「無事、たどり着けたようだな――――民たちは」

「はい!」

「うむ、力あるよき返事だ。本来ならアンデッド軍を迎えに出してもよかったのだが、ここはバルの王としての器を見させてもらいたかった」
 王都の住民を無事に避難させた。
 王様が皆を引っ張ってきた。前王様とは違い、それをやり遂げたわけだ。
 これで、前王様の悔恨も晴れたかもしれない。
 ――――避難している身としては、アンデッド軍での出迎えなんてお断りだよ。
 アンデッドに耐性がない一般の方々は、姿を見ればパニックをおこしてしまうからね。
 モルドーの兵と、輜重隊だけで十分ありがたかった。
 
 ――――。



「はあ~」
 疲れた……。流石に徒歩でモルドーまで来るのはしんどいな……。
 館と庭園をつなぐ、一段がシングルベッドの広さくらいある階段に寝そべる。
 まったくもって不謹慎だけども、大公様がやって来てからというもの、小さな事にいちいちと気を煩わせる暇もないようで、男爵様だけでなく、私兵、使用人が忙しなく動き回っている。
 横寝で眺めつつ、仰向けに体勢を変えて視線を空に向ける。
 蒼穹なる天。
 王都が戦火に巻き込まれて、侵略されたとは思えないくらいに静かな空である。

「ピート君。私たちの仕事はまだ終わってないよ」

「いや~もう少し見ていたいですね」
 覗き込んでくるロールさん。
 銀髪のサイドテールが僕の鼻先に当たりそうだ。空から視線を覗き込んでくる美人様に変更だ。
 
 エギンバに到着後は、地元の整備局の方々と避難してきた王都住人の今後、王都が奪還された時のことを想定して、建物被害があった場合の保証なんかの話し合いをしていたわけだけども、ありがたいデスクワークな仕事だが、どうやら僕は体を動かしている方が性に合うらしい。

「折角、館の離れをお借りしてるんだから。さっさと終わらせて、少しでも住人の皆さんを安心させてあげないと」
 僕としては、自分の資産も大丈夫なのか? と相談したいくらいなんだけどね。

「はい、起きる!」
 無理矢理に手を掴まれて起こされる。
 仕方ない。ここは――――、
「よいしょ!」
 軽快につと起きてみれば、

「きゃ!?」
 と、勢い余ったロールさんが尻餅をついた。
 反動で、僕がロールさんの上に乗っかる感じだ。
 フフフ――――、計画通りよ。
 端から見たら押し倒しているようにも思われるかもしれないな。
 だが、勢い余ったふりをして、ロールさんの胸に諸手を置くという所までには至らなかった……。
 ここは無念である。

「ピート君。重いよ」

「いや~すみません」
 どきたくない。どきたくないぞ!
 カグラさんがいまも苦しんでいるというのに、僕って奴は! 自己嫌悪に陥りながらも、ここから離れたくないのである!

「ピート君、空を見て」
 見ていたいのは赤面しているロールさんだけなんですけども。
 ――しつこく言ってくるので、渋々と首だけを動かして空を見上げる。
 無論、いまのポジションは維持しながら。

「あん?」
 なんだ? 空に影。円を描いて飛んでいる。ハゲタカか?
 にしてはデカいような……。
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