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レコンキスタ
PHASE-68
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ラゴットからの増援もなく、前線では地獄の使者を思わせるヴィン海域の者たちが、躊躇なく大魔法と自慢の得物で殺戮を行使し、その姿と、倒れていく凄惨な姿となる仲間を目にし、心が折れ、戦闘を継続する力をラゴット勢は失っていた。
逆にヘイターを倒した事を知った王軍陣営は、対象の一つを攻略したと、シラクサに魔王が大きく息を漏らす。
近衛たちは喜ぶが、シラクサにラゼン達、中心に立つ者たちは、弟を失ったゲイアードの事を考えると、大声で喜ぶ事は出来なかった。
「まだだぞ! まだ我々には捷利嚮導の乙女がある!」
かろうじて戦う気力を有している者たちは巨神に縋り、自我を保っていた。
だが、大多数は厭戦ムードであり、戦いに恐怖する者ばかりであった。
利によって集まった者が多い証拠がここで露呈する。
「早いところ逃げるんだよ!」
「無理だろ!」
お互いが罵声を浴びせる始末。
逃げたくても、巨大な壁に囲まれた状況。
空間魔法を使おうとすれば、プールによってその空間を支配される。
「俺たちが生き残るには戦い抜くしかない」
気骨ある者が説いても、
「生き残る!? あんな化け物たち相手にどう生き残るんだよ!」
「たかが数百の戦力だ。何とかなる」
「なるかよ! 質の高さで王軍にも負けている。頼りの兵力も、亡者がいなくなった事と、増援の途切れた事で逆転。それに、数百規模だろうが、この戦場で一番相手にしたくねえ連中だよ!」
叫び狂うように発せば、それを離れた位置で耳にする隻眼の男が、
「だよな~。あれは反則の集団だぜ……」
「だよね。あれほどの力を見せつけられれば、如何にボクたちが狭い世界で生きているかを理解するよ」
「な! お宅でも勝てないと思うほどだろ」
「躊躇もなければ、実力も違う。特に、あの中心にいるクレイモアにタリスマンを埋め込んでる人。強い。周囲の人たちもボクなんかより遙かに強い」
強さから伝わる恐怖に、サージャスが冷や汗を流せば、大きく首肯で返すのは双剣の兵仗、狂乱の乙女を手にするダイアン。
「まあ、ここも十分に怖いけどな」
周囲には魔王軍の幹部。
フサルクを倒せば、捷利嚮導の乙女に邪神と共の対応する。
フサルクが復活すればそれに対応。この繰り返し。
超絶な力を有した周囲に嘆息を漏らすダイアン。
「怖いとか、その割には萎縮せずに戦うよね」
「気合いだよ気合い。それで誤魔化してんの。じゃねえと、生きた心地がしねえ」
狂乱の乙女を振りかざせば、サージャスは距離を取る。
願望破壊の乙女の間合いよりも離れた位置で双剣が振られれば、それだけでサージャスの感覚が狂ってしまう。
見舞われて学習し、そこからは間合いを取る事を優先している。
「いいのかそんなんで、このまま時間が過ぎれば、こっちが有利だぞ。何たって、その槍がこっちの主力に対する唯一の切り札なんだろう? 邪神たちだって長くは持たないぜ」
言われれば、サージャスは動きを止めて歯を食いしばる。
正鵠を射ている発言。
自分が頼りないから、周囲に迷惑をかけている。
もしこの願望破壊の乙女を途中から参戦してきたヴィン海域の強者に託せば、自分以上に力を発揮してくれるはずである。
そういう考えを抱きながらも、目の前の敵に屈したくはない。
魔王が自分に託してくれた事も考えれば、自分が達成しなければならないと、勇者としての矜持もある。
「隙あり」
考えていれば、それを見逃してやるほどダイアンの力量は低くない。
槍のギリギリの間合いで双剣を振る。
「――――くっ……」
遅れて、サージャスの視界がグルグルと回る。
「よっしゃ!」
動きが止まるサージャス。
剣の間合いとなり、ここが勝機と、気迫を口にすれば、手にした狂乱の乙女にて乗算記号を書く。
「――ふう、危なかった……」
「躱すか。紙一重だったな――――」
ぶれる視界の中で、鎧に触れた剣の感覚だけで咄嗟に後方に避ければ、かろうじて双剣が肉体に触れる事だけは回避できた。
逆にヘイターを倒した事を知った王軍陣営は、対象の一つを攻略したと、シラクサに魔王が大きく息を漏らす。
近衛たちは喜ぶが、シラクサにラゼン達、中心に立つ者たちは、弟を失ったゲイアードの事を考えると、大声で喜ぶ事は出来なかった。
「まだだぞ! まだ我々には捷利嚮導の乙女がある!」
かろうじて戦う気力を有している者たちは巨神に縋り、自我を保っていた。
だが、大多数は厭戦ムードであり、戦いに恐怖する者ばかりであった。
利によって集まった者が多い証拠がここで露呈する。
「早いところ逃げるんだよ!」
「無理だろ!」
お互いが罵声を浴びせる始末。
逃げたくても、巨大な壁に囲まれた状況。
空間魔法を使おうとすれば、プールによってその空間を支配される。
「俺たちが生き残るには戦い抜くしかない」
気骨ある者が説いても、
「生き残る!? あんな化け物たち相手にどう生き残るんだよ!」
「たかが数百の戦力だ。何とかなる」
「なるかよ! 質の高さで王軍にも負けている。頼りの兵力も、亡者がいなくなった事と、増援の途切れた事で逆転。それに、数百規模だろうが、この戦場で一番相手にしたくねえ連中だよ!」
叫び狂うように発せば、それを離れた位置で耳にする隻眼の男が、
「だよな~。あれは反則の集団だぜ……」
「だよね。あれほどの力を見せつけられれば、如何にボクたちが狭い世界で生きているかを理解するよ」
「な! お宅でも勝てないと思うほどだろ」
「躊躇もなければ、実力も違う。特に、あの中心にいるクレイモアにタリスマンを埋め込んでる人。強い。周囲の人たちもボクなんかより遙かに強い」
強さから伝わる恐怖に、サージャスが冷や汗を流せば、大きく首肯で返すのは双剣の兵仗、狂乱の乙女を手にするダイアン。
「まあ、ここも十分に怖いけどな」
周囲には魔王軍の幹部。
フサルクを倒せば、捷利嚮導の乙女に邪神と共の対応する。
フサルクが復活すればそれに対応。この繰り返し。
超絶な力を有した周囲に嘆息を漏らすダイアン。
「怖いとか、その割には萎縮せずに戦うよね」
「気合いだよ気合い。それで誤魔化してんの。じゃねえと、生きた心地がしねえ」
狂乱の乙女を振りかざせば、サージャスは距離を取る。
願望破壊の乙女の間合いよりも離れた位置で双剣が振られれば、それだけでサージャスの感覚が狂ってしまう。
見舞われて学習し、そこからは間合いを取る事を優先している。
「いいのかそんなんで、このまま時間が過ぎれば、こっちが有利だぞ。何たって、その槍がこっちの主力に対する唯一の切り札なんだろう? 邪神たちだって長くは持たないぜ」
言われれば、サージャスは動きを止めて歯を食いしばる。
正鵠を射ている発言。
自分が頼りないから、周囲に迷惑をかけている。
もしこの願望破壊の乙女を途中から参戦してきたヴィン海域の強者に託せば、自分以上に力を発揮してくれるはずである。
そういう考えを抱きながらも、目の前の敵に屈したくはない。
魔王が自分に託してくれた事も考えれば、自分が達成しなければならないと、勇者としての矜持もある。
「隙あり」
考えていれば、それを見逃してやるほどダイアンの力量は低くない。
槍のギリギリの間合いで双剣を振る。
「――――くっ……」
遅れて、サージャスの視界がグルグルと回る。
「よっしゃ!」
動きが止まるサージャス。
剣の間合いとなり、ここが勝機と、気迫を口にすれば、手にした狂乱の乙女にて乗算記号を書く。
「――ふう、危なかった……」
「躱すか。紙一重だったな――――」
ぶれる視界の中で、鎧に触れた剣の感覚だけで咄嗟に後方に避ければ、かろうじて双剣が肉体に触れる事だけは回避できた。
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