拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

文字の大きさ
583 / 604
レコンキスタ

PHASE-96

しおりを挟む
「おお! ナイス回避」
 おお! ナイス回避――――。じゃねえよナイゼルさん。
 お願いですからガチ勢が解説を始めないでください。
 この人はなんだろうな……。ヴィン海域でもそうだったけど、大げさにするな。
 僕も面倒くさい事になったような記憶があるぞ。

「そんなもんかよ」

「なめるな!」
 振り回される拳。腰の捻りも、脇の締めもまったくなっちゃいない拳打での攻め。
 それを華麗に――――、から、途方もなく、ほど遠いバックステップで躱す整備長。
 拳が迫る度に引きつった顔になるのは正直おもしろかった。
 エキシビションマッチではなく、喜劇が始まったようだ。

「見てるかピート!」
 僕を呼ぶなよ恥ずかしい。
 戦ってる片方が名を呼べば、僕まで喜劇に巻き込まれるような気がしてならない。
 というか、煙草を消せ!

「呼ばれてますよピートさん。ここは最後に貴男が出て倒すのがいいのでは?」

「そうですよMVピートさん」
 な、こうやってヴィン海域の面々が僕にいらん事を言ってくるんだ。
 ナイゼルさんはまだいい。
 バロニアさん、合わせ技やめろ。小馬鹿にされてるみたいで腹立つ!

「そうですよ。あんな煙くさい男ではなくここはピート様が」
 やめてくださいシズクさん。あんな喜劇の場に僕は混ざりたくないです。
 周囲を見てください。僕の周りは美人が多い。ここがいい。

「ピート殿。私を助けた時のように、知恵を使った戦い方を。確か、真のハンターは、まず足元を確認とか言いながら決めていたではないですか」
 恥ずかしいので、そこは触れないでくださいカグラさん。
 期待を込めた目にて、周囲の方々の僕に対する包囲網シージが鬱陶しいです……。

「こっちを見ろピート! 美人に囲まれやがって! 俺を見ろ!!」

「見てますよ。貴男こそこっち見てたら――――」

「へぼっ!?」
 この戦いにおいてもっとも恰好の悪い声が上がったね。
 グリーを超えたよ。
 こっち見てるから、そんな遠心力に全てをかけたような大振りパンチに当たるんだ。

「初めて当たった」
 どうやらヘルムのおっさんはろくに喧嘩もした事のない、真面目な性格だったらしい。
 だから堅物で融通の利かない男になったんだろうけども。

「痛えなこの野郎!」
 あんたが戦いの最中に、こっちに嫉妬心まる出しの視線を向けるからそうなる。
 でもなんか吹っ切れたのか、今まで避けるの一辺倒だったのに、ムキになって掴みかかった。

「このジジイが!」
「老体に対して、力と暴言とは最低だな」
「王都をこんなにしといてよく言うぜ! 誰が直すと思ってんだ!」
「間違いなく君はサボタージュなのだろうな」
 その通りだよ。

「うるせえ!」

「いい加減に離さないか!」
 掴み合いの応酬。というか、それしか出来ない。

「ちゃっちゃと決めてくださいよ」
 じゃないと、混ざりたくないのに、僕が混ざらないといけない流れになってますから。

「このジジイを倒したら、次はお前だからな!」
 向けられる敵対心。嫉妬は怖いね。
 まあ、負ける気はありませんが。混ざりたくない。

「とっておきを見せやる。コイツは対生意気な部下用だったんだがな」

「ほう」

「このじいさんをモルモットにして、完全完成形はお前だピート!」
 鬱陶しいおっさんだ……。
 掴み合いからお互い解放されると、整備長が構える。
 顔を隠すようなピーカーブ―スタイル。
 でも、玄人のそれと違って、両腕の間に隙間があるから、そこから殴られたら顔面に簡単に直撃だ。
 当然ながらそのがら空きの顔面に向かって、ヘルムが大振りからのパンチ。

「ぺっ」
 と、おっさん咥えていた煙草をヘルムに向かって吐き出した。
 なるほど、喫煙はこの為の布石か。
 はき出せるように両腕の隙間を広げてたわけか。

「あづっ!?」
 うわ、きたね~。
 卑怯、不潔の二つの意味で。
 目の前に飛んできた飛翔物に驚き、顔に伝わる熱さも相まれば、素人は自ずと目を閉じるというもの。
 咄嗟に諸手で顔を守るような構えとなれば、動作を見た整備長の笑みが悪いものに変わる。

「トドメだ」
 姿勢を低くすれば、隙だらけになっている腹部に……、腹部…………ではなく、
「おら!」
 股間に対して拳を見舞う。
 本当にきたない……。

「ひょん!?」
 ヘルムは素っ頓狂な声と共にくの字になり、弱々しく前のめりで倒れた。
 ついに倒れたのだ!
 ――――じゃねえよ。ようやく茶番が終わったよ。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...