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一話 『至高英雄』に強さを求め
鉄工翁=ドワーフ?
しおりを挟むまるで自分の庭のように華候焔は町中を歩いていく。
領主は俺のはずなのに、前を向いて堂々と歩く彼のほうがこの城下町の主らしい。
「誠人はどんな武術をしている? 腕に覚えがあるからここへ来たんだろ?」
手を引かれながら華候焔に尋ねられて、俺は「あ、ああ」と返事をする。
「柔道を嗜んでいる……この世界にあると思えないんだが、華候焔は知っているか?」
「大丈夫だ、知識はある。誠人たちの世界の知識はある程度理解している。体術は武の基本だからな。それができているなら話は早い」
そう言って町外れへ向かった華候焔が案内してくれた場所は、古びた家に年季の入ったかまどが隣接する所だった。
「騙されてついてなかったと思うが、ここの領主になれたのは不幸中の幸いだ。俺はここの主に用があって滞在していたんだ……預けていた武器を貰いにな。腕の良い鍛冶師が領地にいるっていうのは恵まれている。どんどん利用してやってくれ」
確かに良い武器を作れる職人が領土内にいるのはありがたい。ゲーム初心者の俺でも、その存在の大切さは理解できる。
建物の中へ「よお、できてるか?」と慣れた調子で華候焔が入っていく。
俺も遅れて入っていけば、室内の熱気に出迎えられて軽くむせ返ってしまった。
カンッ、カンッ、と鉄を叩く音が響き渡る。
目の前に現れたのは非常に小柄な老人だった。だが上半身の服を脱いで作業するその体は筋骨隆々として、どっしりとした安定感があった。頭部も髭も同じ長さはありそうな白い毛が生えており、彼は一心不乱に目の前の鉄を打ち続けていた。
「よく来たなあ華候焔! おうよ、とっくの昔にできあがっておる。入口に立てかけてあるから持って行け――ん?」
顔を上げて声をかけてきたたくましき老人が、俺に気づいて手を止める。
軽く目を丸くした後、彼は手を止めて俺に体を向け、拳を手に取る構えを見せた。
「ようこそ領主様! ワシは鉄工翁と申します。武具や防具を手掛けておりますゆえ、いつでも声をかけて下さいませ」
礼をもって接してくれる鉄工翁をまじまじと見ながら、俺は考えてしまう。
上を脱いでいるせいなのは分かっているが……彼はドワーフじゃないか?
こんなに立派な体つきなのに、背丈はまるで子供のよう。そして装備品の製作を得意とする――中華風の世界にドワーフがなぜいるんだ?
時折見えるゲームのちぐはぐ感に心の中で首を傾げながら、俺は鉄工翁へ頷いた。
「ありがとう鉄工翁。実は自分の武器を調達しに来たんだ」
「ほうほう。ここを選んで下さって光栄ですな。どんな武器でもありますから、ゆっくりと見ていかれて下され」
言いながら鉄工翁は足先でトントン、と床を叩く。
次の瞬間――ザザッ。
出入り口以外の三方の壁伝いに、上から勢いよく何かが落ちてくる。
あっと言う間に剣や槍、斧や鉾――あらゆる武器がきれいに並べられ、虚空に浮かんでいた。
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