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一話 『至高英雄』に強さを求め

誠人の得物

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 一気に様変わりした部屋に目を剥いていると、華候焔が押し殺した笑いを漏らす。

「他の武具屋でもこんな感じに出てくるからな。いちいち驚いていたら疲れるぞ……さて。どんな武器がお好みかな?」

 華候焔に促されて俺は武器を眺めていく。
 刃や切先から漂う凄みを肌で感じ、思わず息を飲み込んでいると、

「誠人サマ、ここでは馬上で一騎討ちをすることが多いですから、長さのある得物がオススメですよー。あと鉄工翁は優秀な鍛冶師ですから、どの武器も一級品ですからー。本当は私が案内させて頂く予定だったんですからー」

 肩に乗っていた白澤がアドバイスをくれる。華候焔に自分の役目を奪われてたまるかと、どこか必死そうだ。

 こんなに種類があると目移りしてなかなか決められない。
 どれも扱ったことのない武器。見た目から威力がありそうなのは分かる。

 ――見れば見るほど選べなくなってしまう。

 剣道や弓道を嗜んでいればすんなりと選べたのだろうが、生憎と俺は柔道のみ。そもそも武器を使うということ自体がしっくりこない。

 自分が剣や槍を振るい、相手と戦う姿がイメージできない。
 馴染みのないものを手に入れ、戦の本番までに付け焼刃で練習して通じる世界だと思えない。

 せめて少しでも馴染みやすいものを選ばなければ。
 何順も三方に並ぶ武器を見比べ続けていると――ポン。背後から華候焔に肩を叩かれた。

「初心者は刃がある物をいきなり使うと、戦で武器を振るうことを躊躇ってしまうことが多い。だから誠人が気兼ねなく、全力で振り切れる物を選ぶといい。例えばアレなんかどうだ?」

 おもむろに華候焔が右隅に並んでいた武器を指さす。

 それは飾り気のない金属の棒だった。
 全体はくすんだ銀色。上下の先端に金属の輪があるだけ。絵本で見た西遊記の如意棒に似ている。

 他の武器と比べるとあまりに地味で華がない。刃から漂う凄みもない。
 だからこそ戦を経験したことのない俺でも、手に取って見ることができた。

 鉄工翁が「ほうほう」と興味深そうな声を上げた。

「それはワシが作った竹砕棍ですな。普通に棒として扱えますが、先端の摘まみを回せば竹が割けるように広がって敵を攻撃します。それと、棍を床に立てて強く押し付けてみて下され」

「あ、ああ……うわっ」

 言われるままに実行してみれば、真っ直ぐな棒が中央から膨らんで広がる。そして力を抜いた途端、瞬時に元の形へ戻る。

 こんな奇抜な動きを戦いの最中に見せれば、敵の動揺を誘うことができそうだ。
 何より刃がないほうが全力で振り回せる。リアルな世界だからこそ、人を斬る感触に苦しめられそうだから。

「いかがですかな? ここにしかない一点ものですぞ」

「ありがとう。これに決めたい」

 グッと竹砕棍を握ると、手にしっくり馴染む。
 これなら気兼ねなく戦える。そんな手応えを感じていると、

「得物が決まったなら、後は慣らさないとな。俺が相手になってやるから、やりたいように戦ってればいい」

 華候焔が気さくに手合わせを提案してくれる。素直にありがたいと、反射で「付き合ってくれると助かる」と答える。

 ……練習とはいえ、初めて手を合わせる相手が最強……。

 鉄工翁と談笑を始めた華候焔を見ながら、わずかに俺は棍を握る手に力を入れた。
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