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四話 追い駆ける者、待つ者

英正の望み

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「まったく、華候焔には困ったものですねー。事あるごとに誠人サマをたぶらかしてー」

 自室へ向かう最中、肩の白澤がぼやく。
 あまり言うなと止めたいところだが、適度に吐き出させないと暴走しそうな危うさがある。

 それに止めたとしても、今はすぐに言い出すだろう。何せ才明とのやり取りを終えた後だ。あっちで我慢していた分だけ言わせておこう。

 俺が止めないのをいいことに、白澤は溜めていたことを吐き出し続ける。

「ただでさえ裏切り常習犯の厄介なヤツを抱えてるのに、才明なんて厄介そうなヤツまで抱えるなんて……大変ですよー。もしかすると才明も同類かもしれませんねー。最初から裏切る気マンマンで、こっちの動きを待ってたぐらいですしー」

「……あの、白澤様。どういうことでしょうか?」

 おそらく城内で唯一、英正だけが白澤を敬っている。
 一応聖獣らしいからおかしくないのだろうが、華候焔の毛玉扱いのほうが俺にはしっくりきてしまう。白澤には悪いが。

 英正の質問に白澤が抑えることなくベラベラと答えていく。
 どんなやり取りがあったかを次々と英正に伝えるが、才明の条件には触れなかった。一応それは言わないほうがいいと理解しているようで助かる。

 もし寝返る条件が俺の体だと知れば、英正は才明に襲いかかるかもしれない。

 華候焔のことは既に知っているし、彼がいなければ勝てないことを英正は承知している。そして全体を大きく取り仕切り、俺が支えられていることを間近で見ている。だから受け入れているように見える。英正よりも早く華候焔と出会い、関係を作っていたこともあるのだろう。

 才明が城に来た時、何か対策をしたほうがいいのかもしれない――と俺が考えていると、自室の前に到着する。

 話したいだけ話してスッキリしたのか、白澤は「早く寝ましょうー」と先に部屋へ入り、先に中の様子を調べてくれる。侵入者がいないか、害をなすものが置かれていないか……白澤の気遣いはありがたい。

 部屋の前で白澤の了承を待っていると、

「……あの、領主様」

 英正に声をかけられて俺は振り向く。

「なんだ、英正?」

「明日の戦、全力で戦います。それで、もし敵将を討つことができましたら……褒美を頂いてもよろしいですか?」

「もちろんだ。結果を出したなら必ず応えたい。ささやかな量しか渡せないかもしれないが――」

「私も現物支給でお願いします。どうか、ぜひそちらで……」

 現物支給……顔鐡のように俺との手合わせを望んでいるのか?

 わざわざ褒美にしなくても、これから手合わせはいくらでもしていくだろうに。
 無欲なものだと思いながら俺はしっかりと頷く。

「英正がそれで構わないなら……しかし、本当にいいのか?」

「ありがとうございます! それと、身の程知らずだと承知の上で……少しだけ、先の戦の褒美を頂いてもよろしいですか?」

「今からか? 応えてやりたいが、さすがに夜遅い。しかも戦の前だ。手合わせは戦が終わった後、とことん付き合おう」

「いえ、望みは手合わせではなく――」

 首を傾げる俺の頬に英正の手が伸びる。
 ――首が伸び、唇を奪われて、ようやく俺は英正の望みを察した。

「え、英正……」

「私も領主様が欲しいです」
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