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四話 追い駆ける者、待つ者

作戦と意気込みと

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   ◇ ◇ ◇

 夜が明けて、俺が身支度を整える頃にはすでに兵の編成は終わっていた。

 華候焔が二〇〇。
 顔鐡が一〇〇。
 英正が二五〇。
 俺が二五〇。

 もっと華候焔たちに兵を振りたいところだが、生憎と数が足らない。
 しかも前の戦から日にちが経っておらず、半数以上は疲れが癒えていない。

 才明が寝返らなければ勝機はない。もし隊ごと俺たちについたとしても、太史翔の陣営の総戦力が上なのは変わらない。

 出陣する前に城の広間で華候焔に質問すると、いつものように勝ち誇った笑みを浮かべた。

「今回は追い込み猟をしようかと思う」

「追い込み猟?」

「誠人様と英正の隊に囮になってもらい、敵が深追いした時を見計らって才明に寝返ってもらう。そして俺と顔鐡が敵を側面か背後から攻める。俺が迫れば一騎打ちを避けて、敵隊は二人のどちらかに向かっていくだろう」

「それなら俺の所へ来て一騎打ちを挑みそうだな。領主を仕留めれば戦は強制的に決着がつくから」

「ああ。だから今回も英正には誠人様のフリをしてもらう。そろそろ準備が整う頃だが――」

 話の最中、広間へ英正が現れる。
 茶色の髪を黒く染め、俺と同じ橙色の服をまとっている。近くで見れば俺ではないと気づかれるだろうが、遠目からなら判断が難しいと思う。

 緊張した面持ちの英正へ、華候焔が笑いかける。

「英正、いい感じで仕上がったな。今日は前のように俺は近くで守らないぞ。戦う術は授けた。男なら自分でどうにかしろよ」

「心得ております、華候焔様。領主様のために全身全霊で戦う所存……必ずや敵を討ち、勝利を呼び込んでみせます」

 気合は十分だ。英正に怯えや不安は一切なく、がむしゃらに勝ちを手にしてやろうという気概を感じる。

 ただ、少々力が入り過ぎている。試合前の自分と重なり、これで本領発揮できず負けてしまった試合があったことを思い出す。

 俺は英正に歩み寄り、ぽん、と肩を叩いた。

「もう少し力を抜いたほうがいい。剛のみで戦えば、ぶつかり合った時に呆気なく強打に折れる……柔を忘れるな。ふたつを使い分けてこそ強くあれる」

「はいっ、ありがとうございます! 領主様のお言葉、胸に刻んで戦います」

 目を輝かせて返事をする英正を見て、昨夜の約束が俺の頭をよぎる。

 ……これで敵将を討つことになれば約束を守らざるを得なくなる。
 英正に負けて欲しくはないが、勝ち抜けるとなれば褒美は与えなくてはいけない。

 一瞬だけ複雑な心境になってしまうが、それでも勝ちは欲しい。英正にも無事でいて欲しい。

 俺は純粋に英正の活躍を望みながら「期待している」と言葉を送った。
 
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