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四話 追い駆ける者、待つ者

技の掛け合い

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 敵兵が俺たちに気づいて反応する。
 最前の兵は槍を、後方は弓を構えて俺を狙う。

 穿とうと攻撃を放たれる前に――俺は竹砕棍を握り、振り下ろしながら溜めていた力を放つ。

「炎舞撃……っ!」

 炎の渦が立ち昇り、辺りに灼熱の痛みを飛ばす。
 赤い光が遠くの敵兵を照らし、俺の存在に気付いてどよめく気配がする。

 しかし不意に突風が吹いたかと思えば、俺の炎がさらに勢いを増して広範囲へ散らばっていく。

 自然に吹く風にしては勢いがあり、あまりに人工的だ。
 不自然さに顔をしかめていると、才明がいつの間にか軍師が持つ羽根の扇子を手にし、ひらひらとあおいでいた。

「これが私の技ですよ。広風こうふう……誰かの技をより範囲を広げさせるものです。武勇はありませんが、将を活かす術はいくつか持ち合わせております」

 軍師というだけでもありがたいのに、戦いのサポート役までこなしてくれるのは助かる。

 癖のある性格は気になるところだが、それを言ったら華候焔も同じ人種だ。一人も二人も変わらない……と思わないと前に進めない。

 俺は辺りを見渡し、英正の姿を探す。

 敵味方が入り混じった中、その姿を見つけるのは困難かと思われたが――パァンッ! 激しく空を割る音が辺りに轟き、北の方角で縦に走る閃光が見えた。

「あれは……もしかして英正の技?」

 俺は弱った敵兵たちの中を馬で疾走する。

 英正に近づくほどに敵の動揺が凄まじい。領主らしい者が二人現れたからと惑っている感じではない。

 まるで四方に脅威があり、どこへ逃げればいいのか分からなくなっている獣のような……。

 俺の姿を見て攻めようとしてくる者がいても腰が逃げている。目は明らかに怯え、どうにか生き延びようと足掻いているように見える。

 何かがおかしい。
 自軍に有利な状況になっているのに、見えない全貌に不安を覚えてしまう。

 敵兵の攻撃を軽く払いながら閃光が落ちた場所へ向かうと、青白い光が敵兵に囲まれながら、舞うように跳ねる姿が目に入ってくる。

 ようく目をこらして見つめていると、それが人の形をしていることに気が付く。
 次第に光を帯びたそれの正体が分かってくる。

 黒く染められたはずの髪は青白く、揺らめきながら逆立っている。
 手にしている槍を自在に振り回せば、辺りにバチッ、バチッ、と火花が散り、それに触れた途端に兵が光り、その場へ崩れ落ちる。

 まるで雷神が降臨したかのような動きだ。
 俺は思わずその名を呼んでいた。

「……英正……?」
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