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六話 将の育成は体を張って

東郷からの要請

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   ◇ ◇ ◇

 ゲームを再開するまで三日の猶予がある。

 中断直後は体の疲労が酷くて熟睡するしかない。理由は分かる。思い出すだけ身悶えてしまって眠れなくなるから、考えないようにしてやり過ごす。

 そして起床してから俺は朝練のために大学の体育館へ向かい、持久力アップを重点的に行う。
 現実の体力がゲームにも反映されている手応えがある。今よりも持久力が増えれば、戦にも一騎打ちにも有利な上に、ゲーム内での手合わせを長くこなすことができる。

 素手ならば長年築き上げた柔道の経験を活かせるが、武器の経験はあまりない。しかも技の熟練度を上げなければ、身に着けたままの威力。より強い技へ昇華させるためには、ゲーム内での鍛錬が不可欠だ。

 準備運動をこなしてから、コーチの指示を仰ぎながらトレーニングを行い、その際にさりげなく坪田のことを周囲に聞いてみる。しかし、

「まだ連絡つかないんだよ。何やってんだろうな、坪田のヤツ?」

「本当に夜逃げしたのか? いつかやりそうだとは思っていたけど……」

「事件に巻き込まれたのかもな。なんでも首突っ込むような性格だし」

 やはり誰も坪田の行方を知らないどころか、目に見えて評価がガタ落ちしている。
 心配する者もいるが、笑い半分で悪口まがいのことを言う者もいて、正直人間不信になりそうだった。

 俺を厄介事に巻き込んだ男だが、こうなってくると無事であって欲しいと願いたくなる。
 そして俺を『至高英雄』に引き込んだのは、何か事情があってのことではと思いたくなってしまう自分がいた。
 
 トレーニングを終えて汗を拭いていると、コーチが「ちょっといいか?」と俺に声をかけてくる。

「正代、今度の週末だが、東郷選手から世界選手権の強化合宿で練習相手になって欲しいと声がかかったぞ」

 東郷さんが? いつも決勝で負けてばかりの俺を相手に望んでいる?

 にわかに信じられず俺が目を丸くしていると、コーチも困惑したように腕を組んで息をつく。

「今までは上の階級の選手に頼んでいたらしいのだが……どうする正代?」

 コーチが渋っている理由は分かる。
 東郷さんに常敗している俺は明らかに格下。練習相手にならないのではという恐れと、さらに俺が東郷さんに勝つイメージを持つことができなくなり、自信喪失に繋がるかもしれないというメンタル面での問題。

 しかし――今、俺は少しでも早く強さを手にしたい。
 真っ当な方法でそれが叶うはずがないことは、ゲームで散々味わってきたし、華候焔に教えられた。

 強者の力に直接触れ、そこから強さを見出すことが、どれだけ成長を促すことか。

 答えは一択だった。

「分かりました。週末の強化合宿、参加します」

 決意を口にしながら、ひとつだけ引っかかったこと。
 合宿期間内に一度はVRを起動して、『至高英雄』をプレイしなければいけない。

 時間は問題ない。だがゲームの中断をするには、戦を終えて将に褒美を与えなければできない。

 ……抱き潰された疲労感で寝過ごさなければいいが――。
 
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