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七話 現実が繋がる時

疑惑の動画

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   ◇ ◇ ◇

 練習を終えて、夕方の懇親会まで休息を取るために、俺はホテルの自室へ向かった。

 中はダブルベッドが置かれだけのシンプルな部屋。
 ふぅ、と息をつきながら俺はベッドに腰かけ、そのまま倒れ込んで天井を仰いだ。

 体は疲れを覚えているが、まだ東郷さんと向き合い続けたくて高揚したまま。
 柄にもなく胸がときめいて、口元が緩んでしまっている自分を自覚し、思わず苦笑してしまう。

「あの人を前にして、こんなに楽しく感じる日が来るなんて……な」

 負けたくない、という切望はずっと胸奥でくすぶり続けているのに。
 東郷さんと高みを目指していけることが、嬉しくて仕方がない。

 ただ、どうしても引っかかる。
 前の試合で負けた俺を見下ろしていた時の東郷さんの冷たい目と、今日向けられていた眼差しが、あまりにも違い過ぎる。

 まるで姿だけそのままに、中身が入れ替わってしまったかのような――。

「……いや。試合中だけ人が変わってしまうことは珍しくない。多分、東郷さんはそういう人だってことなんだろう」

 小さく呟いて自分に言い聞かせる。それでも感じてしまう違和感は消えなかった。

 ぐるりと寝返りを打って横たわった瞬間、下に向けた腰に違和感を覚える。

 そういえば仲林アナウンサーに名刺を貰っていたんだ。
 慌てて体を起こしてポケットから名刺を取り出すと――ピラ。裏側の角がわずかにめくれていた。

「これは……保護シール?」

 めくれた所を指で摘まんで軽く引っ張ってみれば、ペリペリと剥がれていく。
 そして現れたのは部屋番号らしい数字と、QRコードと走り書きだった。

『正代選手へ 動画にあのゲームの秘密がある』

 なぜこんな形で仲林アナが俺にこれを……?
 ゲームとは……まさか『至高英雄』なのか?

 しばらく呼吸を忘れて名刺裏を凝視し、慌ててスポーツバッグに入れていたスマホを取り出してコードを読み取る。

 出てきたのは無料ダウンロードサイト。
 置かれていたデータを取得して動画を再生すると、それは明らかに誰かの私室を隠し撮りした動画だった。

 誰とも分からない男がベッドに腰かけ、黒いVRゴーグルを装着する。
 パチン、と側頭部の電源スイッチを入れた直後――。

 ――男は部屋から姿を消した。

「……っ!」

 俺は大きく息を引き、スマホの画面に釘付けになる。

 誰もいない部屋の映像が数分続くが、まだ再生時間はある。きっとまだ他にも何かあると思い、俺は早送りせずにそのまま動画を流し続ける。

 そして十分ほどが経過して、再びゴーグルを着けた男性が姿を現わす。
 何もなかったベッドの上に突然体を横たえた形で――。

 動画の終わりで、ゴーグルを外した男性が呟く。

『もう、次がない……助けてくれよ……誰か……』
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