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八話 本当の仲間は誰?

財がなければ奪うまで

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 領主である俺の意向を聞かずに、華候焔たちがコンパウンドボウ量産に向けて話を進めようとしている。

 戦力が増えるのはありがたいこと。それを可能にする技術者もいる。
 俺が勝ち続けるために手を打とうとしているのは分かるが……三人とも子供がはしゃぐような無邪気さが滲み出ていて、本当にいいのだろうかと若干不安がよぎる。

 しばらく彼らの話を耳にしていると、おもむろに白澤が俺の首から浮き上がり、華候焔たちの所へ飛んでいく。

「ちょっと落ち着いて下さいー。強い弓を作るのはいいと思いますけどー、ウチの財政はまだまだなんですからー。この間の城と町の拡張で、ごっそり無くなってるんですからー」

 ……そうだな。これだけ大規模に発展したら、莫大な金額が出て行くのは当然だな。

 世知辛い事実を告げられて、鉄工翁の顔から輝きが消える。頭が現実に戻ってきて、考えているような規模では作れないということを理解した顔だ。

 恐らく作ることができても、せいぜい数個が限界。
 コンバウンドボウ専用の部隊を作ったり、敵が攻め込みやすい土地に巨大な物をいくつも配置したりは無理だろう。

 しかし、諦めを滲ませる鉄工翁とは裏腹に、華候焔と才明は希望に満ちたままだ。

 それぞれに愉快げで不敵な笑みを浮かべると、二人は俺に視線を送った。

「まともに材料買ってたら、そりゃあ金が足らないだろうなあ。しかもよく売れるとなれば、商人どもは値段を吊り上げてくる……誠人様が材料を買い揃えるのは難しい。だがな――」

 華候焔が意味ありげな目で才明を見やる。それに気づいて糸目がにんまりと弧を描く。

「買うのは悪手ですね。己の身の程を弁えなければ……私たちには財がない。しかし武具の材料は欲しい。となれば、奪うしかありませんね」

「う、奪う、だと? 略奪行為は許さないぞ」

 思わずギョッとなって制そうとする俺に、才明は小さく首を横に振った。

「商人を略奪するなんて真似はしませんよ。戦を仕掛けて城を奪うのですよ。たっぷりと材料になる物を相手に集めさせて城に置いた状態で……」

「それは大丈夫なのか? 鉄が材料になるなら、目的は武器や防具あたりだろ? 装備が多く集まれば、戦は俺たちが不利になると思うのだが」

「正攻法で挑めばそうでしょうね。しかし――」

 今度は才明が華候焔へ視線を送る。
 互いに不穏な笑みを唇に浮かべ、何やら企んでいる気配が漂う。

 この二人の狙いが重なると事態が大きく動く予感しかしない。

 まるで悪だくみでも始めそうな悪い顔をしている華候焔と才明を見交わしながら、白澤から「嫌な予感がしますー」と俺の心の声を代弁するぼやきが聞こえてきた。
 
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