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九話 新たな繋がり

垣間見える本気

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   ◇ ◇ ◇

 華候焔の本気が寝台の上でどう出るのかと思っていたが、その片鱗は褥に入る前から始まっていた。

「ちょっと華候焔ー! 誠人サマに近いですー! そんなに宴の席でべったりしないで下さいー!」

 宴の席で白澤が華候焔と真正面から向き合い、白い毛を逆立てながら怒鳴ってくる。
 俺のために怒っているのは分かる。その気持ちは嬉しいが、見た目はどうしても白タオル。毛が立てばふわふわした白マフラーにしか見えない。

 そんな迫力に欠ける白澤の非難に、華候焔がフン、と鼻で笑う。

「今日は誠人様の褒美を独り占めできるんだ。これぐらいやっても構わんだろう。なあ、誠人様?」

 ずっと俺に身を寄せ、肩を抱きながら酒を楽しんでいた華候焔が俺を覗き込む。
 眼差しがどこかうっとりとして、美女に相貌を崩しているかのような顔。周囲に俺と特別な関係があるのだと思わせる雰囲気に、俺は顔を熱くしてしまう。

「華候焔……その、俺も近いと思う。飲みにくくはないか?」

「飲みにくい訳がないだろう。最上の肴を愛でながら飲めるなんて最高だ」

 低く優しい声で俺に語りかけると、華候焔は戯れに俺の頬へ口付ける。

 事情を知らない者が見れば、酔いゆえの無礼講と思われるかもしれない。
 だが酒は飲んでいるが華候焔は酔っていない。ほんのり頬が赤くなっているだけで、俺の肩を抱き続ける手は軽く身じろいでも離そうとしない。はっきりした意思を持って、皆がいる中で俺に密着している。

 きっとこれも褒美の独り占めの一環なのだろう。
 そして本気を出して周りに見せつけているのだろう。俺との仲を知らしめて、褒美が欲しければ俺を上回れと牽制しているようだ。

 やり過ぎだ、と窘めることは容易だ。
 しかし華候焔に本気を受け止めると言った以上、これも許容するしかない――子どものワガママみたいなものに見えてきて、俺は思わず華候焔の頭に手を伸ばす。

「……焔がそれでいいなら構わないが、わざと白澤を怒らせて遊ぶのはやめて欲しい」

 つい子どもを宥めるように頭を撫でると、華候焔の体が一瞬固まる。
 次の瞬間、ガバッと俺に抱き着いてきた。

「これは済まなかった! 誠人様を相手にしている最中に、わずかでも長毛玉に気を取られてしまうとは……」

「何をふざけたことを言っているんですかー! この酔っ払いオヤジー! 誠人サマ、こんな酔いどれの悪ふざけに付き合わなくても良いんですよー」

「これで俺の百の忠誠と力が手に入るんだぞ? 安いもんだろうが」

「その言い方はやめて下さいー! まるで誠人サマが安いみたいに聞こえるじゃないですかー!」

「うん? それは確かにそうだな。済まない」

「分かればよろしいですー」

 ……何を言っているんだ二人とも……。
 むしろ白澤が酔っているんじゃないかと心の中で呟きつつ、俺は辺りを見渡す。

 いつもなら末席にいる英正の姿はない。俺を取り合うように俺の近くを陣取る才明もいない。

 英正は今ごろどこにいるだろうか? 才明はこれからの準備に動いているのだろうか?
 ふと二人のこと考えていると、不意に華候焔が俺の耳元に唇を寄せて囁く。

「誠人、今は俺のことだけ考えろ。独り占めさせてくれ」

 華候焔の本気が垣間見えて、俺の腰が甘く疼いてしまう。
 なんて貪欲なんだと思いながら、俺は小さく息をつくしかなかった。
 
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