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九話 新たな繋がり

抱かれた感覚が鮮明なまま

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   ◇ ◇ ◇

 仲林アナと別れた後、俺は柔道着に着替えて合同練習に参加した。

 すでに他の選手たちが集まり、肩慣らしに乱取りを始めている者たちもいる。
 俺が辺りを見渡しながら会場内へ入っていくと、念入りに準備運動をしている東郷さんの姿を見つける。

 ふと夜の情事を思い出し、体の奥が熱くなる。
 ここへ来る前にゲームで数日を過ごしているから、少しは感覚が薄れていてもおかしくないのに、東郷さんに抱かれた感覚が鮮明なままだ。

 意識していては練習できない。気を引き締めなければ……。
 軽く腹部に力を入れて湧き上がる熱と甘さを抑え込んでいると、顔を上げた東郷さんと目が合う。

 ふわり、と。無表情だった東郷さんの顔に、柔らかな笑みが浮かぶ。そしてこっちに来いと俺を手招いてくる。

 ……これがプライベートな時間だったら、情けなく崩れ落ちて身悶えているかもしれない。

 体も心も囚われてしまっている自分を痛感しながら、俺は何食わぬ顔で東郷さんの元へ向かった。

「すみません、東郷さん。待たせてしまいましたか?」

「ああ、少しだけ。正代君なら早く来て準備しそうだと思ったから、それに合わせて来たんだが……よく考えてみれば、少し休ませるべきだった。昨夜は長く付き合わせてしまったからな」

 俺の肩に手を置きながら、東郷さんが昨夜を思い出させるようなことを囁いてくる。

 ああ、この人は。ストイックそうに見えるだけで、意外と遊ぶことが好きな人だ。
 そうでなければこんなに俺に羞恥を沸かせて、見て楽しむなんて真似はしない。

 動揺で俺の目が泳いでしまう。しかし今は流されてはいけないと揺れる心を抑え、平然と応対する。

「問題ありません。すぐに体を温めて、東郷さんの練習相手になりますので」

 軽く会釈してから俺は東郷さんから距離を取り、準備運動に取りかかる。
 俺の言動が意外だったのか、東郷さんは一旦目を丸くする。それからフッと小さく吹き出した。

「ありがとう。君の真摯な気持ちに甘えさせてもらう。ただし正代君を潰したくはないから、限界を感じた時はすぐに言って欲しい。無理はしないでくれ」

「はい、分かりました。お気遣い感謝します」

「それと練習が終わってから、荷物を持って私の部屋に移って欲しい。合宿が終わるまで相部屋だ」

「はい……えっ?」

 突然の話に今度は俺が目を丸くしてしまう。
 そんな俺の驚きをからかうように、東郷さんがわずかに口角を上げる。

「なんなら俺が正代君の部屋に行ってもいい。どうする?」

「お、俺が、東郷さんの部屋に行きます……っ。あの、少し走り込んできますので、失礼します」

 逃げるように俺は駆け出し、会場内の隅で流すように走り込む。

 心臓がバクバクと激しく脈打つのは走っているせいじゃない。
 色々と見えてきて、東郷さんが何を考えているのかが分かってきたせいだ。

 俺は息を弾ませながら、自分の体と心をコントロールしていく。

 積み重ねてしまったものに流されぬように――。
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