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九話 新たな繋がり
酔いどれに振り回されながら
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「華候焔……澗宇様が久しぶりの再会に喜んでいらっしゃるからと抑えていたが、羽目を外して主を辱める言動を取るというなら容赦はせぬ! 外へ出ろ。いくらこの大陸で一番の猛者でも、酔いどれの身で私に勝てるはずがないだろ」
「侶普、お前とはやらねぇ。一番本気で戦えない奴だからなあ」
言いながら俺の所まで来ると、華候焔がガバッと抱きついてくる。いつになく酒臭くて体が火照っている。
人前で何をしでかすんだ……。
筋肉で重みのある体で俺にのしかかりながら、華候焔は小さくため息をつく。
「俺としてはいけ好かん奴だが、お前を本気で潰したら澗宇が悲しむからな。絶対に戦わん」
「私を見くびるな。お前などに潰されるほど弱くなど――」
「強いから本気出さざるを得なくなるんだって。そしたら加減できねぇし……弟に嫌われたら、俺……暴走してこの世界全部壊すな」
酔っ払いの戯言だと分かっているが、華候焔が言うと冗談に聞こえない。
内心密かに冷や汗を流していると、おもむろに立ち上がった澗宇が俺たちの所へ寄ってきた。
「兄さま、少し酔い覚ましの水を飲まれたほうがいいですよ。そんなに人前で絡まれて誠人様が困っております」
「いいんだよ俺は。こうできるのが俺にとっての褒美なんだし……だよなあ、誠人様?」
唐突に華候焔は俺の体を深く抱き込み、人の顎を掴んで強引に顔を向かせられる。
ニヤリと不敵に笑う顔はいつも通りなのに、細まった目の奥が甘く蕩けているのが見えてしまう。
気づいた瞬間、思わず俺の顔が熱くなってしまう。
このままだと有無を言わせず口付けられて、澗宇たちの前で醜態を晒しかねない。俺は慌てて澗宇の顔を横に向かせながら、腕の中から抜け出そうともがく。
「焔、悪乗りが過ぎるぞ。こういうことは――」
「華候焔殿、今日の宴は関羽様との同盟成立を祝うもの。いくら澗宇様とは知らぬ仲でも、羽目を外して見苦しい姿を見せ続けられるのは困ります。領主様の威厳を地に落とすつもりですか?」
こちらの様子を見かねて来たのか、才明が苦笑しながら現れる。
ムッと不快そうに華候焔は唇を尖らしたが、渋々俺から離れてあぐらをかいた。
「えー、つまんねぇな。祝いの席だからこそ、もっと無礼講でもいいだろー」
「よくありません。親しき仲にも礼儀ありです。それと、これから大切な話を関羽様とさせて頂きますから、華候焔殿にも同席してもらいますよ」
「……はぁぁ、しょうがないなあ。水飲んで素面に戻ってやる」
頭をボリボリと掻きながら華候焔が、近くの盆に置かれていた水呑みに手を伸ばす。
酔いどれの暴走が落ち着いて何よりだと思っていると、才明が俺に近づいて耳打ちした。
「誠人様、もうしばらくしたら宴をお開きにしましょう」
「ああ、澗宇も移動で疲れているだろうから、あまり引き延ばさないほうが――」
「本日は英正を労ってあげて下さい。私と白澤殿とともに、酔いどれの華候焔殿の相手をしておきますから」
才明の気づかいに俺は口元を少しだけ緩めた。
「……ありがとう。今晩だけは我慢してもらえるか?」
「もちろんです。英正殿のおかげで、私のやりたいことができるのですから」
互いに視線を合わせて無言の了承を確かめ合った後、俺は部屋の隅にいる英正へ目を向ける。
今回の立役者だというのに、英正は控えたままだ。
きっとこちらから何か欲しいかと尋ねても、遠慮して答えてはくれないだろう。
言葉にせずとも英正の欲しいものは分かっている。
……頭では覚悟できていてもまだ心がついていかず、俺は後のことに向けて心の準備を進めていった。
「侶普、お前とはやらねぇ。一番本気で戦えない奴だからなあ」
言いながら俺の所まで来ると、華候焔がガバッと抱きついてくる。いつになく酒臭くて体が火照っている。
人前で何をしでかすんだ……。
筋肉で重みのある体で俺にのしかかりながら、華候焔は小さくため息をつく。
「俺としてはいけ好かん奴だが、お前を本気で潰したら澗宇が悲しむからな。絶対に戦わん」
「私を見くびるな。お前などに潰されるほど弱くなど――」
「強いから本気出さざるを得なくなるんだって。そしたら加減できねぇし……弟に嫌われたら、俺……暴走してこの世界全部壊すな」
酔っ払いの戯言だと分かっているが、華候焔が言うと冗談に聞こえない。
内心密かに冷や汗を流していると、おもむろに立ち上がった澗宇が俺たちの所へ寄ってきた。
「兄さま、少し酔い覚ましの水を飲まれたほうがいいですよ。そんなに人前で絡まれて誠人様が困っております」
「いいんだよ俺は。こうできるのが俺にとっての褒美なんだし……だよなあ、誠人様?」
唐突に華候焔は俺の体を深く抱き込み、人の顎を掴んで強引に顔を向かせられる。
ニヤリと不敵に笑う顔はいつも通りなのに、細まった目の奥が甘く蕩けているのが見えてしまう。
気づいた瞬間、思わず俺の顔が熱くなってしまう。
このままだと有無を言わせず口付けられて、澗宇たちの前で醜態を晒しかねない。俺は慌てて澗宇の顔を横に向かせながら、腕の中から抜け出そうともがく。
「焔、悪乗りが過ぎるぞ。こういうことは――」
「華候焔殿、今日の宴は関羽様との同盟成立を祝うもの。いくら澗宇様とは知らぬ仲でも、羽目を外して見苦しい姿を見せ続けられるのは困ります。領主様の威厳を地に落とすつもりですか?」
こちらの様子を見かねて来たのか、才明が苦笑しながら現れる。
ムッと不快そうに華候焔は唇を尖らしたが、渋々俺から離れてあぐらをかいた。
「えー、つまんねぇな。祝いの席だからこそ、もっと無礼講でもいいだろー」
「よくありません。親しき仲にも礼儀ありです。それと、これから大切な話を関羽様とさせて頂きますから、華候焔殿にも同席してもらいますよ」
「……はぁぁ、しょうがないなあ。水飲んで素面に戻ってやる」
頭をボリボリと掻きながら華候焔が、近くの盆に置かれていた水呑みに手を伸ばす。
酔いどれの暴走が落ち着いて何よりだと思っていると、才明が俺に近づいて耳打ちした。
「誠人様、もうしばらくしたら宴をお開きにしましょう」
「ああ、澗宇も移動で疲れているだろうから、あまり引き延ばさないほうが――」
「本日は英正を労ってあげて下さい。私と白澤殿とともに、酔いどれの華候焔殿の相手をしておきますから」
才明の気づかいに俺は口元を少しだけ緩めた。
「……ありがとう。今晩だけは我慢してもらえるか?」
「もちろんです。英正殿のおかげで、私のやりたいことができるのですから」
互いに視線を合わせて無言の了承を確かめ合った後、俺は部屋の隅にいる英正へ目を向ける。
今回の立役者だというのに、英正は控えたままだ。
きっとこちらから何か欲しいかと尋ねても、遠慮して答えてはくれないだろう。
言葉にせずとも英正の欲しいものは分かっている。
……頭では覚悟できていてもまだ心がついていかず、俺は後のことに向けて心の準備を進めていった。
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