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九話 新たな繋がり

●憂いを帯びたまま

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   ◇ ◇ ◇

 宴を終え、身を清めてから俺は自室へと向かう。

 扉を開けて中へ入ろうとした時、ふと気配を感じて振り向く。
 俺が来た通路とは反対側から現れた英正が、俺と目が合った途端に立ち尽くし、困惑の表情を浮かべて固まった。

「誠人様……」

 見事に俺たちの望みを期待以上の形にしてくれた立役者のはずなのに、ここへ戻って来てからの英正はずっと表情を曇らせている。

 いったい何を憂いているのだろうか?
 心の中で首を傾げながら、俺は小さく微笑みながら英正に目配せする。

「こっちに来てくれ。英正がここへ戻って来てから、ずっと話を聞きたかったんだ」

 俺の声を聞いた途端、ひどく安堵したように英正の顔と肩から力みが抜ける。
 そして「はいっ」と見慣れた人懐っこい笑みを返し、早歩きで俺の元へ急いだ。

 部屋に入り、英正が扉を閉める。
 ――その直後、俺の体は背後から英正に抱きすくめられた。

 急な締め付けで覚えてしまった息苦しさを、俺は息をついて逃がしながら尋ねる。

「英正、どうしたんだ? 澗宇の所で何かあったのか?」

「……っ……」

 俺の耳に英正から息を詰まらせる音が聞こえてくる。口を開けば嗚咽が零れてきそうな気配に、無言の肯定を汲み取った。

 無理に言わせないほうが良い気がして、俺は話を切り替える。

「今日は英正の望みに応えたい。俺にどうして欲しい? 何がしたい?」

「……貴方が、欲しいです。私の望みはそれだけです」

 英正は腕の締め付けを緩めると、性急に俺の体を自分のほうへ向けさせ、がっつくように口付けてくる。

 人の舌を絡め取り、口内を弄る動きがせわしない。
 待ちきれなかったと焦っているようにも感じるが、どこか悲痛さがあるような、俺に縋りついているような気がしてしまう。

 何を思っているか分からないが、俺は受け止めるから落ち着いてくれ。
 俺は英正の背に手を回し、せわしないキスに応えながら落ち着くようにと優しく叩いてやる。

 しばらくして我に返ったように英正の動きが止まり、わずかに顔を離して俺を見つめる。
 欲情が抑えられず頬を紅潮させながらも、英正の瞳は色めき立ちながら憂いに潤んでいた。

「誠人様……今日は、加減ができません。貴方を乱したくてたまらないんです。それでも許して下さいますか……?」

 一瞬、俺に許しを求めた華候焔の顔が頭をよぎる。

 本気を出してもいいと受け入れておきながら、別の男の想いを受け入れてしまってもいいのか? と胸がざわついてしまう。

 だが命をかけて役目を果たした英正を無碍にはできない。
 対価を物ではなく己で払い続けることに重さを覚えながら、俺はコクリと短く頷いた。
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