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十話 至高への一歩

真実の一端1

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「俺は誠人に強くなってもらいたい。だから本気で戦えなくなる憂いを取り払ってやろう。ここなら運営のヤツらに気づかれにくい。秘密を話すには都合がいい」

「……なんだって?」

 思いがけないことを華候焔に言われて、俺は目を丸くする。

 秘密……この世界のことを教えてくれるのか?
 どうして焔は知っているんだ?

 話を聞く前から疑問が次々と俺の中から湧き上がってくる。
 硬くなってしまった俺をジッと見つめた後、華候焔は上体を引いて座り直し、手元の箸を摘まみ上げた。

「食べながら話そう。せっかくの料理が冷めてしまうのはもったいないからな」

「あ……ああ」

 促されて俺も箸を手にすると、ぎこちない動きで並べられた料理を口にしていく。

 酒のつまみになるように作られているのだろう。全体的に味が濃い。それだけを食べていると口の中がくどくなってしまうが、中華風の白い蒸しパンに挟んで食べると丁度いい。

 数口ほど食べ進んだ頃、華候焔が話を続けた。

「運営側もゲームの本筋から離れた享楽の情事まで、逐一監視したくはないからな。ここなら色々と話せる。そのものを言えばさすがに気づかれるが、ぼやかしながらなら大丈夫だ」

 話ぶりからすると、華候焔は『至高英雄』の裏を知っているようだ。もしかすると俺や仲林さんが知りたいことを掴んでいるのかもしれない。

 緊張で俺の口の中から料理の味が消える。
 そんなに力むなと言いたげに、華候焔はフッと笑った。

「ここは誠人のいる世界とは違うが、作り物とは思えないほどよくできている……だがな、所詮は作り物。さっきの女たちを見たか? 誰かひとりでも顔を思い出せるか?」

 華候焔の指摘に俺は思わず息を引く。

 言われてみれば確かにそうだ。ついさっき見ていたはずなのに、料理を運んでくれた女性たちの顔がまったく印象に残っていない。

 さらに言えば華候焔に話しかけてきた女性が微笑んでいたことは分かったが、顔の造形は意識に入ってこなかった。

 俺の反応を見て、華候焔が短く頷いた。

「名前のない者は、あくまでこの世界を回すだけの存在だ。生きているように見えるだけで、実際はそうじゃない。ここで命がある者は、名前を持っている者だけだ」

 名前付きの者だけが生きている――つまり戦で兵士を率いる将だけが生きていて、他はゲームのデータに過ぎないということなのか?

 しかしゲームの中に俺が体ごと入っている状況を考えると、すべてがゲームとは思えない。作り物の世界に生身の人間を招くなんて、いくら技術が発達した現代でも無理な話だ。

 得心がいかない俺へ、華候焔はさらに答えを与えてくれた。

「誠人の言いたいことは分かる。ここはすべてが造られた世界じゃない。誠人のいる世界とは違う異世界に、特別な魔法をかけて『至高英雄』の世界にしているんだ。だから名前付きの将の中には異世界人もいたりする」
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