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十一話 大きな前進
英正との合わせ技
しおりを挟む城を出て訓練場に向かうと、そこは石畳が敷き詰められて整備され、何百人もの兵が訓練しても余裕のある広さだった。
今は疎らに兵たちが木剣を振り、戦に備えて鍛えている。だが俺と英正の姿に気づくと訓練を中断し、俺たちに気遣ってなのか脇へと移動し、注目してくる。
「見られていると少しやり辛いな……」
思わず俺が呟くと、英正が踵を返そうとする。
「では人払いしてきます」
「いや、このままでいい。早く技を出してみたい」
子供が新しいオモチャを手にしたような高揚感。まだまだ未熟だと自覚しながらも、俺の唇は笑ってしまう。
いつもはここまで心のままに動きはしないが、未知の技には胸が躍るのを止められない。
そんな俺に英正がフッと相貌を崩した。
「私も同じです、誠人様。前に華侯焔様との技を繰り出された時、密かに願っておりましたから。私も誠人様と力を合わせてみたいと」
また、だ。英正が大人びいた表情を見せてくる。
なぜだろうか。英正が前と大きく変わってしまった気がしてならない。
俺とのやり取りに対して、ひとつずつ噛み締めて幸せを味わっているような――。
技を放つ前に理由を聞こうと思ったが、英正は速やかに動き、俺に棍や槍の練習をするための長い木の棒を武器庫から持ってくる。
「どうぞ、誠人様」
手渡す瞬間、英正の瞳がはっきりと輝く。
ああ、この目……俺が知っている英正のものだ。
淀みのない真っ直ぐな英正のままでいて欲しくて、俺は理由よりも木の棒を受け取った。
「ありがとう。じゃあ、さっそく試してみようか」
俺は棒を縦にして両手で握り、前に突き出す。
軽く目を閉じて意識を集中させていくと、身体の底が熱を孕み出す。
淫らに交わって最奥で味わう熱よりも、更に深い所からの熱。
飴が水の中で溶けるような甘い揺らめきを覚え、頭の中がぼうっとしてくる。
俺とは違うものを受け入れる準備を、身体がしているのだろう。何度も自分の中と心を許したからこそ、己のすべてで英正を受け入れられるような気がした。
「誠人様……では、参ります」
小さく英正が息をついた後、トン、と木の棒の先を石床に着ける音が聞こえてくる。
そして息遣いが伝わり、俺の呼吸と重なり合っていく。
次第に英正の熱が身体に流れ込み、俺を隅々まで満たし、力を織りなす。
華侯焔の時はもっと激しく、快感に呑まれそうな時のような強引さがあった。
しかし英正から与えられるものは、どこまでも心地よく、安堵すら覚える。
――パチ、パチ、と。俺の耳元で鋭く弾ける音がした。
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