上 下
244 / 343
十二話 真実に近づく時

想いの向かう先

しおりを挟む
 パタンと扉を閉めると、才明はその場に立ち尽くし、俺を見つめてくる。

「……来ないのか?」

 動く気配のない才明に俺から声をかけると、才明は重い足取りで俺に近づく。

「誠人様……隣に座っても?」

「ああ、構わない」

 ゆっくりと才明が腰を下ろす。
 どちらかが手を伸ばせば触れられる距離。近いようで遠さを感じる。

 何か話すだろうと待ってみるが、才明の口は開かない。だから俺のほうから話を切り出してみた。

「何か悩みでもあるのか? よければ教えて欲しい」

 俺は才明に顔を向け、真っ直ぐに見据える。
 静かに才明は俺を見つめ返す。だが、スッ、と視線が下に逸れた気配がした。

「これを口にして良いものかどうかが悩みですね。言ってしまえば、今まで築き上げたものが壊れてしまうでしょうから」

「約束する。何を聞いても俺は変わらない。今まで通り――」

「それを私が望んでいないとしたら?」

 意表を突かれて思わず俺は目を丸くする。

 変えたいものがある? 何を変えたい?
 少しでも才明の考えを知ろうと頭を巡らせていると、不意に才明が身を乗り出し、俺に顔を近づけてきた。

「あのお二人は良いですよね。純粋に想いを寄せることができて……華侯焔は誠人様の心を射止めている。英正はこの世界で誠人様にすべてを捧げるために作られた……形は違えど、高めた想いが向かう先があるのです」

 糸目がわずかに開き、才明の瞳から熱が覗く。そしてどこか仄暗さが漂い、俺は身を引きそうになる。

 ――今の才明から逃げてはいけない。
 どんな彼でも受け止めなければ。それが領主の役目。

 ジッと訪れを待ち構えていると、才明は吐息がかかるほど顔を近づけ、動きを止めた。

「貴方を抱いて、想いを高めて、目的を果たした後――私には何も残らないのですよ、誠人様」

「え……?」

「ここでの貴方は皆のもの。しかし本当の世界ではもう、あの方に囚われている……私も英正も、華侯焔には敵いません。でも英正はこの世界でしか生きられないからと、別れの日まで想いを高める気でいます」

 そっと才明の手が俺の頬に添えられる。まだ湯冷めしていない手は熱く、才明の高ぶる気持ちを表しているようだった。

「誠人様が覇者になれば、私はこの世界から解放される……育てた想いをぶつけたくても、既に貴方は奪われている。この世界でなければ、私は貴方を抱くどころか、こうして愛しく触れることもできません」

「才明……」

「身体を重ねて想いを深めれば、誠人様と強い技を生み出せることは承知しています。それでも……これ以上、貴方を想えば私は……絶望しかない」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

グッバイシンデレラ

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:115

諦めは早い方なので

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:53

呪われた第四学寮

ホラー / 完結 24h.ポイント:1,533pt お気に入り:0

狂愛アモローソ

BL / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:5

宇宙は巨大な幽霊屋敷、修理屋ヒーロー家業も楽じゃない

SF / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:65

十年目の恋情

BL / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:42

愛及屋烏

BL / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:5

メロカリで買ってみた

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:10

処理中です...