269 / 345
十二話 真実に近づく時
兄弟の対立
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
砦に戻り、昂命を縛り上げて牢に閉じ込めた後、俺たちは軍議の部屋に集まった。
この世界を管理する者を捕らえたという朗報は、澗宇の表情をいつになく輝かせた。
「あの魔導士を捕らえて下さって、本当にありがとうございます! 彼が世界の理……この『至高英雄』を生み出した者。言うことを聞かせることができれば、有利に戦うことができます」
「だが、言うことを聞いてくれるかどうかは怪しいな。性格悪いし、人を惑わしてくる男だ。上手く交渉できるか次第だな」
嬉々とする澗宇とは裏腹に、華侯焔は慎重だ。どんな人物か直接やり取りしたか否かで、反応が違っているのだろう。
俺も華侯焔側の意見だ。なかなか掴みどころを見せない才明よりも、悪意を持って人の心を振り回そうとする昂命は危険だ。
才明が澗宇に身体を向けると、頭を深々と下げる。
「どうか私に昂命と話をさせて下さい。何か有益な情報が分かりましたら、必ず報告致しますので」
「ええ、お願いします。何か必要なことがあれば、なんでも言って下さい」
「お心遣い感謝します。では……」
もう一度頭を下げると、才明は俺にも一礼して「失礼します」と部屋を出て行く。
早く話をしたくてたまらないのだろうか、才明の動きが焦っているように見える。
大丈夫だろうかと思っていると、俺の隣で華侯焔が小さくため息をついた。
「しばらくしたら様子を見に行ったほうがいいかもな。今のアイツは揺らぎやすそうだ」
「……俺に行かせて欲しい。才明には負担をかけさせてばかりだ。できる限り支えてやりたい」
道中で見せた才明の悩みを思い出しながら、俺は華侯焔を見上げる。
他の誰かに心を配ることを本当は面白く思っていないのだろうが、それでも華侯焔は口元を綻ばせた。
「あの意気地なしに誠人様を向かわせるのはもったいないが、褒美は必要だからな。ちゃんと餌をやって、しっかりさせてくれ」
軽く笑ってから、華侯焔は表情を引き締めて澗宇に視線を戻す。
「さて……まずは澗宇、お前と交渉しなくちゃな」
「兄様?」
「捕らえた昂命だが、誠人様の領地に連れて行かせてもらう」
華侯焔に話を切り出された途端、澗宇の表情が強張る。
「いえ、彼は僕の所で預かります。そうしなければ――」
「誠人様に迷惑がかかる、と言いたいんだろ? それはこっちも言いたいことだ。澗宇、俺たちはお前に迷惑をかけたくない」
領地を離れたといっても、仲の良い兄弟。この二人が対立するのは珍しい。
俺は華侯焔に顔を向け、尋ねてみる。
「昂命を置いていると、何かが起きるのか?」
「おそらくな。アイツは格付け一位の志馬威の所にいる軍師……間違いなく取り戻そうと真っ先に手を打ってくるはずだ」
砦に戻り、昂命を縛り上げて牢に閉じ込めた後、俺たちは軍議の部屋に集まった。
この世界を管理する者を捕らえたという朗報は、澗宇の表情をいつになく輝かせた。
「あの魔導士を捕らえて下さって、本当にありがとうございます! 彼が世界の理……この『至高英雄』を生み出した者。言うことを聞かせることができれば、有利に戦うことができます」
「だが、言うことを聞いてくれるかどうかは怪しいな。性格悪いし、人を惑わしてくる男だ。上手く交渉できるか次第だな」
嬉々とする澗宇とは裏腹に、華侯焔は慎重だ。どんな人物か直接やり取りしたか否かで、反応が違っているのだろう。
俺も華侯焔側の意見だ。なかなか掴みどころを見せない才明よりも、悪意を持って人の心を振り回そうとする昂命は危険だ。
才明が澗宇に身体を向けると、頭を深々と下げる。
「どうか私に昂命と話をさせて下さい。何か有益な情報が分かりましたら、必ず報告致しますので」
「ええ、お願いします。何か必要なことがあれば、なんでも言って下さい」
「お心遣い感謝します。では……」
もう一度頭を下げると、才明は俺にも一礼して「失礼します」と部屋を出て行く。
早く話をしたくてたまらないのだろうか、才明の動きが焦っているように見える。
大丈夫だろうかと思っていると、俺の隣で華侯焔が小さくため息をついた。
「しばらくしたら様子を見に行ったほうがいいかもな。今のアイツは揺らぎやすそうだ」
「……俺に行かせて欲しい。才明には負担をかけさせてばかりだ。できる限り支えてやりたい」
道中で見せた才明の悩みを思い出しながら、俺は華侯焔を見上げる。
他の誰かに心を配ることを本当は面白く思っていないのだろうが、それでも華侯焔は口元を綻ばせた。
「あの意気地なしに誠人様を向かわせるのはもったいないが、褒美は必要だからな。ちゃんと餌をやって、しっかりさせてくれ」
軽く笑ってから、華侯焔は表情を引き締めて澗宇に視線を戻す。
「さて……まずは澗宇、お前と交渉しなくちゃな」
「兄様?」
「捕らえた昂命だが、誠人様の領地に連れて行かせてもらう」
華侯焔に話を切り出された途端、澗宇の表情が強張る。
「いえ、彼は僕の所で預かります。そうしなければ――」
「誠人様に迷惑がかかる、と言いたいんだろ? それはこっちも言いたいことだ。澗宇、俺たちはお前に迷惑をかけたくない」
領地を離れたといっても、仲の良い兄弟。この二人が対立するのは珍しい。
俺は華侯焔に顔を向け、尋ねてみる。
「昂命を置いていると、何かが起きるのか?」
「おそらくな。アイツは格付け一位の志馬威の所にいる軍師……間違いなく取り戻そうと真っ先に手を打ってくるはずだ」
0
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる