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十二話 真実に近づく時

何があっても味方に

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 志馬威の軍師。その短い言葉だけで事の重大さが分かる。

 そのそも、この世界を作った魔導士というだけでも重要人物なのに、大国を支える軍師が奪われたとなれば、政にも戦にも影響が出るはずだ。

 昂命がこちらに捕らえられたと知れば、戦を仕掛けて揺さぶりをかけてくるかもしれない。同じ大国でも澗宇の領地は戦いを避け続けてきた故に、いざ戦となれば上手く立ち回るのは難しいだろう。

 澗宇が怯み、唇を硬く結ぶ。それでも華侯焔から目を逸らさずに食い下がる。

「ならば尚さら僕が預からねば。まだ土台が盤石ではない誠人さんに、負担をかけさせることはできません」

「誠人様には俺がいる。太史翔の領地や武将も手に入れて、力もつけてきている。何より俺は、一位に挑むために準備を進めてきたんだ。抜かりはない」

 はっきりと華侯焔が言い切る。決して大きくはないが、辺りに通る力強い声。

 俺は二人の間に割って入ると、澗宇に笑いかけた。

「心配してくれて感謝する、澗宇。だが俺も覇者を目指してこれまで戦ってきた。いずれ向き合わねばいけない相手に目をつけられても、それは負担じゃない」

「誠人さん……」

 澗宇の眉間が寄り、苦しげな表情を浮かべる。
 申し訳無さそうな色を見せ、一瞬何か口を開きかけるが言葉を飲み込む。

 そうして視線を伏せた後に頷いた。

「……分かりました。でも誠人さんだけに負担はかけさせません。物資の支援と援軍だけでなく、何があっても必ず味方であり続けることを約束します」

「ありがとう。その言葉をもらえて心強い」

「どうか忘れないで下さい。この澗宇陣営は誠人さんの味方です。誰が相手であったとしても、どれだけ不利な状況であったとしても、澗宇の名において絶対に違えることはありません」

 まるでこの先に起きることを悟っているように、澗宇は噛み締めるように告げる。

 この中で一番儚げであるのに、今まで聞いてきた声の中で最も重みがある。

 澗宇に全幅の信頼を寄せることができるのは、俺にとって本当に幸運なことだ。

 だからこそ覚悟を見せてくれる彼には、絶対に敵の手を届けさせたくはない。
 俺の所で必ず止めてみせる。そして『至高英雄』を終わらせた後は、現実で朝のような談笑ができる未来を手にしたい。

 俺は頷き、澗宇の決意を受け止める。
 そして華侯焔に振り向いた時、その顔に胸がドキリとなる。

 華侯焔の目は澗宇にしっかりと向けられていた。
 唇は笑っていながら、どこか悲しげな眼差し。最近よくこんな顔をしている気がする。

 フッと息をつき、華侯焔は俺に視線を合わせてきた。

「覚悟しておけよ。城に戻らない内に猛攻が始まるかもしれんぞ」

「ならば急いで帰還しよう。準備を進めて明日には発とう」

 俺の答えに華侯焔は「全力で駆けるぞ」と、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
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