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十二話 真実に近づく時

昂命との面会2

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 軽く目を見開いてから、昂命は「ふぅん」と目を細める。

「どうしてそこまで真っ直ぐでいられるのか、オレには理解できないな。裏切られてこの世界に引きずり込まれて、自分の身体を食い物にしながら戦って……案外と気に入っちゃった? 男に抱き潰される生活が」

「手段を選べなかっただけだ。それは皆が分かっている。『至高英雄』の覇者になるまでは――」

「そうやって祭り上げられて、食い物にされて、本当に覇者になれると思っているの? 領主様の周りは、どいつもこいつも嘘つきばかり。自分の目的のために利用されているって気づかない?」

 俺の不安を煽る言葉を吐き出す昂命の瞳は、見世物を楽しむように爛々と輝いている。

 才明と違って俺は反応が分かりやすくて、さぞ楽しいのだろう。
 退屈しのぎのオモチャにされていることを肌で感じながら、俺は瞳を揺るがせずに告げた。

「もしそうだとしても、俺は前に進むだけだ。たとえ周りから人が消えて、最後のひとりになったとしても」

「……健気なものだねえ。愚かで、馬鹿で、オレが一番虐めたくなる人種。ああ、でも嫌いじゃないよ。むしろ大好き」

 やけに昂命が清々しい顔で笑う。あまりに透明感のある笑顔が胡散臭い。
 その顔のまま、ニコニコと昂命は俺に腕を上げようとする素振りを見せながら訴えてくる。

「ねえ、大人しくついて行くから、せめて手を前に縛って欲しいな。後ろのままだと動き辛くて仕方ないんだ」

 俺は才明と目を合わせ、どうすべきかと無言で尋ねる。すると才明は小さく頷いて牢の中へと入った。

「おかしな真似はしないで下さいね。逃げようとしても、得意の魔法は使えませんから」

 手首の縄を解きながら才明が口にすると、昂命は苦笑いを浮かべる。

「分かってるよ。ずっと力が出ないんだもの……この縄が魔力を封じているのだろ? 誰か考えたか知らないけれど、用意周到だね。しかも領主様を利用してオレを誘い出したんだから、計画したヤツはいい性格してるよ」

 才明の耳がピクリと動く。しかし何も言わずに昂命の手首の縄を前で縛り、速やかに牢から出てしまった。

 カチリと鍵を閉めた後、才明は一笑した。

「面白くありませんが、私も同じ気持ちですよ。最初から誠人様は囮。貴方が来るまで、何度も壁の向こうへ行く予定でしたからね」

「この縄も世界の外のヤツからもらったんでしょ? こっちには魔法の概念は作らなかったから、魔力封じの道具なんて存在しないもの。オレを捕らえた網もね」

 そういえば痺れの網も、昂命を捕らえる縄も、才明が用意していた。状況を考える限り、才明はそれをもらっただけで、手配してくれたのは別の人間だろう。

 ずっと計画を練っていた澗宇や侶普か、その協力者で身内である華侯焔か。どちらにしても、俺にとっては頼もしい限りだ。

 
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