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十二話 真実に近づく時

坪田の行方?

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 そろそろ澗宇の所へ戻ろうと俺が踵を返そうとした時、昂命は「そうそう」と、わざとらしく大きな声を上げた。

「もしオレを解放してくれるなら、志馬威様と対等な同盟を組めるように取り計らってあげるよ。強者として肩を並べて、敗者を自由に使えばいい。この世界でも、別の世界でも……」

 他の領主ならば、願ってもない好機なのだろう。
 だが俺にはなんの魅力も感じられない。それどころか嫌悪で吐き気すら覚える。

 俺は思わず昂命に振り返って言い放つ。

「遠慮させてもらう。俺の目的は敗者の解放……それと、行方不明になっている知人の無事を確かめることだ」

「行方不明?」

「坪田という、俺と同じ年齢の大学生だ。柔道をしている。俺に『至高英雄』を進めてくれた後、行方が分からない。何か知っていることがあれば教えて欲しい」

 期待せずに尋ねてみると、昂命が腕を組んで不可解そうに首を傾げる。嘘も真実も隠してしまう男だ。この態度も演技だろうと思う反面、今までと違う様子に胸が騒いでしまう。

 しばらく唸った後、昂命は「ああ」と手を叩いた。

「あのヘタレ坊主のことか。一回だけ会ったことがあるけど、志馬威様をひと目見ただけで、涙と鼻水を垂らしながら逃げていったなあ」

 ずっと気にかけていた坪田の手がかり。
 思わず俺は駆け出し、牢を掴んで昂命に必死に話しかける。

「この世界で会ったのか! どこに逃げたんだ!?」

「さあ? オレも志馬威様も弱者には興味ないから。あまりに無様な逃げっぷりだったから覚えていただけ」

「本当に知らないのか?」

 苛立ちと怒りが、俺の胸の内を焦がす。
 だが昂命は俺の睨みを受けても怯まず、むしろ冷めた目で息をつく。

「強い敗者は志馬威様が手に入れるけれど、弱者は放置。無能な配下なんて足を引っ張るだけだし、ましてや戦わず即座に逃げるなんて臆病者……同じ部屋の空気を吸うことすら耐えられないよ」

 駆け引きも演技もできないほど不快さを露わにした昂命から、これが本音であり真実だと伝わってくる。

「そうか……教えてくれて感謝する」

 引き下がるしかない俺に、昂命は肩をすくめた。

「きっと、どっちの世界でも怯えて逃げているだろうね。弱いって罪だよ」

 昂命の本音に俺は坪田を庇うことができず、押し黙ってしまう。

 逃げても酷くなるだけだと分かっていても、逃げることしかできない人間。少しでも自分が生き残るために足掻かない者は、俺も距離を置いてしまうだろう。

 それでも探し出して保護しなければ。
 俺が密かにやる気を維持していると、昂命が小声で呟いた。

「案外と領主様の近くにいるかもね。もし見つかっても困ると思うんだけど……」

 不確かな情報だというのに、坪田が領地内にいるかもしれないという可能性が見えただけでも希望が持てる。

 もしかしたら、俺が覇者になるまで逃げ隠れるのかもしれない。
 それならそれでいい。無事ならそれで――。
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