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十四話 決戦に向けて
謝罪
しおりを挟む昂命は城内の客室に閉じ込められていた。暴れたところを捕らえたのだ。牢屋に入れてもおかしくないのだが、顔鐡いわく、俺から丁重に扱うよう言われていたからと、暴れる前と同じ部屋に入れたとのことだった。
部屋に入ると、椅子ごと念入りに身体を縛られた昂命が、隅で恨めしそうに俺を見上げた。
「ごきげんよう領主様。よく華侯焔から逃げ出せたねえ……あの裏切り者、情が移って逃したとしか思えないなあ」
「いや、華侯焔は戦いを楽しむために加減はしていたが、俺を逃がす気は一切なかった。あのまま何も手を打たねば、俺はあの場で捕らわれていた」
俺の返答に昂命が虚を突かれたように目を丸くし、すぐに笑い出す。
「ここは何も語らないのが正解でしょ。オレに情報を与えてどうするの? 本当に馬鹿正直で愚かなヤツだ」
「おや? そんな貴方も軍師だというのに、軽々しく情報を下さるのですね」
にこやかな顔と声で才明が俺たちに割って入る。
嘲りの気配を漂わせながら見下ろす才明に、昂命があからさまに顔をしかめた。
「あーもう、面倒臭いんだよオマエは。さっきの言葉から何が分かるんだよ?」
「分からないのですか? あの格付け一位の志馬威の軍師だというのに」
狐と狐の化かし合い。言葉の裏に意味を込め、それを読み合い相手を出し抜こうとする会話。こういうことも必要なのだと分かるのだが、正直なところよく分からない。
有益なのか不毛なのか分からない駆け引きが延々と続きそうな中、俺は「要件を伝えさせてくれ」と才明を制する。
すぐに口を止めて才明が引き下がってくれた後、俺は昂命の前にあった椅子に座り、頭を深々と下げた。
「誠人様!? 突然何を……」
戸惑いの声を上げる才明や、同様に驚いて息を詰まらせる顔鐡や表涼の気配を感じながら、俺はそのまま話し出す。
「昂命、才明や華侯焔から話は聞いている。貴殿に拷問したと……申し訳ない」
「……は? それぐらい、この世界なら普通でしょ? 謝れば済むと思っているの? 自分に責があるというなら、どう償うつもり? 安易に謝るほうが無責任だと思わない?」
俺の行動が意外だったらしく、昂命も動揺を隠せずに尋ねてくる。
これはただの自己満足なのだろうと思いながら、俺は頭を下げたまま答える。
「相手が敵将であっても、何もできない者に苦痛を一方的に与える方法は取りたくない。できることは限られてくるが、俺に同じ責め苦を与えることも、賠償の品を用意することも、望みとあれば――」
「呆れたな。本気で言ってる……別にいいよ。どうせ志馬威様に攻め落とされて、すべて奪われるんだから」
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