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十四話 決戦に向けて

不幸中の幸い?

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   ◇ ◇ ◇

 一度湯を浴びてから軍議の部屋へ向かうと、才明の他に顔鐡と表涼が待っていた。

 俺が部屋に入ろうとした途端に顔鐡が跪こうとして、すぐに首を振って制する。

「そんな畏まらないでくれ。城や領土が大きくなっても、俺自身はまだ未熟で小さいままだ。そのまま話して欲しい」

「御意。本当に変わりませんなあ、誠人様は」

 顔鐡が快活に笑う。華侯焔の謀反と昂命に暴れられたせいで、未だ落ち着かない空気が城内に流れる中、この明るさに癒やされる。

 ひとしきり笑った後、顔鐡は才明と目を合わせて頷くと、俺に報告してくれた。

「誠人様がさらわれていた間、我々は解放された昂命と対峙しておりましたが……どうにか捕らえることができました」

「昂命を? 不思議な術で動きを読むのは難しかったと思うのだが……」

 俺が目を見開いていると、表涼から小さな笑い声がした。

「あの者がいた部屋に封魔の縄が置かれたままでしたので、持って来て顔鐡殿に使って頂きました。昂命の動きは私の目で追うことができましたし」

「昂命は魔法で瞬間移動していたと思ったんだが、あれが見えたのか?」

「姿を消した瞬間、何やら紫のもやのようなものが動いて昂命が現れていたので、もやの動きを顔鐡殿に教えておりました」

 妖艶な笑みを称えながら表涼が淡々と答えていく。言葉だけ聞くと落ち着いた様子だが、心なしか誇らしげに胸を張っている。

 才明が俺に寄り、小声で話しかけてきた。

「もしかすると表涼には魔力があるのかもしれません。数多の者たちを虜にしてしまうのも、無自覚に魅了の術をかけている可能性がありますね」

 表涼は俺の褒美の負担を減らすために作られた武将。まさか武力や知力よりも、男を受け入れたがる者を将に格上げしたら、こんな素質を秘めているとは思わなかった。

 基本の能力値では判断できない能力。これが隠れステータスというものなのだろうか? ともあれ、昂命が暴れて城が壊滅状態にならず、再度捕らえることができたのは幸いだ。

 ここからさらに顔鐡たちの話を聞けば、兵の被害はほぼなく、昂命は思ったように暴れられなくてぼやいていたらしい。

 その時に表涼に向けて放った言葉は――『なぜお前みたいなヤツがいるんだよ! オレは作っていない』。

 昂命はこの世界を作り上げた魔導士。
 自分が不利になる存在を用意するはずがない。

 俺は才明に声を潜めて尋ねる。

「才明はどうやって表涼を見つけてきたんだ?」

「実は……華侯焔が連れてきてくれました。誠人様をこれ以上分け合うのは嫌だから、と」

 才明の話を聞き、俺はわずかに眉間を寄せる。
 純粋に俺を抱く機会が減るのが嫌だったのか、あるいは――。

 小さな引っ掛かりが俺の中にたまっていく。
 この戸惑いが華侯焔の計算なのか、別の狙いがあってのことなのか。

 割り切れない思いを自覚しながら、俺は皆に告げた。

「これより昂命と話をしようと思う。ついて来てくれないか?」

 本当は二人だけで話したいところだが、もし昂命が捕まったフリをしていて攻撃されたなら俺だけでは対処できない。

 各々に頷いてくれたのを確かめてから、俺は部屋を後にした。
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