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十四話 決戦に向けて
事前予約で付けられていたもの
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このゲームを始めた時は、坪田に騙されたと思った。
本来ならゲーム開始時に装備を選べるのに、俺は何も選ぶことなく領地に落とされた。事前予約で俺に何も装備させず、不利な状態で始めさせた――と白鐸が教えてくれた。
だが『至高英雄』を続けていく内に、他のプレイヤーには白鐸のような珍獣はおらず、華侯焔の導きと白鐸の加護に助けられていることを思い知った。
本来なら神獣のサポートは得られない。領地の発展や練兵なども、プレイヤー自らが考えて決めていく必要がある。体力の消費やダメージの軽減も、何か特殊な装備をしなければ抑えられない。
戦いと政の両方でサポートが得られている。
その事実から見えてくるのは――。
「俺がゲームを始める時に装備を選べなかったのは、事前予約で武具や防具ではなく、白鐸を俺に装備させる設定にしたからだろ? 俺をサポートする目的で……」
俺の指摘に白鐸が一瞬押し黙る。しかし、すぐに落ち着きなく早口で話し出す。
「……だって、ワタシのせいで大変な目に遭うんですから。脅されて言うことを聞かされて、役目を終えたから知らんぷりーなんて、できるワケないじゃないですか」
「やっぱりそうだったのか。だが、その姿にはどうやって?」
「華侯焔にお願いしたら志馬威の城の地下に連れて行かれて、そこに囚われていた人に変えてもらったんですー。人っていうより、頭にヤギの角を生やした悪魔っぽい人でしたけどー」
「なぜ白鐸が存在するか知らない、と華侯焔は言っていたんだが……」
「魔法の制約のせいですー。真実を言えばワタシが消えちゃうので。裏切ってるクセに、変なところで律儀なんですよねー」
話を聞きながら、その気になれば華侯焔は白鐸を消すことができるという事実に背筋がゾッとする。
しかし、そうはしなかった。
華侯焔なりの情けなのか、別の思惑が――と考えかけて、俺は心の中で首を振る。今は考えないほうがいい。気にするだけ判断が鈍る。
気を取り直し、俺は白鐸に尋ねた。
「事情は分かった。それにしても……人の姿を変えてしまうほどの力に、この世界では異質な容姿。白鐸の姿を変えた者は、芭張や羽勳が探している魔王なのか?」
志馬威に囚われている人外。
頭の中で今まで見知ってきたいくつもの真実が繋がり、全貌の輪郭を鮮やかにする。
白鐸がわずかに頭を揺らし、頷いてみせた。
「ワタシは何も教えられませんでしたけど、たぶんそうだと思いますー。なんか魔法陣みたいなものの中央に座っていて、カミナリみたいな光の檻に閉じ込められていましたしー」
少しだけ白鐸の声に、いつもの朗らかさが戻ってくる。
だが動揺が落ち着いたというより、開き直ったような様子で気になる。
白鐸は身体をわずかに反らしながら空を仰いだ。
「明らかに人じゃなかったですけど、優しそうな人でしたねー。姿を変える前に、心配そうな目でワタシを見ながら教えてくれましたよー。長く姿を変え続ければ人の姿に戻れなくなるし、元の世界に戻れなくなるって……」
「人の姿に、戻れない……あっ」
ずっと現実に戻らずにゲームを続けていると、こちらの世界で起きたことを身体が記憶してしまい、現実に引き継がれてしまう。
ケガをしてもすぐに戻ればキズは消えるし、抱き潰された身体は情事の名残りが薄くなる。
しかし長く居続ければ、現実に帰っても身体のキズも淫らな名残りもそのままになる。
人の姿を失ったままなら、現実にいない生物だから戻れなくなるのだろう。
嫌な予感がして、俺は息を飲んだ。
「まさか、坪田が現実でずっと行方不明なのは……」
「元の世界に戻らず、ずっとここにいるからですー。長く白鐸をやってきたせいで、もう前の話し方も、どんな姿だったかも忘れちゃいましたー」
本来ならゲーム開始時に装備を選べるのに、俺は何も選ぶことなく領地に落とされた。事前予約で俺に何も装備させず、不利な状態で始めさせた――と白鐸が教えてくれた。
だが『至高英雄』を続けていく内に、他のプレイヤーには白鐸のような珍獣はおらず、華侯焔の導きと白鐸の加護に助けられていることを思い知った。
本来なら神獣のサポートは得られない。領地の発展や練兵なども、プレイヤー自らが考えて決めていく必要がある。体力の消費やダメージの軽減も、何か特殊な装備をしなければ抑えられない。
戦いと政の両方でサポートが得られている。
その事実から見えてくるのは――。
「俺がゲームを始める時に装備を選べなかったのは、事前予約で武具や防具ではなく、白鐸を俺に装備させる設定にしたからだろ? 俺をサポートする目的で……」
俺の指摘に白鐸が一瞬押し黙る。しかし、すぐに落ち着きなく早口で話し出す。
「……だって、ワタシのせいで大変な目に遭うんですから。脅されて言うことを聞かされて、役目を終えたから知らんぷりーなんて、できるワケないじゃないですか」
「やっぱりそうだったのか。だが、その姿にはどうやって?」
「華侯焔にお願いしたら志馬威の城の地下に連れて行かれて、そこに囚われていた人に変えてもらったんですー。人っていうより、頭にヤギの角を生やした悪魔っぽい人でしたけどー」
「なぜ白鐸が存在するか知らない、と華侯焔は言っていたんだが……」
「魔法の制約のせいですー。真実を言えばワタシが消えちゃうので。裏切ってるクセに、変なところで律儀なんですよねー」
話を聞きながら、その気になれば華侯焔は白鐸を消すことができるという事実に背筋がゾッとする。
しかし、そうはしなかった。
華侯焔なりの情けなのか、別の思惑が――と考えかけて、俺は心の中で首を振る。今は考えないほうがいい。気にするだけ判断が鈍る。
気を取り直し、俺は白鐸に尋ねた。
「事情は分かった。それにしても……人の姿を変えてしまうほどの力に、この世界では異質な容姿。白鐸の姿を変えた者は、芭張や羽勳が探している魔王なのか?」
志馬威に囚われている人外。
頭の中で今まで見知ってきたいくつもの真実が繋がり、全貌の輪郭を鮮やかにする。
白鐸がわずかに頭を揺らし、頷いてみせた。
「ワタシは何も教えられませんでしたけど、たぶんそうだと思いますー。なんか魔法陣みたいなものの中央に座っていて、カミナリみたいな光の檻に閉じ込められていましたしー」
少しだけ白鐸の声に、いつもの朗らかさが戻ってくる。
だが動揺が落ち着いたというより、開き直ったような様子で気になる。
白鐸は身体をわずかに反らしながら空を仰いだ。
「明らかに人じゃなかったですけど、優しそうな人でしたねー。姿を変える前に、心配そうな目でワタシを見ながら教えてくれましたよー。長く姿を変え続ければ人の姿に戻れなくなるし、元の世界に戻れなくなるって……」
「人の姿に、戻れない……あっ」
ずっと現実に戻らずにゲームを続けていると、こちらの世界で起きたことを身体が記憶してしまい、現実に引き継がれてしまう。
ケガをしてもすぐに戻ればキズは消えるし、抱き潰された身体は情事の名残りが薄くなる。
しかし長く居続ければ、現実に帰っても身体のキズも淫らな名残りもそのままになる。
人の姿を失ったままなら、現実にいない生物だから戻れなくなるのだろう。
嫌な予感がして、俺は息を飲んだ。
「まさか、坪田が現実でずっと行方不明なのは……」
「元の世界に戻らず、ずっとここにいるからですー。長く白鐸をやってきたせいで、もう前の話し方も、どんな姿だったかも忘れちゃいましたー」
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