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十四話 決戦に向けて

変化の前兆

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 もう元の姿にも、現実にも戻れない。
 思わず愕然となって棒立ちになる俺に、白鐸は「気にしないで下さいー」と軽やかな物言いで笑った。

「これは覚悟の上ですからー。誠人サマが勝ち続けて、覇者となって、こんなクソゲーから解放されるなら本望ですー」

「ま、待ってくれ。俺が覇者になったら『至高英雄』は消える。だとすれば、白鐸も一緒に――」

「ええ。元の世界には戻れませんし、ワタシはここがイヤなので、消えて構いませんからー。たとえ誠人サマがワタシを許してくれたとしても、騙し続けた罪は償わないとー」

 変わらない調子で話す白鐸を見ながら、俺は歯を食いしばる。

 こっちの世界で過ごしても、元の世界に戻れば数秒しか経過していない。
 俺がゲームを勧められてプレイするまでの間に、白鐸としてゲームに入って華侯焔とともに反逆の準備を進めていた――自分の行く末を受け入れ、嘆くことをやめてしまうほどの長い時を、坪田はここで過ごしてきたのだ。

 胸が詰まる。ここで坪田の分まで泣くことができたなら、どれだけ楽になれるだろうか。

 だが、意地でもそうはなりたくなかった。
 俺は喉まで込み上げてきた嗚咽の気配を呑み込み、白鐸に告げた。

「白鐸――いや、坪田。諦めないでくれ。自由になって、一緒に元の世界に戻るぞ」

「誠人、サマ……」

「俺はこの世界のことも、魔法のことも、よく分かっていない。それなのにもう終わりだと嘆きたくないんだ。俺がどれだけ諦めの悪い奴なのか、坪田もよく知っているだろ?」

 誰も東郷さんに敵わないと諦めていく中、遠いその背中を無様に負い続けてきた万年ニ位の男。それが俺だ。

 白鐸に手を伸ばし、俺は卵の先端のような頭の上に置く。

「足掻くぞ、坪田」

 手の平に白鐸の息を詰める気配が伝わってくる。

 その瞬間、白鐸の身体がほのかに光り始めた。

「これは……ああ、ご安心下さい誠人サマー。変化の前兆ですー」

「変化? まさか、また姿が変わるのか?」

「はいー。毛玉、長毛玉、デカ毛玉と変な姿ばっかりなので、次はどんなヘンテコになるのか憂鬱ですけど、力は増しますー」

 おもむろに白鐸は跳び上がり、そのまま虚空に浮かぶ。
 白く滑らかな毛が辺りにふわふわと漂い、夕日の色にほんのりと染まる。

 それはまるで黄金の繭のように見えた。

「ワタシの変化は誠人サマの成長の証……あと一息ですから、華侯焔が攻めてくるまでに、やるべきことを済ませちゃって下さいー」

 一瞬、成長を重ねるほどに元の姿に戻ることが難しくなるのでは? と危惧してしまう。

 だが、志馬威と戦うためには少しでも力が欲しい。
 俺が負けてしまっては、坪田の犠牲が無駄になってしまう。

 白鐸を止めたくなる衝動を抑え込みながら、俺は「ああ」と頷いた。
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