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四章 新たな毒

動揺を抱えながら

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 二人の藥師も一瞬だけ面食らったような顔をしたが、すぐに表情を険しくさせる。

「レオニードのことは我々も信じているが、彼は専門の知識を持っていない。入れられた物が分からなければ意味はない」

 中年の薬師が眉間にシワを刻みながら話を返す。滲み出る不安を拭えるよう、みなもは彼の目を見据えながら短く頷いた。

「私が作ろうとしているのは、今ここで作られている解毒剤に、ある物をひとつ加えれば作れます。それが無毒かどうかもレオニードに舐めてもらいますから、専門の知識を持たなくても判断できます。後は彼が私を信じてくれるかどうか――」」

「信じている。この命も、仲間たちの命も救ってもらった。今さら何を疑うというのか……みなも、どうか解毒剤を作って欲しい」

 眼差しを強め、レオニードが自ら進んで意思を示してくれる。迷わず言い切ってくれる彼が頼もしく、こんな事態でもみなもは嬉しさを覚えてしまう。

 低く唸ってから藥師たちはまばらに頷き、みなもと目を合わせてきた。

「分かった、条件を呑ませて頂く。悔しいかな、我々では即座に有効な解毒剤を作ることができぬ。今は貴方だけが頼り……気を悪くするようなことを言って申し訳なかった」

 老薬師の顔が申し訳なさげに歪んだのを見て、みなもは表情を和らげる。

「いえ、私の方こそ失礼なことを言って申し訳ありませんでした。これから作業に入りますので、少しお待ちになって下さい」

 そう言いながら、みなもはレオニードの元へ寄る。
 小声で「申し出てくれてありがとう」と伝えると、彼はフッと目から力を抜き、「ああ」と答えてくれた。

 話がまとまるのを見計らったように、成り行きを見守っていた浪司がみなもの肩を叩く。

「じゃあワシはここで、じーさんとおっさんの相手してるな。根詰め過ぎて余裕なさそうだし、愚痴でも聞きながら解毒剤の完成を待ってるぞ」

 彼らを疑う訳ではないが、解毒剤を作る際、万が一にも覗き見られては困る。
 詳しい事情を知らなくとも、空気を察して確実に薬師たちをここへ待たせようとしてくれる浪司が、みなもにはありがたかった。

 それに、できれば秘密を知る人間を増やしたくない。
 わざわざここまで付き合ってくれたというのに、浪司は見ないで欲しいと伝えるのは気が引ける。自分から見ない側に回ってくれて、みなもは密かに胸を撫で下ろす。

「うん、そうしてくれると助かる。じゃあ屋敷の人にお願いして、部屋を用意してもらうよ。行こう、レオニード」

 目配せすると、レオニードが即座に頷いてくれる。
 それぞれに踵を返す最中、みなもは己の中に積もった重たい空気を吐き出す。

 表向きは普段通りを演じているが、胸奥は動揺が治まらず、呑み込む唾すら重たくて喉が苦しくてたまらなかった。
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