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四章 新たな毒

信じたい人

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 みなもは鈍い動きで一同を見回す。
 自分でも顔から血の気が引いていくのを感じる。
 寒気がするのに、胸の奥は叫び出したいほど熱くなっていた。

「……これなら、すぐに解毒剤を作れます」

 藥師たちが「おお!」と声を上げ、表情を明るくする。

「一体どんな薬草が必要なのかね? すぐに用意しよう」

 淡々と、しかし込み上げてくる期待を抑えられない様子で、老藥師が上ずった声で申し出てくる。
 みなもは小さく首を振った。

「その必要はありません。もう私の手元にありますから」

「なんと! みなも殿には助けられてばかりだ。一体どんな物を使うのだ?」

 老藥師の質問に、みなもは再び首を振る。

「すみません……それをお教えすることはできません」

「どういうことかね? よければ説明してくれぬか?」

「これは私の一族――ある藥師の一族だけが扱える物なのです。悪用されぬよう、子々孫々と守られてきた一族の秘密……それを教える訳にはいきません」

 彼らが知りたいと思う気持ちはよく分かる。
 ただ、これだけは人に知られる訳にはいかない。
 譲れない、という思いを込めて、みなもは老藥師を見据える。

 老藥師は眉間に皺を寄せつつ、こちらの視線を受け止める。

「……つまりそれは、我々を信じることはできぬということか」

「失礼ですが、その通りです。お互いにまだ知らないところが多すぎますから」

「そう言われるなら、我々もみなも殿を信じ切ることができぬ。実は貴方がバルディグの密偵で、フェリクス様にとどめを刺そうとする可能性も考えられる」

 相手を疑うということは、自分も疑われるということ。
 頭では分かってはいたが、実際に目の当たりにすると言葉に詰まってしまう。

 どう話を持っていけば良いだろうかと、みなもが考えていると――。

「みなも、俺のことは信用できないのか?」

 背後からのレオニードの声に、みなもは目を丸くする。

 確かにヴェリシアの人間の中で、彼がどんな人なのかは一番よく分かっている。
 自分が知る中で、数少ない信じられる人。
 信じたいと思わせてくれる人。
 
 けれど知られたくない。
 これ以上こちらの都合に巻き込んで、レオニードを振り回したくない。

 薬師の誰かを選ぶか、レオニードを選ぶか。
 頭の中が目まぐるしく動き、胸中の天秤も大きく揺れ動く。

 考えて、考えて――みなもは、藥師たちに向き直った。

「……私はレオニードのことを信じています。みなさんも信じていらっしゃるなら、彼に解毒剤の調合に立ち会って監視してもらった後、できたものを毒見してもらう、というのはいかがですか?」
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