神々の依頼、面倒なんですけどっ!

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終章

148.終わるみたいです

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それまで寂しげだった木々の葉は春の日差しを浴びて元気を取り戻しつつあり、BGMのように流れる人々の活気を帯びた笑い声は心を弾ませる。はす向かいの学校からは子供らの元気な声が聞こえ、時折エティの怒声がいいアクセントになっていた。

ハジメがそんな日差しに微睡まどろんでいると、彼の横から暖かい紅茶が差し出された。

「旦那様、まだ寒うございますよ」

「…ありがとう、ウィリアム」

まだ若き執事に礼を告げる。

「……旦那様」

「あぁ。ごめんごめん。トム」

微笑んでハジメは名前を訂正する。

「…いえ。父も喜んでいると思います…」

頭を下げてハジメの背後に立つ。ハジメ家の常識人と言われた彼が亡くなってもう5年ほど経つだろうか。この地に着いた時、トムはウィリアムの連れてきた子で最も年少だった人物である。彼の死後執事長に就任してくれ、こうしてハジメの世話をしてくれている。ウィリアムが指導した最後の執事であり、ハジメの最後の弟子でもあった。

「旦那様。サンチ様が今到着されました」

メイド長になったミミがハジメの居るテラスに来て告げる。

「わかりました。書斎へお通ししてください。紅茶を飲んだら行きますので」

そうハジメが言うと彼女はきれいなお辞儀をして退室していった。ハジメはそれを見て紅茶を1口啜る。

ダス国イッチーは既にこの世にはなく、彼から言えば孫にあたるサンチが商会長となっていた。外見も性格も非常にイッチーによく似ている。

「サンチ様は本当にイッチー様に良く似てらっしゃいますね」

トムが少し懐かしみながら告げると、

「えぇ。本当に。でもトム、君もウィリアムそっくりですよ?」

と答えて笑った。

「えぇ。父からも旦那様は常識に疎いため注意するように言われておりますので、忠言は似てしまいますよ」

そう言って彼も誇らしそうにしながらも目を細める。ウィリアムは死してからもハジメの執事長であったようだ。

「藪蛇だったかな…」

そう呟きハジメは紅茶を飲み干す。2人が書斎に着くとサンチはソファーから立ち上がりハジメと握手をした。

「…それで世界は変わりありませんか?」

ハジメが問う。

「そうでございますね……」

ハジメはふぅとため息を吐く。

「アヴァは相変わらず鎖国ですか……」

「……えぇ……」

『国別れ』から5年ほど経った頃から、島々は大型船による貿易や人の行き来が盛んに行われるようになった。この頃国を出る商人や職人が多くなり、それに伴いそれ相応の硬貨が国外へと持ち出された。しかしその翌年には、神の加護喪失の発端となった出来事が知られた国外に知られ、アヴァ国との交易を嫌がる国が大多数出ることになった。そのころ、アヴァ国の国王の世代交代があり、それにより船の中継地・・・として寄港できるように交渉する国も現れたのだが、それを拒否したのである。現在ポーションの基地局となっているのはサンチの所属するダス国となっていることもあり、アヴァ国的には輸入したい物は多いのだが、輸出出来るモノが少ない。そうなると国全体が保有する硬貨が流出するということは明らかであり、それを阻止したいという思惑があるのだろうが、最早、低級の魔物しかいないという住民にとっての好条件は国としては悪条件でしかない。

サンチの情報によると冒険者たちは商人ギルドの船で護衛という依頼によりそうそうにアヴァ国を離れ、残った者は荒くれ者のようになり、暴力などの犯罪行為が横行しているらしく、アヴァ国の商業ギルドは近いうちに撤退することが決まっているとのことである。『アヴァ国はもう終わり』というのが商人の中での常識になっているそうである。

今はコウやマーサの子キルト、ハロルド一家は最初に国を移動できるようになった時にイッチーを頼ってダス国へと移住しているし、リナリーたちもチャタル国で冒険者活動を行っていた。

サンチはそう言ってお茶を啜った。

「父上ぇー」

ハジメの机の後ろにある窓が開きオーダがハジメの胸へと飛び込んできた。よしよしと頭を撫でるハジメを見つつ、サンチは

「世界樹様はお変わりなくご健勝のご様子」

と笑顔で言った。

「サンチだーー。なんかすごく大人……。なんかだ……。この前まで『ばぶー』しかしゃべれなかったのに……」

頬を膨らませてオーダが言った。

「こら、オーダ。今はサンチさんはイッチー商会の頭取だよ」

とハジメが窘めるとサンチは笑いながら

「オーダ様は相変わらずちっちゃいですねー」

と口を開いた。

「もう~。サンチは商人になって意地悪になったね。僕のこと『兄様』って言って後を付いて来てたのに~」

そう言ってサンチの太腿当たりをぽかぽかと叩いていた。この40年でオーダの外見は全く変わっていない。ハジメはイッチーの息子のニッチに連れられてサンチが初めてこの街に来た時が昨日の事のように思っていたのだが、永久に存在する世界樹にとって人の一生の時間は瞬きくらいなのかもしれない。

この街はここ30年ほどでハジメが手を貸さなくても住民たちだけでポーションの売買が出来るようになり、経済が回り始め、25年前からはハジメは街の運営からも手を引いていた。現在では村長としてセツとスムスの養子バードがうまく取りまとめてくれている。今のハジメの仕事はサンチと雑談をするくらいしかない。ハジメはようやく穏やかな時間を過ごせている。素晴らしきかなスローライフ。

「……もうあれから50年以上かぁ……」

ハジメはふと天井を見上げる。彼は10年以上前に還暦を過ぎていた。白髪と皴が増え、階段を上ると息も切れるようになっている。最近では少し耳も遠いし目も見えにくい。橋本さんが言っていた通りになってきたなぁとハジメは感じていた。

そうこうしているうちに1日は終わりを告げ、彼は布団に入る。そして異世界からの来訪者はこの世界を後にしたのだった……。

そしてその日も藍色の水は流れ、風は舞い、大地は航り、太陽は降り注いでいた……。

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