腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

Alanhart

文字の大きさ
40 / 149
〈3 葛藤と決意の間〉

ep29 篠原君とはじめてお出かけする話②

しおりを挟む
 一通り館内をぐるりと回ると、出入口に戻る。一周1時間程度の小規模な水族館だが、それを1時間半くらいかけてじっくり見て回った。
 出入口付近にはお土産屋さんがあった。入口に、大きなペンギンのぬいぐるみが「いらっしゃいませ」と書かれた旗を持って立っている。この水族館にペンギンなんて居なかったのに。

「篠原くん、お土産見ますよね?」

「何か買うの?」

 えっ、篠原くん、お土産屋さんに寄らないの? そんな、信じられない。お土産屋さんも観てこその水族館だろ。水族館に来たらお土産屋も見たくなるだろ。お土産を買わずして、水族館に行ったと言えるだろうか。答えは否だ。

「篠原くんも、おじさんにお土産買ってあげればいいじゃないですか。多分、喜ぶと思いますよ?」

「お土産を買うと荷物になるし、邪魔にならない?」

 お土産を買うことを無駄だと思っているだと!? お土産は選ぶ時も貰った時も楽しいものなのに、もったいないな。

「思い出の品くらいはいいじゃないですか。ほら、にじいろまんじゅうだって。こっちはエンゼルフィッシュせんべい。クラゲグミもありますよ」

「俺には津田さんが食べたいだけに見えるけど?」

 確かに、お土産を選ぶときって自分が食べたいもの選んじゃうな。あ、このイルカチョコレート、自分用に買おう。


 水族館を出た後は、噴水広場のベンチに座って一休みすることにした。さっそく、買ったばかりのイルカチョコレートの箱を開く。

「津田さん、それ今食べるの?」

「食べますよ、もちろん」

 甘いものを食べようとするたびに、にっこり顔で圧かけてくるのやめてほしい。

「篠原くんも、よければどうぞ」

「俺はいいよ」

 そうですか。

 噴水広場には、家族連れが多く来ていた。やんちゃなこどもたちが、噴水の周りを走り回っている。すごく平和な光景だ。
水の流れる音を聞きながら、穏やかに流れる時間が心地よくて、わたしはぼーと噴水広場を眺めていた。

「津田さん、別室登校って聞いたことある?」

 突然、そう切り出されて、わたしは身を固くした。学校の話をされると、胃が縮むみたいな感じがして居心地が悪くなる。

「……ない、ですね」

 わたしは息がつまるような思いをしながら、何とか首を横に振った。

「増田先生と話していたんだ。スクールカウンセラーの先生が、週に2回いらっしゃるから、その時だけでも相談室に来られないだろうかって」

「……」

「1回でもいいから、俺と一緒に行ってみない?」

「……」

 顔を窺うような、気づかわし気な篠原くんの視線が伝わってくる。自分が今どんな顔をしているのか、わたしには分からなかった。出来ればあまり見てほしくないな。だって、きっと今、酷い顔をしているだろうから。

「……篠原くんは……」

 言葉が、喉のあたりで突っかかる。声が震えた。

「……復学、してほしいんですか……?」

「津田さんが嫌なら、俺は急がなくてもいいと思ってる」

 篠原くんは、穏やかな優しい声で言った。いつもなら安心できたその声に、まさか心を抉られることがあろうとは、思ってもみなかった。

「津田さんには、津田さんのタイミングがあるし――」

「わかりました」

 篠原くんの言葉を遮って、わたしは目も合わせないまま頷いた。

「本当に……? でも、津田さん……」

 篠原くんの声には、心配と動揺が入り混じったような響きがあった。わたしの感情を察して、探るように尋ねる。わたしは、冷ややかに応えた。

「行きますよ。どうせ、もう決まってるんですよね?」

「……津田さん、イヤなら別に――」

「わたしは、行くって言いました。もう決まったことならいいじゃないですか!」

 今更、わたしの顔色を窺う篠原くんに腹が立った。だって、はじめからわたしに決定権なんて与えられてない。

「篠原くんだって、復学してほしいんですよね? また、勝手に先生と話し合って、学校に行かせようって決めてたんですよね?」

 テストの時もそう。わたしに相談したときには、もうなにもかもが決まっていた。そこに、わたしの気持ちが入る余地なんてなかった。既に決まったことに対して、追い詰められる形でお願いされるだけ。

 わたしは篠原くんに嫌われたくないから、友達でいたいから、結局断れない。でも、こんなのってずるい。

「ごめんね、津田さん。そんなつもりじゃなかったんだ。津田さんが嫌だったら、無理に行かなくていいから」

 いくら篠原くんが謝っても、わたしは許すことができなかった。お腹の中にいろんな感情が這い回っていて、苦しくて気持ち悪くて吐き気がする。

「篠原くんは……わかんないんですよ」

 自分に決定権がない人間の気持ちなんか。

 存在するだけでも嫌われて、自分の意思決定も無碍にされて、カーストの最底辺で、存在しないいないみたいに生きるしかなかった人間の気持ちなんて。

「いじめられた側の気持なんか……。篠原くんに、分かるはずもないじゃないですか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...