【2部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~

南條 綾

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5章 紋章の情報を求めて

22話 監視者

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 冒険者ギルドの「癒しの炉端ろばた」を出て、俺は王都の雑踏に溶け込んだ。
昨日、リリアにカウンターを叩かれながらも登録を済ませ、減額された依頼料を受け取った。そのほとんどは、新しい装備の修繕と滞在費に充てる必要がある。
それでも、十分な報酬があるから報酬面では満足している。

 そういえば、最初に王都に来たときはエレナがいたから、魔法物品の店に連れてもらって、まるで着せ替え人形のような状態だったな。
あの時の、店内の色とりどりの魔法道具や、不思議な匂いがまだ頭の中に残っている。あの頃のエレナの笑顔が、どこか遠く感じる。

 王都の街は活気に満ち、香辛料や焼いた肉の匂いが混ざり合い、人々の声が絶え間なく響いている。
店先で買い物をしている人たちや、行き交う足音が重なり合い、まるでひとつの大きな音のように街を包み込んでいる。

 俺自身は経験がないが、生前の外国ではこんな屋台が並ぶ場所があると聞いたことがある。ただ、残念ながら日本から出たことがないから、屋台と言えば祭りか縁日でしか見たことがなかった。

 祭りといえば、たこ焼きの匂いが混じっていたり、金魚すくいをしている子供たちがいたり、そんな光景が思い浮かんでくる。
ここではそんな日常はない。ただ、異国の雰囲気が強くて、街のすべてが新鮮で、少しだけ胸が躍るような感じがする。

 そう思って楽しんでいた時だった。
無意識に常に起動している戦士技能の一つ、波紋心はもん心が反応した。
微かな、しかし明確な気配の波を捉えた。
それでも、普通の技量の奴らではないと俺は感じた。

 この技能は便利だが、レベル差や盗賊のような隠密行動を取る者には鈍くなる。
どちらかと言えば、気配を察知する技術なんだけど、相手の技量に左右されやすいんだよな。

 多分、監視されている。確実に俺の動きを追っている者がいる。数にして三人。
倒すこと自体は多分できるだろうが、どうするべきか?
俺は歩調を変えず、防具屋へ向かう角を曲がる。
周囲に目を配りながらも、冷静に次の動きを計算する。

 やっぱりな。こうなるんじゃないかとは思ったんだよな。
胸の奥で、冷徹な自分が呟いた。遺跡の資料を破壊したことは、王国の上層部と魔術師ギルドを怒らせるには十分すぎる理由だ。

 せっかく封印を解いたのに、持ってきたのはただのレポートだけ。しかも、不完全なものだ。
完成したレポートは見つけたが、それは破壊してしまったしな。
そのことが、頭の中でぐるぐると回っている。
「どうして、こんなことになったんだ?」と自問しても、もう答えは出ない。
この結果を引き起こしたのは、他でもない俺だ。

 一番欲しいのは、俺が持っている「古代魔法語の読解能力」だろう。
彼らにとっては、喉から手が出るほど欲しい情報だ。
国も、魔術師ギルドも、今はそれをどうにかして手に入れたがっている。
だが、情報を手に入れるためには、まず俺を捕らえる必要がある。

 それでも、俺をすぐに拘束せず、泳がせているのは恐らく司祭が動いたからだろう。
俺がまだ使えると思われているからか。
一応、噂ではデュラハンやミスリルゴーレムを倒したことになっているから、うかつには手を出せないってことか。
「だが、それがいつまで続くか……」

 冷静に思考を巡らせるが、いくつかの不安が胸をよぎる。
あるいは、俺の持つ「古代魔法語」の情報を、まだ教会が完全に信用していない証拠でもある。
どちらにせよ、不用意に動くわけにはいかない。
いま、この状況で焦って動いたところで、後悔するのは目に見えている。
何もかもが、俺を試すように進んでいる。だが、俺は負けるわけにはいかない。
冷静になって、この先どうするか計画を立てるしかない。

 すごく面倒くさい。
考えがぐるぐると回る中、ふと頭に浮かぶのはメイティアの村のこと。
村が悲劇にでも見舞われたら、シャレにならないしな。
だが、動かなければ、それも避けられない。
動かずに流されるのが一番の悪手だと信じていた。
選択肢は限られている。今は、どれが最善かを見極めるしかない。

「まったく、馬鹿馬鹿しい」
俺は心の中で毒づきながら、そのまま防具屋に足を踏み入れた。
冷静を装ってはいるが、内心では舌打ちをしたくなるほど、気分は乗らない。
新しい防具の品定めをしなければならないというのに、頭の中は監視者たちのことばかりだ。

 尾行者たちは、角の向こうで待ちぼうけを食らっているはずだ。
だが、俺は焦らず、気づいていないふりをして薬草屋に向かうことにした。
ダンジョンで使った治療薬の残量が心許ない。
呪文でも代用はできるが、この手のものはあった方が安心できる。
エレナとの縁も切れたことだし、心の中で何度も自分に言い聞かせる。

 それなのに、胸の奥が少し痛む。
なんだよ、この気持ちは。うざいな。
もう決めたことだし、何もかも捨てたはずなのに、どうしても気が紛れない。
冷静でいなきゃいけないのに、どうしてもその感情が引っかかってくる。
こういう時の自分が本当に嫌になる。

 薬草店の薄暗い店内に入ると、独特の薬草の香りが鼻腔をくすぐり、少しむせそうになる。
店内は静かで、薬草や乾燥した花々が並んでいる棚から、自然の力が感じられる。
店主と簡単なやり取りを交わし、金を払って店を出る。

 外の空気は冷たく、街のざわめきが遠くに感じられる。
だが、すぐにその空気が重くなる。
尾行者が変わっていた。
一人が店先の柱に寄りかかり、わざとらしく新聞を読んでいる。
その周りの雑音を気にする様子もなく、妙に目立つ。
二人は離れた場所で雑談しているふりをしているが、どこか不自然だった。

 馬鹿正直な入れ替わり方だ。
訓練されているのは間違いないが、俺には無駄な行為だったな。
少しの間、足を止めて確認したが、俺には、感づいていれば誰にでもわかるだろう。

 俺はため息をつきたくなるのをこらえ、そのまま宿に戻ることに決めた。
宿の部屋に入ると、すぐに鍵をかけ、窓を閉める。
重いカーテンが、外の喧騒と光を遮断した瞬間、部屋の中が一気に静まり返る。

「さて、どうするか…」

 心の中で呟き、頭を整理しながら、次の行動を考える。
だが、どうしても尾行者たちの動きが気になる。
少し焦りを感じながらも、冷静さを取り戻そうと深呼吸をした。

 ベッドに身を沈め、頭の中に監視者の配置図を思い描く。
敵意の強さ、入れ替わりのタイミング、情報を整理することで、自分の行動の枠を広げられるはずだ。

 だが、その分析作業は、すぐに別の記憶によって遮られた。
エレナの顔が、ふと浮かぶ。
馬車の中で、俺が彼女を突き放すために使った冷たい言葉の数々。
彼女が必死に我慢していたのがわかる、でも無理に微笑んでいたその顔。
そして、大聖堂で俺が報酬を受け取る時、感謝の言葉を伝えた瞬間に見せた、あの辛そうな表情。
あの時、俺は彼女の純粋な信仰を「頭が腐っている」とまで言い放った。
それが、どれほど彼女を傷つけたか。
言った瞬間から、心の中で何度も自分を責めているが、遅すぎた。

 監視されている状況を思えば、彼女を遠ざけたのは正しい判断だった。
一人でいれば、危険は俺一人で受け止められる。
だが、そんな冷静な判断をしたはずなのに、胸の中に残るのは、どうしようもない後悔だった。
「エレナ…」その名前を口にしそうになり、俺はすぐに自分を押さえ込んだ。
今は余計な感情に流されるわけにはいかない。

 俺一人なら何とでもなるし、信用度が高いエレナが俺と一緒だと、あちらさんにも都合が悪いというものだ。
昨日の酒場でのエレナのことを聞いたら、やはり人気が高いらしい。
それがもし、巻き込まれたなんてことになったら、世論がうるさくなる可能性もあるしな。
そう思うと、エレナを遠ざけるのも仕方ない。
だが、今の俺にはその判断すら苦しく感じる。

 宿の部屋は、以前に比べてやけに広くて静かだった。
数日前の馬車内ですら、ギクシャク感はあったのだが、「温度」があった。
会話がなくとも、エレナの存在そのものが、安心感を与えてくれていたんだと思う。
俺が思っている以上に、エレナに頼っていたんだなぁと感じる。
見張りの結界も、食事の準備も、何もかもエレナがやってくれていた。
今はただ、冷たく、誰もいない空間だけがそこにあった。

 俺は、一人でいることに慣れているはずだし、一人になろうとしてたはずだ。
前世でも、この世界に来てからも、孤独は当たり前だった。
なのに今、この張り詰めた静寂が、肺の空気をすべて絞り出すように重苦しく感じられる。

 エレナの傍にいるのは、面倒で、気を遣い、そして俺の冷徹な判断を邪魔する。
だが、その面倒くささの裏には、安心と信頼もあった。
親子ほど年齢が離れているはずなのに、エレナがいてくれるだけで、こんなにも心が安らいでいたなんて。
エレナに危険が多分ないことだけが、せめてもの救いだ。
その正しい選択が、今、俺の胸に孤独感とむなしさを広げている。

 冷徹に判断したはずなのに、心の中に残るのは、どうしようもない空虚感だ。
俺は体を起こし、次の行動を決めるために、床に広げた王都の地図を見つめた。
監視はまだ続いている。このまま教会の連絡を待つか、それとも王都をでてほかの場所で情報を探すか?
選択肢はあるが、どれも決め手に欠けるな。
地図の上に目を落とすと、ふと、エレナの顔が二重に重なるように見えた。

 彼女の笑顔が、今も頭の中で反響してる。それがまた、俺を惑わせる。
もう、こんな思いをすることはないはずだと自分に言い聞かせるけど、その言葉すら心に響かねえ。
「どうして、こんなに…」思わず声に出してしまって、慌てて口を閉じる。
冷静にならなきゃ、何も進まねえ。
でも、この孤独感と後悔は、なぜかずっと俺の心に押しのかかってきやがった。

 監視と情報という二つのストレスの中では、このままではジリ貧だ。
個人と組織だったら、どのみち不利だよな。
俺は一度深く息を吐き、思考を切り替える。
まず、監視の目的を絞るのが先か。
本当に国からなのか、それとも第三者なのか。

 昨日のギルドのリリアが「教会の依頼」って言ってしまったから、話を知っている奴も多いはずだ。
尾行者は三人組。これは暗殺ではなく、情報の抜き取りか、あるいは行動の封じ込みのどちらかだろうな。
もし暗殺が目的なら、今朝の食事に毒が入れられててもおかしくない。
俺は食事を口にした瞬間の感覚を思い出し、少し身震いをする。
だが、何も起こらなかった。たまたまかもしれないし、別の理由かもしれない。

 教会の司祭長は、俺に情報を与えるつもりがあるようだった。
それもそうだ、このまま周辺に強化モンスターが増えたら被害が増すばかりだしな。
ただのゴブリンが、今では駆け出しの冒険者では倒せない実力を持っている。

 また王国とギルドが今回の事を快く思っていないことは明白だ。
多分あそこは、何かの研究施設だとは把握しているはずだ。
でなければ、わざわざ国が出て封印を解くなんてことはしないだろう。
俺が古代語を解読したという事実そのものを、奴らは危険視している。
その情報を手に入れたいという欲望は、国にとって、もはや我慢ならないものだろう。
確かに個人が持っていていい情報ではないけどな。

 それに、資料が一部だというのもわかっているから、こうも考えるはずだ。
こいつは渡していいものと、渡したらいけないものを選別してる。

 俺は立ち上がり、魔法の目マジック・アイを発動させた。
視覚を通して、外の様子を細かく観察する。
宿の裏手にある物置小屋の陰で、確かに人影が動いた。
宿の周りの結界が薄いことにも気づく。

 監視だけでなく、部屋に盗聴用の呪文を仕掛けようとしているかもしれない。
俺はすぐに風の精霊シルフに頼んで、盗聴防止の呪文を唱えさせた。
これで、しばらくは部屋の中での音は遮断されただろう。

 さすがに限界か。
一人だと、対処できる幅が狭すぎる。
頭の中で計算しながらも、やっぱり感じるのは焦りだった。
もし今、エレナが一緒にいたなら、心が軽くなるのだろうか。
改めて、彼女の存在の大きさを痛感する。

 彼女がいれば、俺が物理的な戦闘に集中し、彼女が防護や感知の魔法を張り巡らせるという、完璧な分業ができる。
そして相談をして意見も聞けてまとめができるんだけど、無い物ねだりをしても仕方ないな。
自分で決めたんだ。
泣き言を言わずに、責任もってやらないとな。

 教会からの連絡を待たずに動くのは、得策ではない。
司祭が「後日伝える」と言った情報には、モンスターを強化させる内容が含まれているかもしれない。
俺はその言葉が脳裏に浮かぶたび、頭の中で計算を繰り返す。

 待てば情報が得られるが、監視は強化され、いつ暗殺者に変わるかわからない。
動いても、どんどん縛りが出るだろう。
なら、この国を出るのがいいのか?
本当に国の奴らなのか、それとも別の誰かの手が回っているのか?

 餌を撒いて釣ってみるか?
判断がつかない以上アクションをした方がいいな
よし決めた。

 俺は下に降りてリリアの方に向かった。
「あの~仕事受けに来たんだけど」

「あんたね。何の用?」

「何かいい仕事ないかなぁって」
なんか怒られてから、いつも通りに話しかけられないんだよなぁ。
つい、下手に出てしまう。

「あんたなにやったの?」仕事の手配書を渡すように近づいて耳打ちしてきたので、俺は少し気を使いながら言った。

「それを知るために、連中に話を聞きたいんだけど」

「はん、あんたみたいな運がいいだけの冒険者なんて、これでいいんじゃない」

 そう言って渡されたのが、劇場跡に不審なことが起きてるので調査してほしいというものだった。

「いつまでも初心者扱いしてんじゃねえよ。こんな依頼、俺一人で十分だ。前祝でここにいる人たちにもおごってやるよ」

 そう言って、リリアにこの酒場にいる全員分の酒代を払った。
周囲の冒険者たちはお礼を言いながら、喜んで騒いでいた。
さすがに、冒険者の酒場内には不審な動きをしている奴はいなかった。
監視はたぶん入ってないな。

「出だしの冒険者にしたら羽振りいいじゃん。そのまま帰ってこないってことにならないでね」

「みてなって」俺はそう言って準備のために二階に戻った。

 俺は深夜、町はずれの劇場跡に向かった。
薄暗い街灯がぼんやりと灯る中、足音だけが静かに響く。
ここは、かつて栄華を誇った遺跡らしいが、今では荒れ果て、風に揺れる草が無人の空間を埋めるのみだ。

 古びた石畳がところどころ崩れ、暗闇に包まれた場所は不気味さを放っている。
監視者たちは、かなり距離を取ってついてきていた。
人数が6人まで増えてやがる。
その中には、俺の動きを慎重に観察しようとしているやつもいるだろう。
ただ、俺もその程度ならば見逃さない。
町の喧騒からは遠く離れ、この場所に漂う不安定な空気の中で、俺の決意もまた固まっていく。
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