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6章 新たな展開
69話 新たな依頼と平和な日常
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久しぶりに普通のベッドで寝た気がする。
バステルの街では王侯貴族様かっていうベッドだったし、グランベルクでは粗末なベッドだったから極端すぎるんだよな。
ふかふかの羽毛布団に沈む感触が、久々に「人間らしい」って感じで、背中がじんわり溶けていくようだった。
でも、こんなに心地いいと逆に落ち着かない。体が「贅沢してる」って文句言ってるみたいだ。
生前だったらほぼありえなかったけど、何も予定がない日でも規則正く起きてたのに、今では昼前に起きることが多くなった気がする。
朝日がカーテンの隙間から差し込んで、目を細めて時計を見ると、もう10時過ぎ。
……怠惰だよな。
娯楽が少ないのか?寝るのが趣味になってる気がする。
スマホもネットもない世界で、時間潰しが「寝る」しか思いつかないって、情けないにもほどがある。
漫画とかゲームとかもないし、当たり前だが映画とかはないけど代わりに舞台とか劇なんだよな。
だから仕事が終わると、宿の下の酒場では結構なにぎわってたり、男女関係とかそういうのが多いと思う。
夜になると、階下から笑い声と弦楽器の音が漏れてきて、誰かが「今夜は俺が歌うぜ!」とか叫んでる。
カップルが壁越しにイチャついてる音も、時々聞こえる。
あれ、絶対わざとだろ……。
俺は枕に顔を埋めて、ため息をついた。
この世界、娯楽の選択肢が極端に少ない分、みんな「今」を全力で生きてるんだよな。
俺だけが、ちょっと取り残されてる気分になる。
……まぁいいか。
今日はまだ予定ないし、もう少し寝てても許されるだろ。
そう思って、布団に潜り直した。
背中がふかふかに包まれて、すぐに眠気が襲ってくる。
怠惰でいいや。
生きてるだけで、十分贅沢なんだから。
寝ながらふと思ったのは、女の体になって面倒なのは、シャツで出歩けないこととだよな。
一回ズボンとノーブラでシャツ一枚で朝ご飯を食べに行ったら、メイティアの村の女将にお盆でたたかれた。
乾いた音がパシン!って響いて、肩にじんと痛みが残った。
周りの視線が一斉に刺さってきて、背中がゾワゾワする。
あの時はまだ転生?してから数日だったしな。
今思うとヤバいよな。
シャツの下で胸が揺れるたびに、みんなの目がチラチラ寄ってくるのがわかるんだよ。
布一枚じゃ隠しきれない柔らかさと重さが、歩くたびに主張してくる。
もう二度とやらないって心に誓った。
何を食ったらこんなに胸が大きくなるのかよくわからん。
寝返りを打つだけで体のバランスが変わる。
腕を伸ばすだけで、重心がずれて、肩が少し前傾みになる。
普通に立ったら足元が見えなくて、最初の頃はよく躓いてたしな。
床板の段差があるたびに、つま先が引っかかって、転びそうになって、変に焦って、また足がもつれる。
今は慣れたのか、そんなことはないが。
でも、階段を降りる時とか、急に屈んだ時とか、胸の重みがふわっと浮いて、意識が一瞬飛ぶ。
この体、ほんとに面倒くさい。
そろそろ昼に近いので飯を食いに、下に降りるか。
布団をめくると、ひんやりした空気が足にまとわりつく。
肌がぴりっと引き締まる感覚が、眠気を少しだけ追い払う。
服を掴んで、雑に整えて、部屋の外に出る。
階段を降りるたびに、木がきしむ音がする。
ギシッ、ギシッって、毎回同じリズムで体を揺らす。
下からはスープの匂いと焼いたパンの匂い。
もうそれだけで胃が反応した。
空腹が、腹の底からぐうっと鳴る。
喉も乾いたから飲み物をくれって欲してるのがわかる。
酒場に顔を出した瞬間、周囲から声が飛んできた。
「おーい、シビ! 起きたか!」
いつもの連中の声だ。
視線が一斉に集まって、ちょっと気恥ずかしい。
でも、嫌いじゃない。
冒険者に女性が少ないからちょっかいはよく書けられる。
最初は面倒や嫌だったが、今はもう慣れたものだった。
それにこいつらのこの騒がしさが、今は妙に心地いいんだよな。
酒場の熱気が体にまとわりついて、肌がぴりっと目覚める。
薪の匂いと焼けたパンの香り、誰かが注いだ酒の甘苦い匂いが混ざって、鼻腔をくすぐる。
ジョッキがぶつかる乾いた音、笑い声が跳ね返る壁の反響……全部が「生きてる」って感じで、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「起きてたけど、ベッドでごろごろしてた。戻ってきたっていう感触があって辞められない感じだわ」
俺がそう言うと、周囲の笑い声が一気に大きくなった。
誰かが「また寝坊かよ!」って野太い声で突っ込んでくる。
隣のテーブルから「シビの寝顔見たかったぜ!」ってヤジが飛んで、みんなでどっと笑う。
「一生ねえよ。ば~か」
周囲から馬鹿笑いが聞こえてきた。
俺は肩をすくめて、カウンターに肘をついた。
木の表面がまだ朝露みたいに少し湿ってる感触が、掌に残る。
この騒がしさの中にいるだけで、
五か月の旅で張り詰めてたものが、少しずつほどけていく気がした。
「やっと起きたのかい。いいご身分だね」カウンターの向こうでリリアが腕を組む。
20代中半の彼女らしい、鋭い目つきが俺を射抜く。
青いポニーテールが少し揺れて、朝の光に淡く輝く。
いつも通りキリッとしてるけど、口元にわずかに笑みが浮かんでるのがわかる。
「昨日帰ってきたばかりだしな。リリアいつもいるよな。休みとってるのか?」
ここ24時間営業だからこいつ何時寝てるんだ?って、口には出さないでおく。
でも、内心でツッコミ入れてる俺の顔がバレてる気がして、ちょっと気まずい。
「あんたバカなの?」
いきなり失礼なことを言われたぞ。
言い返そうとして、でも腹が減ってて頭が回らない。
黙ったまま視線で続きを促すと、リリアはため息混じりに肩をすくめた。
「いくら私でも24時間起きてるわけないでしょ。きちんと交代制よ。たまたまあんたが、来るときが私のシフトなだけ」
「よく考えてることわかるな」
「結構あんた単純だから」
「単純の方がよくないか?わかりやすいし」
「場合によるわね」
リリアの目が少し細くなって、俺を値踏みするように見つめてくる。
ツンとした口調だけど、目尻に隠しきれない優しさがちらりと見える。
やり取りのテンポが、妙に懐かしい。
戻ってきたって実感が、ここでようやく腹の底に落ちた気がした。
胸の奥が、じんわり温かくなる。席につくと、木の椅子が軽く軋む。
リリアに食事を頼むと、彼女は軽く頷いて厨房へ向かった。
しばらくして、パンとスープが置かれる。
湯気がふわっと立ち上り、煮込んだ野菜と肉の香りが鼻をくすぐる。
腹が勝手に急かしてくる。
グゥと鳴る音が、自分でも聞こえて恥ずかしい。
それと一緒に、書類が滑るように差し出された。
厚い紙の感触が、指先に伝わる。
「これは?」
「あんたを指名しての依頼よ。流石あの城塞から戻ってきただけあって情報が広がるのが速いわね」
依頼書の紙は厚い。
封の跡がくっきり残ってる。
おれはパンとスープを食べながら、新聞を読むような感じでその依頼書を読んでみた。
視線だけで追ってるつもりなのに、行間から妙な圧が滲んでくる。
文字が目に焼きつくように重い。
「リリア、これほかの国じゃねえか?なんでほかの国の奴が俺の事を知ってるんだ」
「あんた、すごい癖に基本をたまに忘れるわよね。通話魔法で届けられてるにきまってるでしょ」
リリアの声に、呆れとからかいが混ざってる。
そういえばあったな。俺が生きていた時代の電話とかではないが、1分ぐらいの話を送る魔法が、それとメッセージ魔法。
これもメール機能みたいな感じだけど、100文字ぐらいしか送れないはずだから電報みたいになる感じだったか?
使わない魔法は意外と思い出せないものだな。
詳しい話は向こうに行かないといけないが、場所が面倒だよな。
船に乗って南西に10日ぐらいでつく島国だったよな。
アヴァリス大公国 別名魔法大国アヴァリス。
文字面だけで、空気が変わる感じがある。
魔法が使えない人は確か地位が低かったりするんだっけ?
確かそんな差別が大きかったっていう記録があるな。
胸の奥で、ざわつきが少しだけ強くなる。
魔法が使えないってだけで、どれだけ冷たい視線を浴びるのか……想像するだけで、肌がちりちりする。
「読んだ?」
リリアの声が、カウンター越しに飛んできた。
青いポニーテールが軽く揺れて、彼女の目が俺をじっと見据える。
いつものツンとした視線だけど、どこか心配が混じってる。
「まだこの国もほとんど旅をしてないのにほかの国を巡るのか!」
「は?そういえばあんたの冒険者証まっさらだったよね。どうやってそんな実力を得たのかしら」
「まぁそこは気にするな。なんだっけ秘密だ。秘密。なんか秘密の文だけ女性は美しくなれるらしいぞ」
リリアの目が一瞬細くなって、呆れたように息を吐く。
「ふん、相変わらず口だけは達者ね。言う気はないってことね。この依頼どうするの?一応前金として、金貨1000枚が渡されるけど」
「半分はいつも通り宿代にしといてくれ、いちいち払うのも面倒だし」
「まったく、そんなんじゃ何時まで経ってもお金がたまらないよ。一攫千金を目指して冒険者やってるんじゃないの?」
「お金を沢山持ち歩くのも重いし、交換所を発行されてもなくなったら困るしね。なら安心できる人に渡した方がいいじゃん」
「まったく」
「そうはいっても、少しの宝石類とお金は持っていくけどな。それでも金貨1000枚位の価値ぐらいの物で十分だしな」
イヴァン救出とグランベルク開放でもらった報酬もかなりの額をもらったしな。
たしか宝石に全部変えてもらって、今手持ちが約金貨五千枚以上あるんじゃないのか?
確かこれぐらいあれば、王侯貴族のようにしなければ30年近くは仕事しなくても生活できるほどだ。
冒険者としては意外と出費が激しいから5000枚なんてあっという間になくなるけどな。
ミスリルソードのメンテナンスもしたいから、ここでするより魔法大国と言われてる方がしっかりとしてるかもしれないな。
胸の奥で、ざわつきが少しだけ強くなる。
魔法大国アヴァリス……。そんな頭のいい魔法大事マンセー集団が俺を何の用で呼ぶのやら、それも金貨千枚もの大金を前払いとしての依頼なんてろくなものじゃないよな。
「エレナと相談して決めるわ」
「あの子も連れて行くのかい?」
リリアの声が少し低くなる。
カウンター越しに腕を組んだまま、俺をじっと見据えてくる。
青いポニーテールが、朝の光に淡く揺れる。
目つきは鋭いけど、どこか心配が混じってるのがわかる。
「旅のパートナーだしな。何か不満か?」
「あの子には不満じゃないよ。実際いい子だしね」
リリアの口元が、わずかに緩む。
でも、すぐにまた真剣な表情に戻る。
カウンターの木目が、彼女の指先で軽く叩かれる音が響く。
「裏か?」
「けっこう教会の人間や王国の人間、魔法省の人間があんたのことを嗅ぎまわってるよ」
リリアの声が、少しだけ抑えられる。
視線が俺の顔から、指輪に落ちて、また顔に戻る。
部屋の空気が、ほんの少し重くなる。
「だろうなぁ、エレナは気づいてないと思うけど」
「だったら」
「そんなこと言われたら誰とも一緒にできないぜ。いちいち背後確認しないといけないなんて窮屈だろ」
俺は肩をすくめて、軽く笑ってみせた。
でも、胸の奥でざわつきが広がる。
リリアの瞳が、俺をまっすぐ捉えて離さない。
「あんたが、あの遺跡から持ち帰ったものが凄いらしくてね。その完成品をシビあんたは戦闘中に壊れたり紛失したっていう。あんたはそれを記録してるんじゃないかという話もあるよ」
「敵が厄介だったからな。そのおかげでこのミスリルソードが敵の体内から出てきてくれたのには感謝だよな。実際この剣じゃなかったら死んでた戦闘が何度もある」
俺は腰のミスリルソードに軽く手を触れた。
冷たい金属の感触が、掌に残る。
あの戦いの熱が、剣の重みに染みついてる気がした。
「胡散臭い人間も動いてる気をつけな」
リリアの声が、少しだけ低くなる。
心配が、言葉の端ににじんでる。
「気にかけてくれてありがとうな」
俺がそう感謝すると、リリアは少し顔を赤くしたみたいになっていた。
頬がほんのり染まって、すぐに視線を逸らす。
ツンとした表情の裏に、照れが隠れてるのがわかる。
「ギルドマスターもやってるからね。冒険で亡くなる奴は巨万といる。守れる奴がいるのなら守りたいだけよ。冒険者でもこのポジションでもやってることは変わらないから」
「サンキュー」
俺がリリアに礼を言っているとちょうどこの店の期の扉が開いてそちらの方を見るとエレナが入ってきた。
金髪が朝の光に照らされて、柔らかく揺れる。
白い衣の裾がふわりと翻り、彼女の足音が軽く響く。
瞳が俺を見つけて、ほっとしたように緩む。
その瞬間、部屋の空気が少しだけ明るくなった気がした。
バステルの街では王侯貴族様かっていうベッドだったし、グランベルクでは粗末なベッドだったから極端すぎるんだよな。
ふかふかの羽毛布団に沈む感触が、久々に「人間らしい」って感じで、背中がじんわり溶けていくようだった。
でも、こんなに心地いいと逆に落ち着かない。体が「贅沢してる」って文句言ってるみたいだ。
生前だったらほぼありえなかったけど、何も予定がない日でも規則正く起きてたのに、今では昼前に起きることが多くなった気がする。
朝日がカーテンの隙間から差し込んで、目を細めて時計を見ると、もう10時過ぎ。
……怠惰だよな。
娯楽が少ないのか?寝るのが趣味になってる気がする。
スマホもネットもない世界で、時間潰しが「寝る」しか思いつかないって、情けないにもほどがある。
漫画とかゲームとかもないし、当たり前だが映画とかはないけど代わりに舞台とか劇なんだよな。
だから仕事が終わると、宿の下の酒場では結構なにぎわってたり、男女関係とかそういうのが多いと思う。
夜になると、階下から笑い声と弦楽器の音が漏れてきて、誰かが「今夜は俺が歌うぜ!」とか叫んでる。
カップルが壁越しにイチャついてる音も、時々聞こえる。
あれ、絶対わざとだろ……。
俺は枕に顔を埋めて、ため息をついた。
この世界、娯楽の選択肢が極端に少ない分、みんな「今」を全力で生きてるんだよな。
俺だけが、ちょっと取り残されてる気分になる。
……まぁいいか。
今日はまだ予定ないし、もう少し寝てても許されるだろ。
そう思って、布団に潜り直した。
背中がふかふかに包まれて、すぐに眠気が襲ってくる。
怠惰でいいや。
生きてるだけで、十分贅沢なんだから。
寝ながらふと思ったのは、女の体になって面倒なのは、シャツで出歩けないこととだよな。
一回ズボンとノーブラでシャツ一枚で朝ご飯を食べに行ったら、メイティアの村の女将にお盆でたたかれた。
乾いた音がパシン!って響いて、肩にじんと痛みが残った。
周りの視線が一斉に刺さってきて、背中がゾワゾワする。
あの時はまだ転生?してから数日だったしな。
今思うとヤバいよな。
シャツの下で胸が揺れるたびに、みんなの目がチラチラ寄ってくるのがわかるんだよ。
布一枚じゃ隠しきれない柔らかさと重さが、歩くたびに主張してくる。
もう二度とやらないって心に誓った。
何を食ったらこんなに胸が大きくなるのかよくわからん。
寝返りを打つだけで体のバランスが変わる。
腕を伸ばすだけで、重心がずれて、肩が少し前傾みになる。
普通に立ったら足元が見えなくて、最初の頃はよく躓いてたしな。
床板の段差があるたびに、つま先が引っかかって、転びそうになって、変に焦って、また足がもつれる。
今は慣れたのか、そんなことはないが。
でも、階段を降りる時とか、急に屈んだ時とか、胸の重みがふわっと浮いて、意識が一瞬飛ぶ。
この体、ほんとに面倒くさい。
そろそろ昼に近いので飯を食いに、下に降りるか。
布団をめくると、ひんやりした空気が足にまとわりつく。
肌がぴりっと引き締まる感覚が、眠気を少しだけ追い払う。
服を掴んで、雑に整えて、部屋の外に出る。
階段を降りるたびに、木がきしむ音がする。
ギシッ、ギシッって、毎回同じリズムで体を揺らす。
下からはスープの匂いと焼いたパンの匂い。
もうそれだけで胃が反応した。
空腹が、腹の底からぐうっと鳴る。
喉も乾いたから飲み物をくれって欲してるのがわかる。
酒場に顔を出した瞬間、周囲から声が飛んできた。
「おーい、シビ! 起きたか!」
いつもの連中の声だ。
視線が一斉に集まって、ちょっと気恥ずかしい。
でも、嫌いじゃない。
冒険者に女性が少ないからちょっかいはよく書けられる。
最初は面倒や嫌だったが、今はもう慣れたものだった。
それにこいつらのこの騒がしさが、今は妙に心地いいんだよな。
酒場の熱気が体にまとわりついて、肌がぴりっと目覚める。
薪の匂いと焼けたパンの香り、誰かが注いだ酒の甘苦い匂いが混ざって、鼻腔をくすぐる。
ジョッキがぶつかる乾いた音、笑い声が跳ね返る壁の反響……全部が「生きてる」って感じで、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「起きてたけど、ベッドでごろごろしてた。戻ってきたっていう感触があって辞められない感じだわ」
俺がそう言うと、周囲の笑い声が一気に大きくなった。
誰かが「また寝坊かよ!」って野太い声で突っ込んでくる。
隣のテーブルから「シビの寝顔見たかったぜ!」ってヤジが飛んで、みんなでどっと笑う。
「一生ねえよ。ば~か」
周囲から馬鹿笑いが聞こえてきた。
俺は肩をすくめて、カウンターに肘をついた。
木の表面がまだ朝露みたいに少し湿ってる感触が、掌に残る。
この騒がしさの中にいるだけで、
五か月の旅で張り詰めてたものが、少しずつほどけていく気がした。
「やっと起きたのかい。いいご身分だね」カウンターの向こうでリリアが腕を組む。
20代中半の彼女らしい、鋭い目つきが俺を射抜く。
青いポニーテールが少し揺れて、朝の光に淡く輝く。
いつも通りキリッとしてるけど、口元にわずかに笑みが浮かんでるのがわかる。
「昨日帰ってきたばかりだしな。リリアいつもいるよな。休みとってるのか?」
ここ24時間営業だからこいつ何時寝てるんだ?って、口には出さないでおく。
でも、内心でツッコミ入れてる俺の顔がバレてる気がして、ちょっと気まずい。
「あんたバカなの?」
いきなり失礼なことを言われたぞ。
言い返そうとして、でも腹が減ってて頭が回らない。
黙ったまま視線で続きを促すと、リリアはため息混じりに肩をすくめた。
「いくら私でも24時間起きてるわけないでしょ。きちんと交代制よ。たまたまあんたが、来るときが私のシフトなだけ」
「よく考えてることわかるな」
「結構あんた単純だから」
「単純の方がよくないか?わかりやすいし」
「場合によるわね」
リリアの目が少し細くなって、俺を値踏みするように見つめてくる。
ツンとした口調だけど、目尻に隠しきれない優しさがちらりと見える。
やり取りのテンポが、妙に懐かしい。
戻ってきたって実感が、ここでようやく腹の底に落ちた気がした。
胸の奥が、じんわり温かくなる。席につくと、木の椅子が軽く軋む。
リリアに食事を頼むと、彼女は軽く頷いて厨房へ向かった。
しばらくして、パンとスープが置かれる。
湯気がふわっと立ち上り、煮込んだ野菜と肉の香りが鼻をくすぐる。
腹が勝手に急かしてくる。
グゥと鳴る音が、自分でも聞こえて恥ずかしい。
それと一緒に、書類が滑るように差し出された。
厚い紙の感触が、指先に伝わる。
「これは?」
「あんたを指名しての依頼よ。流石あの城塞から戻ってきただけあって情報が広がるのが速いわね」
依頼書の紙は厚い。
封の跡がくっきり残ってる。
おれはパンとスープを食べながら、新聞を読むような感じでその依頼書を読んでみた。
視線だけで追ってるつもりなのに、行間から妙な圧が滲んでくる。
文字が目に焼きつくように重い。
「リリア、これほかの国じゃねえか?なんでほかの国の奴が俺の事を知ってるんだ」
「あんた、すごい癖に基本をたまに忘れるわよね。通話魔法で届けられてるにきまってるでしょ」
リリアの声に、呆れとからかいが混ざってる。
そういえばあったな。俺が生きていた時代の電話とかではないが、1分ぐらいの話を送る魔法が、それとメッセージ魔法。
これもメール機能みたいな感じだけど、100文字ぐらいしか送れないはずだから電報みたいになる感じだったか?
使わない魔法は意外と思い出せないものだな。
詳しい話は向こうに行かないといけないが、場所が面倒だよな。
船に乗って南西に10日ぐらいでつく島国だったよな。
アヴァリス大公国 別名魔法大国アヴァリス。
文字面だけで、空気が変わる感じがある。
魔法が使えない人は確か地位が低かったりするんだっけ?
確かそんな差別が大きかったっていう記録があるな。
胸の奥で、ざわつきが少しだけ強くなる。
魔法が使えないってだけで、どれだけ冷たい視線を浴びるのか……想像するだけで、肌がちりちりする。
「読んだ?」
リリアの声が、カウンター越しに飛んできた。
青いポニーテールが軽く揺れて、彼女の目が俺をじっと見据える。
いつものツンとした視線だけど、どこか心配が混じってる。
「まだこの国もほとんど旅をしてないのにほかの国を巡るのか!」
「は?そういえばあんたの冒険者証まっさらだったよね。どうやってそんな実力を得たのかしら」
「まぁそこは気にするな。なんだっけ秘密だ。秘密。なんか秘密の文だけ女性は美しくなれるらしいぞ」
リリアの目が一瞬細くなって、呆れたように息を吐く。
「ふん、相変わらず口だけは達者ね。言う気はないってことね。この依頼どうするの?一応前金として、金貨1000枚が渡されるけど」
「半分はいつも通り宿代にしといてくれ、いちいち払うのも面倒だし」
「まったく、そんなんじゃ何時まで経ってもお金がたまらないよ。一攫千金を目指して冒険者やってるんじゃないの?」
「お金を沢山持ち歩くのも重いし、交換所を発行されてもなくなったら困るしね。なら安心できる人に渡した方がいいじゃん」
「まったく」
「そうはいっても、少しの宝石類とお金は持っていくけどな。それでも金貨1000枚位の価値ぐらいの物で十分だしな」
イヴァン救出とグランベルク開放でもらった報酬もかなりの額をもらったしな。
たしか宝石に全部変えてもらって、今手持ちが約金貨五千枚以上あるんじゃないのか?
確かこれぐらいあれば、王侯貴族のようにしなければ30年近くは仕事しなくても生活できるほどだ。
冒険者としては意外と出費が激しいから5000枚なんてあっという間になくなるけどな。
ミスリルソードのメンテナンスもしたいから、ここでするより魔法大国と言われてる方がしっかりとしてるかもしれないな。
胸の奥で、ざわつきが少しだけ強くなる。
魔法大国アヴァリス……。そんな頭のいい魔法大事マンセー集団が俺を何の用で呼ぶのやら、それも金貨千枚もの大金を前払いとしての依頼なんてろくなものじゃないよな。
「エレナと相談して決めるわ」
「あの子も連れて行くのかい?」
リリアの声が少し低くなる。
カウンター越しに腕を組んだまま、俺をじっと見据えてくる。
青いポニーテールが、朝の光に淡く揺れる。
目つきは鋭いけど、どこか心配が混じってるのがわかる。
「旅のパートナーだしな。何か不満か?」
「あの子には不満じゃないよ。実際いい子だしね」
リリアの口元が、わずかに緩む。
でも、すぐにまた真剣な表情に戻る。
カウンターの木目が、彼女の指先で軽く叩かれる音が響く。
「裏か?」
「けっこう教会の人間や王国の人間、魔法省の人間があんたのことを嗅ぎまわってるよ」
リリアの声が、少しだけ抑えられる。
視線が俺の顔から、指輪に落ちて、また顔に戻る。
部屋の空気が、ほんの少し重くなる。
「だろうなぁ、エレナは気づいてないと思うけど」
「だったら」
「そんなこと言われたら誰とも一緒にできないぜ。いちいち背後確認しないといけないなんて窮屈だろ」
俺は肩をすくめて、軽く笑ってみせた。
でも、胸の奥でざわつきが広がる。
リリアの瞳が、俺をまっすぐ捉えて離さない。
「あんたが、あの遺跡から持ち帰ったものが凄いらしくてね。その完成品をシビあんたは戦闘中に壊れたり紛失したっていう。あんたはそれを記録してるんじゃないかという話もあるよ」
「敵が厄介だったからな。そのおかげでこのミスリルソードが敵の体内から出てきてくれたのには感謝だよな。実際この剣じゃなかったら死んでた戦闘が何度もある」
俺は腰のミスリルソードに軽く手を触れた。
冷たい金属の感触が、掌に残る。
あの戦いの熱が、剣の重みに染みついてる気がした。
「胡散臭い人間も動いてる気をつけな」
リリアの声が、少しだけ低くなる。
心配が、言葉の端ににじんでる。
「気にかけてくれてありがとうな」
俺がそう感謝すると、リリアは少し顔を赤くしたみたいになっていた。
頬がほんのり染まって、すぐに視線を逸らす。
ツンとした表情の裏に、照れが隠れてるのがわかる。
「ギルドマスターもやってるからね。冒険で亡くなる奴は巨万といる。守れる奴がいるのなら守りたいだけよ。冒険者でもこのポジションでもやってることは変わらないから」
「サンキュー」
俺がリリアに礼を言っているとちょうどこの店の期の扉が開いてそちらの方を見るとエレナが入ってきた。
金髪が朝の光に照らされて、柔らかく揺れる。
白い衣の裾がふわりと翻り、彼女の足音が軽く響く。
瞳が俺を見つけて、ほっとしたように緩む。
その瞬間、部屋の空気が少しだけ明るくなった気がした。
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