【3部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~

南條 綾

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4章 山頂へ

86話 絶壁の壁と不自然な洞窟

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 エレナが衣服の乱れなどを直している最中に、俺は魔法の目マジック・アイを不可視で発動させた。
 小さな透明な目玉が空中にぽっと浮かび、ゆっくりと俺の意識と繋がる。
 目玉は音もなく移動し、エレナの背後を滑るように離れていく。

 彼女の指が法衣の裾を引っ張るかすかな布擦れの音が、俺の耳に微かに届く中、俺の意識は完全に目玉に移った。
 この周辺には何事も無い。
 溶けた雪の跡が黒く広がり、蒸気が薄く立ち上って空気に湿り気を帯びている。
 岩肌がむき出しになり、甘い腐敗の匂いがまだ微かに鼻を突くが、敵の影も罠の気配も感じられない。
 風が止まり、静寂が耳に痛いほどに重く感じた。

 目玉をゆっくり旋回させても、映るのは荒れた岩場と溶けた雪の水溜まりだけだった。
 地面の凹凸が妙に鮮明に浮かび上がり、岩の表面に残った水滴が光を反射してキラキラと揺れている。
 何も異常はない。ただ、静かすぎると思う?
 次は何を考えているのか?
 そのまま魔法の目を進ませてみよう

 そう思い山頂の方へ目玉を飛ばした瞬間だった。
 映像がぷつりと途切れてしまった。

 頭の奥に鋭い痛みが走り、ガラスが砕けるような乾いた音が脳裏に響く。
 目玉が粉々に散る感触が、俺の意識に直接突き刺さる。
 視界が一瞬白く閃き、激しい頭痛が襲ってきて、俺は思わず額を押さえた。
 痛みはすぐに引いたが、代わりに冷たい悪寒が背筋を駆け上がる。
 本来壊されてもこんな事がおきないのに、ずるをしたらダメだというように、警告をされたようだった。

 やれやれだぜ!と思いながら振り向くと、いつも通りの清楚とした佇まいのエレナがいた。
 白い法衣をきちんと整え、裾を丁寧に直していた。
 いつもの聖女らしい穏やかさを取り戻しているように見えるのに、頬がほんのり赤く染まり、耳まで火照っているのがわかる。

 瞳は少し伏せがちで、手を胸の前で軽く組んでいた。
 指先が法衣の袖をぎゅっと握りしめ、膝が内側に寄って足がもじもじ動く。
 俺の顔を見ると、先ほどの醜態のせいか顔をさらに赤らめさせ、下を向いて体全体でゆすっていた。
 肩が小さく震え、指先が袖を強く握りしめ、膝がぶつかり合うかすかな音がする。

「大丈夫か?」

「あ……はい……大丈夫です」

 声が上擦って小さく、喉が詰まったように掠れている。

「気に病むなって言うのは無理だと思うんだが、なるべくいつも通りでいてくれると嬉しい」

「あ……はい……」

 エレナの声がさらに小さくなり、肩が落ちる。
 服を淫らに着崩し、M字開脚で座って誘惑してたらそりゃ気まずくあんるのはわかる。
 ましてや自分の意志ではなく快楽を増長され誘惑に負けたとなったらなぁ。
 こういう時は、どのような行動が正解なのか全くわからん。

「あ……あのぉ……シビさん」

 エレナの声が小さく震えて、俺の背中に届いた。
 言葉が途切れ途切れになり、息が少し荒い。

「どうした」

 俺と顔を合わせて会話なんて恥ずかしいだろうと思い、ゆっくり前を向いて返事をした。
 視線を合わせないように、横目で彼女の様子を窺う。

 エレナはまだ下を向いたまま、指先で法衣の袖を軽く握っている。

「変な事をお聞きいたしますが?シビさんは男性の方なんですの?」

 突然の質問に、俺は一瞬固まった。
 声が上擦って、喉が詰まったように掠れている。

「ん?どうしてだ。男言葉が様になってるからか?一緒の部屋でずっと過ごしてたから知ってるだろ。今回の船の部屋も一緒だし。何が聞きたいんだ?」

「いえ……ただ、先ほどの私の乱心時にシビさんが男性に見えてしまって……えっとそういう意味ではなくて……」

 エレナの声がさらに小さくなり、言葉が途切れ途切れになる。
 顔を真っ赤に染め、唇を噛んで視線を床に落とす。

「そういう意味って言われてもわからんが、この異常なものでやられた幻覚か何かじゃないのか?」

 本当のことを言ってもいいのだが、今言ったらパニックになりそうだし、俺自身もどのように説明していいかわからん。

 『実は俺死んじゃって、性転換してこの世界に来ちゃった。』

 いくらこの世界に神がいたとしても、そんな世迷言を誰が信じる?
 百歩譲って、いい意味で受け止めてくれたとしても。

「私を安心させるためにそんな嘘を」って思われるのがオチだ。

 エレナの性格からしたら、優しい嘘として受け止めてくれるかもしれないけど……それで逆に彼女が自分を責めそうで怖い。
 
 でも、じじいの神にお願いした項目は正解だったと今更ながら思う。

 戦士、盗賊、魔法使いの全スキル解放。
 今思えば僧侶とかも解放すればよかったかもしれないけど、信仰する気が起きなかったんだよなぁ。
 神様に頼るより、自分で何とかしたいって気持ちが強かった。
 宗教の教えは立派なものがあって好きだが、宗教事態が嫌いだから仕方がないな。 

 もう一つが精神防御。
 いくら技能が使えたとしてもパニクってたら宝の持ち腐れだったからなぁ。
 それでもこの山の精神系攻撃の影響があるから、やばい威力なんだろう。
 エレナがよくここまで耐えているのも信仰の強さゆえなんだろうと思う。
 アウリス神の加護が彼女を支えてる。
 
 歩いていると何事も邪魔が無く山登りをしていたのだが、これまた怪しい洞窟を見つけてしまった。
 洞窟の入り口は黒くぽっかりと口を開け、内部から冷たい湿った風が吹き出してくる。
 岩肌に沿って苔がびっしり生え、足元に湿った土の匂いが濃く立ち込めている。
 周りの壁は不自然に滑らかで、まるで誰かが意図的に削ったように見える。

 山道は、壁ばかりが立ち塞がり、登るための足場すらほとんどない。
 山がここから先は立ち入り禁止だと警告するように、道がぴたりと途切れている。
 進むには洞窟をどうぞって言っている感じもする。

 しかも謀ったかのように日が落ち始めていた。
 空が急に暗くなり、青みがかった空が灰色に変わっていく。
 山肌に影が伸び、風が冷たさを増して肌を刺す。
 日没の光が岩に赤く反射し、洞窟の入り口が黒く深く見える。
 このまま進むと、崖登りしながら寝ないといけない。

 たしか、数千メートルを超える山登りをする人はそうやって睡眠を確保しながら登る人がいるって言うのを聞いたことがある。

 夜の冷気で体温を奪われ、岩の隙間に体を押し込んで仮眠を取る。
 そんな過酷な話が頭に浮かぶと、体が勝手に震える。

 それに多分ズルはできないだろう。
 ズルをしたら、先ほどの魔法の目と同じように、何かが起きる可能性がある。

 山が正攻法で来いと強制してるみたいで、めちゃくちゃ嫌な予感がする。
 魔法の目が粉々に砕かれた痛みが、まだ頭の奥に残っている。
 とてもいやなのだが、とりあえずこの洞窟を軽く調べてからどうにかするのが一番か。

 洞窟の入り口は黒く口を開け、内部から冷たい湿った風が吹き出してくる。
 岩肌に沿って苔がびっしり生え、足元に湿った土の匂いが濃く立ち込めている。
 周りの壁は不自然に滑らかで、まるで誰かが意図的に削ったように見える。

「エレナ」

「ひゃ……ひゃい」

 まだ正常には動いてくれないらしい。
 声が上擦って小さく、肩がびくりと震える。
 よほど先ほどの事がまだ心に残っているんだろう。
 こればかりは仕方ない。
 俺がどれだけ言っても気まずくなるだけだし。
 エレナ自身が心にケリをつけないといけないのだろう。
 
「今日はこの洞窟に入って休もう」

 エレナの体がびくりと震えた。
 彼女の瞳が一瞬大きく見開かれ、頬がさらに赤く染まる。

「一緒に寝るのですか?……それは……えっと」

 声が小さく上擦り、言葉が途切れていた。

「なぜそうなる。冷静に考えてくれ」

 俺は、ため息混じりに言った。
 エレナの顔がますます赤くなり、耳まで火照って、肩が小さく縮こまる。

「はっ……すみません。そうですわね。もう日が傾いておりますしそういたしましょう」

 エレナの声が掠れ、慌てて言葉を繋ぐ。
 彼女は深呼吸して肩を落とし、ゆっくりと頷いた。
 まだ頬の赤みが引かず、瞳が潤んで俺をチラチラ見上げてくる。

 必要以上に時間をかけるわけにもいかないよな。

 このままエレナがおかしいことになったとしたら。

 船に戻ってもらうのも、ここで待機してもらうのもリスクが大きい。
 俺としてもエレナがいるのといないのでは精神的ストレスが半端じゃない。
 どうしたものだろう本当に。

 俺たちは洞窟の中に入ると、奥がかなり進んでいた。
 入り口から数メートルで道が続き、意外に広くて平らだ。
 まるで絶壁は危険だから、こちらの方が安全ですよと言わんばかりの道が続いていた。
 岩肌が滑らかで、苔が薄く生え、足元に湿った土の匂いが濃く立ち込めている。
 天井が高く、冷たい風が奥からゆっくり吹き出してくる。
 壁に沿って不自然な平坦さが続き、まるで誰かが通れるように整えたような印象。

 奥へ進むほど暗くなり、光が届きにくくなる。
 俺はエレナに野営の準備をしてもらってる間に、少しだけ先を調査をした。
 もちろん何かあってからでは遅いので、魔法の目を置いてエレナの方にも注意をしておく。

 俺は、少しだけ進むと行き止まりは無く、ずっと道が続いていた。
 足元が緩やかに登り、岩肌が滑らかで苔が薄く生えている。
 壁が不自然に均等に削られたように感じ、冷たい空気が奥からゆっくり流れてくる。
 後ろを見るとエレナは見えなくて、上に登る坂になっているのでたぶん螺旋になっているのかもしれない。

 視界が暗く、俺の足音だけが洞窟に響いて反響する。
 すごく罠のような気もするのだが……。
 仕方がない。あまり一人で進むと何かあった時何もできないので戻ることにした。
 足音を殺して引き返すと、道が緩やかに下り始め、すぐにエレナの姿が見えた。
 彼女は荷物を広げて野営の準備を始めていて、俺の足音に気づいて顔を上げた。
 戻って来て、ありのまま彼女に説明をした。

「本当に不自然な事が起こりますわね」

 一人にしたのがよかったのか、かなり戻っている感じがして安心した。
 エレナの声にいつもの穏やかさが少し戻り、頬の赤みが引いてきている。
 肩の力が抜け、指先の震えも収まっていた。

 俺たちは野営の準備と、魔法の罠などできるだけ準備をしていった。
 エレナが魔法の結界を張り、俺が周囲の岩に簡単な警戒魔法等を仕掛ける。
 荷物を広げ、簡易の寝床を作り、火を起こさない代わりに暖を取るための魔法を軽くかける。
 洞窟の空気が冷たく湿っているので、布を重ねて体を温める準備をする。

 エレナを先に寝かせて俺は見張りをしていた。
 けっこう洞窟の奥に入ったからなのか、外音も聞こえず何事も起きなかった。
 静寂が重く、俺の息遣いだけが響く。
 壁の苔が微かに光を反射し、暗闇の中でぼんやりと浮かび上がる。
 エレナの寝息が小さく聞こえ、彼女の肩がゆっくり上下している。
 交代の時間になり俺も寝かせてもらうことにした。

 やはりかなりの疲労があったからなのか、目をつむった瞬間寝てしまった。
 体が重く沈み、意識が一気に落ちていく。
 洞窟の冷たい空気が肌を刺すが、それすらも遠く感じていた。
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