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本編

-147- 後見人 オリバー視点

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「前より大分顔色が良さそうですね、安心しました」
「何から何までありがとうございます」

深々と頭を下げてくる男性はシリル君のお父上である薬師、ネストレさんです。
シリル君の髪色と瞳の色は、ネストレさんと同じようですね。
ただ、やはりまだ万全ではないようで、疲労感がにじみ出ています。

「シリルのおかげで食べるものも何とかなっています」
「食えるようになってきたら野菜だけでなく、肉か魚を食べたほうが良い。たまごでも構わん。
来週もう一度診て状態が良ければすぐに移動するのがよかろう」
「………」

先生がネストレさんに告げた後に、その父親、シリル君の祖父である男性に視線を移しました。
金銭的に、肉や魚は難しいでしょうか。
たまごなら、何とかなるかもしれませんが……仕方ありません。
お金で解決できるなら、支援しましょう。

ここまで乗りかかった船、と言いますか、もう一緒に乗り込んでますからね。
来週この先生をお連れするのも、私です。
予め、途中で投げ出さず最後まで診て欲しいとお願いしていますし、必要とあらば往診に同行しましょう。

アサヒもシリル君のことを気に入っていますし、逆もまたしかり。
今はあの素晴らしい庭で、妖精を交えながら3人で仲良くカップケーキを食べていることでしょう。

さて。
今日私は、タイラーにお願いして大銀貨30枚を手にしています。

金貨はアサヒが別に持っていますが、その……前回やらかしたので、タイラーが私には持たせてくれませんでした。
ですが、この後デートをしたい私は、一文無しでは格好がつきません。
タイラーに頭を下げた結果、しぶしぶ大銀貨を30枚持たせてくれました。
前回が金貨20枚ですが、今回は金貨3枚分です。
今日の格好でデートするならば十分でしょうと言われました。
確かに、デート代としては十分な金額です。

そして、その中から出すのですから誰も文句を言わないでしょう。
そうですね……5枚もあれば、一週間大人2人と子供一人の肉や魚やたまご、それからエリソン侯爵領までの支度金も十分賄えるでしょうか。

「では、これを使ってください」
「……いただけませんよ、そんな」

そういうと思いましたが、私も引けません。

「一週間です。これを使って、一週間でネストレさんの体力を回復し、エリソン侯爵領へ発てるようにしてください。エリソン侯爵領までは丸一日かかります。本格的に冬に入ってしまえば、移動は更にきつくなります」
「……っありがとうございます。必ずお返しいたします」
「いいえ、その必要はありませんよ。
早く良くなって、エリソン侯爵領での薬師として活躍されるのを期待しています。
あなたは腕のいい薬師だと私の伴侶が認めていますから、誇ってください。
善意だけでお渡ししているわけじゃありません」
「はい……っ頑張ります」

その後は、もう泣きながらお礼を繰り返すネストレさんを先生と一緒に励ましつつ何とかおさまったところで、シリル君についての話を持ち出しました。
私としては、むしろこちらの方が重要です。

事前にアサヒに相談していた、シリル君の後見人について。
アサヒは良しとしましたが、後見人としての費用を0としたことには、本当にいいのか?と何度も聞いてきました。
例えば、今後一緒に研究をすることになったとしたら、それは後見人以上のことですからそこは別ですよ?
でも、何より私は彼の研究をこの目で見てみたい。
それでもう、十分でしょう。

「後見人、ですか………」
「はい。本来ならシリル君の後見人はお父上であるあなたやおばあ様が買って出たいと思われるでしょう。
ですが、これだけすごい植物を作るとなると、十中八九貴族の目にも留まります。
親元離され囲い込みされるのは不本意だと思いますし、断れない状況になってからでは遅い。
領外の貴族の横やりがあれば、私で断れないことは領主のアレックスに頼みます。
エリソン侯爵領なら私の名を知らない人もいません。領内でなら、よっぽどのことがない限り私の名で押し通せるはずです。
帝国内では、植物に関して私以上に知識があるものはおりません。

シリル君には、たくさんの可能性があります。
彼の好きなように、自由に植物の研究をさせてあげたいと思いませんか?
そのお手伝いをさせてください」
「その……この契約書ですと、あなたにメリットがあるようには思えないのですが、よろしいのですか?」

「私には彼の研究を知れるだけで十分メリットがあります。
私は普段帝都にいますが、研究の相談にも乗りますし、必要とあらば金銭的支援もいたします。
そこにも書いてある通り、彼の手柄を私の手柄とすることは一切ありませんし、横流しすることなど絶対にいたしませんのでご安心ください」

私にも、薬師として、エリソン侯爵領の貴族として、出来ることがある。
今までなら、頼まれてもしなかったでしょうね。
薬師なら私でなくとも、と答えていたでしょう。
ですが、アサヒと出会って、私の考え方も少しずつ変わりました。

「わかりました。シリル本人に話して、あの子が望めばよろしくお願いします」
「はい、勿論です」



結果、私はシリル君の後見人になることが決まりました。
アサヒの助言があってこそでしたが、彼もちゃんとお礼を言ってくれました。
ただ、私を見て、“おじちゃん”と言ったのは、かなりショックを受けました。
おじちゃん……おじちゃんですか。
アサヒは、兄ちゃんなのにっ!

ですが……そうですね、シリル君から見れば私は立派なおじちゃんかもしれませんね。
アサヒは、コナーが“あの子”というくらい若く見えるようですからね。
一歳しか変わりませんが、一緒にしてはいけなかったですね。

ええ、わかりましたとも。
ですが、地味に痛手を負った気分です。

私がショックを受けている様子を見て、アサヒは面白そうに笑いました。
そんな笑顔すら可愛らしいですが……酷いです、アサヒ。
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