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本編
-170- お返し
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『ん!おはぎもアサヒにあげる』
「マジで?おーありがと。この輪っか腕輪か?」
『ん。お守り』
「そっかーありがとな、おはぎ」
早速腕に通すと、俺の腕の太さに縮む不思議な腕輪だった。
せっかくくれたから腕にはめたが、オリバーがその腕輪を見てぎょっとした。
曰く、元世界樹の化石らしい。
ジェットという名前の宝石だが、元が世界樹だと知れたら面倒なことになると言われた。
「これは……っ駄目ですよ!こんな伝説級のもの!」
「へ?この黒い輪っかが?マジで?」
「元世界樹から出来たジェットなんて見つかったらどうするんです?兎に角、今すぐ外してください」
「お、おう」
オリバーの迫力に負けて外そうとしたが、腕輪に触れても元の大きさに戻らない。
『おはぎがあげたアサヒのお守り!』
むっとしたおはぎがオリバーに主張する。
“駄目”だの“はずせ”だの言われてご立腹らしい。
まん丸な顔がよりまん丸になっている。
「わかったわかった。俺は嬉しいし大切にする。おはぎ、コレ、どうやって外すんだ?」
『アサヒのお守り』
「ああ、おはぎがくれた大事な俺のお守りだな。で?」
『アサヒの』
「おう」
『お守りだから』
「ん?」
「まさか……っ外せないのですか?!」
両手で頭を抱えるオリバーを見て、おはぎは俺の顔を不安そうに見上げた。
まあ、俺は特に外せなくてもさほど気にならない。
ただの黒い輪っかの腕輪だ。
職業規定でパワーストーンをする習慣はなかったが、友人にはしている奴も多かった。
そういうもんだと思えばいいし、おはぎのくれたお守りだ。
きっとすげー効果があるんだろう。
「外せないなら仕方ないな。
見せないようにすりゃいいわけだし」
「そういう問題じゃありませんよ!」
「そんな邪魔でもねーもん」
「っおはぎはアサヒの手首が切られても良いんですか!?」
『大丈夫!切れない!』
「命を落としたら切れます!物理も魔法も毒も効かないのはわかりますよ、それだけすごいお守りですからね。ですが、人間には妖精と違い、餓死というものがあるんです!何もしなくても死ぬんですよ。そうなれば誰も助けられないんですよ?どうしてくれるんです!」
『………』
おいおい、ちょっと待て。
俺の腕が切られるってなんだ?そんなにヤバいもんなのか?
つまり、誰かに拘束されて、死んだところで腕を切られるってか?
誰かってこの帝国の頂点、皇帝様だろう。
それは勘弁願いたい。
とは言え、見えなきゃいいわけだ。
見つからなければ問題ない。
「見えなきゃいいんだろ?おはぎ、コレ、隠すこと出来ねーの?シリルんとこの妖精は見えないように隠すこと出来てたろ?おはぎもそういうの出来るか?」
『!』
おはぎの目がまん丸になって、下を向いていたしっぽがぴんと上に伸びた。
出きるっぽいな。
しょんもりした顔をしていたが、キラキラした自信ありげの可愛い顔になったぞ。
や、しょんもりしてても可愛いが、ようするにいつものおはぎになったということだ。
腕をおはぎに差し出すと、腕輪に両手を乗せて呪文を唱え始めた。
そういや、おはぎは呪文も使うんだよなーとぼんやり思ったところで腕輪がピカッと光り消えた。
え、消えちまったが見えないだけか?と思い、腕にさわったが腕輪がない。
「腕輪無くなっちまったけど」
『アサヒの中にある』
「中?」
『ん。しるし』
よく見ると、手首の内側の真ん中あたりに、小指の爪ほどの肉球の痕がついていた。
痛くもかゆくも何ともないが、蚊に食われたときのような痕だ。
「確かに私にも全て見えなくなりましたが……これは鑑定が出来る者が見ても見えないのですか?」
オリバーを見ると、ぽかんとしていたが、やがて俺の手首をしげしげと見つめておはぎに問う。
『ん!腕輪は見えない』
「そっかー、すげーなおはぎは。ありがとな」
「アサヒ、待ってください。おはぎ、腕輪はと言いますが、何に見えるんです?」
『……おはぎの加護。大丈夫!見える人少ない』
「おはぎの加護、ですか……」
『ん!』
「見える奴が見たら、眷属におはぎって見えるんだろ?そこまで見える人なら見えるってことか?」
『ん。見える人少ない。この国で5人だけ』
「そっかそっか。5人だけならそうそう出くわさないだろ。一人目はあの医者だろうから実質4人なわけだし」
「確かに見えたとして、妖精ではなく精霊だと思われるでしょうね。
遡ってご先祖にエルフ族がいる場合、稀にそういった事例があったはずですから珍しいだけで済むでしょうし、誤魔化しはきくはずです」
そんなわけで、今、俺の手首にはおはぎの加護という名前の痣がある。
小さな肉球の痕はちょっと可愛い感じだが、他人から見たら可愛く虫に刺されたなとでも思うだろう。
普通の奴らならどうしたか聞かれても、ちょっと痒いとかなんとか言えば誤魔化しはいくらでもきく。
「気になりますか?」
「ん?や、ちょっと思い出してただけだ」
馬車に揺られながらそっとオリバーが尋ねてくる。
オリバーが言わなきゃ、普通に腕輪は俺の腕にはまったままだったはずだ。
「妖精のすることは想像の域を超えますね」
「いつも勝ってるおはぎが初めてオリバーに負けたな」
「おはぎは人間界の常識をもう少し学ぶべきです」
「もしまた駄目なことがあれば駄目だってちゃんと言ってやれば良くね?常識ってさ、場所によっても人によっても変わるもんじゃん。そりゃあ、マナーっつーか人道的な根っこの部分は変わらないだろうけどさ。例えば貴族の常識が平民に通じないように、平民の常識が貴族に通じないことだってあるだろ?」
この世界に落とされて、前の常識とこっちの常識が違うのは嫌でも知った。
この帝国の常識や貴族の常識は、時々理解しがたいと思うこともある。
それは、俺が元の世界で一般人であったからだ。
富裕層にいたとしても、皇族やどこぞの国の王族とは無縁だった。
だが、元の世界だって国によってマナーが全く異なるくらいは知っている。
例えば、電車の乗り降りは順番を守って、車内通話はNG、会話は小さくっつーのは日本だからだ。
わいわいと楽しく会話を弾ませるのが普通の国だってある。
「国が違えばまた常識なんて変わるもんだしさ」
「アサヒ……」
「郷に入っては郷に従えってのもわかるよ?けど、あんまガチガチにしてもって思うし。妖精の存在がそもそも常識から外れてんだろ?おはぎはさ、毎回良かれと思ってやってくれてるわけだし。もし本当にヤバそうなことなら、お前がまた止めてくれ。俺にはまだよくわかってねーときもあるし、損な役回りかもしんねーけど」
「いいえ。アサヒのお願いですから、役得ですよ」
「マジで?おーありがと。この輪っか腕輪か?」
『ん。お守り』
「そっかーありがとな、おはぎ」
早速腕に通すと、俺の腕の太さに縮む不思議な腕輪だった。
せっかくくれたから腕にはめたが、オリバーがその腕輪を見てぎょっとした。
曰く、元世界樹の化石らしい。
ジェットという名前の宝石だが、元が世界樹だと知れたら面倒なことになると言われた。
「これは……っ駄目ですよ!こんな伝説級のもの!」
「へ?この黒い輪っかが?マジで?」
「元世界樹から出来たジェットなんて見つかったらどうするんです?兎に角、今すぐ外してください」
「お、おう」
オリバーの迫力に負けて外そうとしたが、腕輪に触れても元の大きさに戻らない。
『おはぎがあげたアサヒのお守り!』
むっとしたおはぎがオリバーに主張する。
“駄目”だの“はずせ”だの言われてご立腹らしい。
まん丸な顔がよりまん丸になっている。
「わかったわかった。俺は嬉しいし大切にする。おはぎ、コレ、どうやって外すんだ?」
『アサヒのお守り』
「ああ、おはぎがくれた大事な俺のお守りだな。で?」
『アサヒの』
「おう」
『お守りだから』
「ん?」
「まさか……っ外せないのですか?!」
両手で頭を抱えるオリバーを見て、おはぎは俺の顔を不安そうに見上げた。
まあ、俺は特に外せなくてもさほど気にならない。
ただの黒い輪っかの腕輪だ。
職業規定でパワーストーンをする習慣はなかったが、友人にはしている奴も多かった。
そういうもんだと思えばいいし、おはぎのくれたお守りだ。
きっとすげー効果があるんだろう。
「外せないなら仕方ないな。
見せないようにすりゃいいわけだし」
「そういう問題じゃありませんよ!」
「そんな邪魔でもねーもん」
「っおはぎはアサヒの手首が切られても良いんですか!?」
『大丈夫!切れない!』
「命を落としたら切れます!物理も魔法も毒も効かないのはわかりますよ、それだけすごいお守りですからね。ですが、人間には妖精と違い、餓死というものがあるんです!何もしなくても死ぬんですよ。そうなれば誰も助けられないんですよ?どうしてくれるんです!」
『………』
おいおい、ちょっと待て。
俺の腕が切られるってなんだ?そんなにヤバいもんなのか?
つまり、誰かに拘束されて、死んだところで腕を切られるってか?
誰かってこの帝国の頂点、皇帝様だろう。
それは勘弁願いたい。
とは言え、見えなきゃいいわけだ。
見つからなければ問題ない。
「見えなきゃいいんだろ?おはぎ、コレ、隠すこと出来ねーの?シリルんとこの妖精は見えないように隠すこと出来てたろ?おはぎもそういうの出来るか?」
『!』
おはぎの目がまん丸になって、下を向いていたしっぽがぴんと上に伸びた。
出きるっぽいな。
しょんもりした顔をしていたが、キラキラした自信ありげの可愛い顔になったぞ。
や、しょんもりしてても可愛いが、ようするにいつものおはぎになったということだ。
腕をおはぎに差し出すと、腕輪に両手を乗せて呪文を唱え始めた。
そういや、おはぎは呪文も使うんだよなーとぼんやり思ったところで腕輪がピカッと光り消えた。
え、消えちまったが見えないだけか?と思い、腕にさわったが腕輪がない。
「腕輪無くなっちまったけど」
『アサヒの中にある』
「中?」
『ん。しるし』
よく見ると、手首の内側の真ん中あたりに、小指の爪ほどの肉球の痕がついていた。
痛くもかゆくも何ともないが、蚊に食われたときのような痕だ。
「確かに私にも全て見えなくなりましたが……これは鑑定が出来る者が見ても見えないのですか?」
オリバーを見ると、ぽかんとしていたが、やがて俺の手首をしげしげと見つめておはぎに問う。
『ん!腕輪は見えない』
「そっかー、すげーなおはぎは。ありがとな」
「アサヒ、待ってください。おはぎ、腕輪はと言いますが、何に見えるんです?」
『……おはぎの加護。大丈夫!見える人少ない』
「おはぎの加護、ですか……」
『ん!』
「見える奴が見たら、眷属におはぎって見えるんだろ?そこまで見える人なら見えるってことか?」
『ん。見える人少ない。この国で5人だけ』
「そっかそっか。5人だけならそうそう出くわさないだろ。一人目はあの医者だろうから実質4人なわけだし」
「確かに見えたとして、妖精ではなく精霊だと思われるでしょうね。
遡ってご先祖にエルフ族がいる場合、稀にそういった事例があったはずですから珍しいだけで済むでしょうし、誤魔化しはきくはずです」
そんなわけで、今、俺の手首にはおはぎの加護という名前の痣がある。
小さな肉球の痕はちょっと可愛い感じだが、他人から見たら可愛く虫に刺されたなとでも思うだろう。
普通の奴らならどうしたか聞かれても、ちょっと痒いとかなんとか言えば誤魔化しはいくらでもきく。
「気になりますか?」
「ん?や、ちょっと思い出してただけだ」
馬車に揺られながらそっとオリバーが尋ねてくる。
オリバーが言わなきゃ、普通に腕輪は俺の腕にはまったままだったはずだ。
「妖精のすることは想像の域を超えますね」
「いつも勝ってるおはぎが初めてオリバーに負けたな」
「おはぎは人間界の常識をもう少し学ぶべきです」
「もしまた駄目なことがあれば駄目だってちゃんと言ってやれば良くね?常識ってさ、場所によっても人によっても変わるもんじゃん。そりゃあ、マナーっつーか人道的な根っこの部分は変わらないだろうけどさ。例えば貴族の常識が平民に通じないように、平民の常識が貴族に通じないことだってあるだろ?」
この世界に落とされて、前の常識とこっちの常識が違うのは嫌でも知った。
この帝国の常識や貴族の常識は、時々理解しがたいと思うこともある。
それは、俺が元の世界で一般人であったからだ。
富裕層にいたとしても、皇族やどこぞの国の王族とは無縁だった。
だが、元の世界だって国によってマナーが全く異なるくらいは知っている。
例えば、電車の乗り降りは順番を守って、車内通話はNG、会話は小さくっつーのは日本だからだ。
わいわいと楽しく会話を弾ませるのが普通の国だってある。
「国が違えばまた常識なんて変わるもんだしさ」
「アサヒ……」
「郷に入っては郷に従えってのもわかるよ?けど、あんまガチガチにしてもって思うし。妖精の存在がそもそも常識から外れてんだろ?おはぎはさ、毎回良かれと思ってやってくれてるわけだし。もし本当にヤバそうなことなら、お前がまた止めてくれ。俺にはまだよくわかってねーときもあるし、損な役回りかもしんねーけど」
「いいえ。アサヒのお願いですから、役得ですよ」
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