異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-171- トゥ レ ジュール

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「覚悟していたよりも並んではいませんね」
「プリンは飯の代わりにはならねえから、この時間だとまだ空いてるのかもしれないな」

目的のプリン販売店は、木で出来た丸い看板と、大きな立てかけの黒板が目印だった。
“トゥ レ ジュール”と書かれているから、これが店の名前らしい。
どう言った意味だ?と思ったが、黒板の方に意味が書かれてあった。

提携農家から毎日新鮮な卵を仕入れて毎日出来立てをお出ししています、とある。
どうやら、という意味らしい。

カントリー調の店がまえで、サンシェードはギンガムチェック。
受付の窓辺には、小さなプランターの花がいくつか飾られていた。
なんともまあ可愛い店だ。

オリバーが言うように、前回のカップケーキ程客が並んじゃいなかった。
とは言え、前に5組はいるから、昼前のこの時間にしたら繁盛しているのかもしれない。
そして、俺らはまたもや注目を浴びている。
だろうな、並んでる客で男は俺等だけだ。
貴族街じゃないから、カップルは男女の方が多いもんな。
勿論、男同士のカップルも歩いていはいるが、男女で歩いている方が多い。

まあ、目立ってるのはそれだけが原因じゃない。
今日も、いかにもおしのびですって恰好だ。
や、もう、恰好がどうこう言う問題じゃない。
本人が恰好良すぎて、キラキラとしたオーラがでてるのが問題だ。

その証拠かなんだか知らないが、俺等の後ろすぐに女性の二人組、その後ろに爺さんと婆さんが並び、あれよあれよと後ろに客が連なっていく。
オリバーが『急に増えましたね』なんて驚いているので、『ラッキーだったな』などと気が付かないふりをして答えておいた。
俺等は良い客寄せになったらしいが、マクシムの奥さんとお嬢さんたちのお勧めだから、きっとこの中の何人かはリピーターになるだろう。


「いらっしゃい!今日はあなたたちのおかげで午前中でもお客さんがたくさんだね!ありがとうね!」

俺等の番がやってくると、赤いギンガムチェックのエプロンをつけたふくよかなおばちゃんが笑顔で声をかけてきた。
なんでだろうな、こういう店って、ふくよかなおばちゃんが売ってる方がより美味そうだとか思っちまうの。
ふくよかなことが豊かだ、なんて発想は昔々の話で、今はそんな考えの人なんて少ないだろう。
上流階級の成功者ほど健康に気を遣うし、シュッとした人が多かった。
太っている方が安心感があって説得力があり優しく見えるだろうとぬかしていたメタボな同僚がいたが、そんなのは自分だけに都合のいい言葉だ。
製薬会社のMRがメタボなんて全然信ぴょう性がない上に、そいつから優しさと説得力と安心感なんか感じたことなどこれっぽっちもない。
だったら、もっと売上も伸びて良いはずだろう。
それに、偏屈で変態な医者はそろってメタボだった。
医者がメタボじゃ安心感どころか不安しかないだろ?

まあ、これは、俺の考えだし?
どこぞの誰かさんみたいに、メタボの方が安心感があって説得力があり優しく見える人もいるかもしんないけど?
俺はご免被るぜ。

とはいえ、げっそり痩せたおばちゃんが売っているより、ふくよかなおばちゃんが売ってる方が食い物が美味そうに見えるのは、あくまでおばちゃんが笑顔で元気はつらつだからなのかもしれない。
このおばちゃん、きっとプリンが本当に大好きなんだろう。

そう思うと、体系云々の問題じゃなく、健康そうに見えるか否かと、笑顔が自然かどうか、そして、商品に愛着を持ってるかどうかの問題なのかもな。

おばちゃんの顔が健康そうでつやっとしてるのは、プリンのせいか?なんて思っちまう。

「子供への手土産に良いと、知り合いの奥さんと娘さんからお勧めしてもらったんだ。どれも美味しそうだ」
「ああ、小さい子供にもプリンは人気だよ。ラム酒だけは大人用だね、どれにする?」

にこにこ顔で話しかけられて、商品が並ぶガラス棚に目を落とす。
このおばちゃん、俺らが貴族だと分かってても、他と変わらずの対応なとこがいいな。

ジャムのような瓶に入って売っているプリンは、種類が5つ。
定番のカスタードの他に、チョコ、苺、紅茶、ラム酒とある。
おばちゃんの言う通り、ラム酒は小さなお子様はご遠慮ください、と書かれてある。
まあ、ちょっととは言え、酒が入ったもんを子供に食わすわけにはいかない。

「全部カスタードでいいか?一番人気っぽいし」
「はい、構いませんよ」
「じゃあ、カスタードを全部で10個。6個入と4個入りとに分けて欲しい」
「たくさんありがとうね。今、包むよ、少し待っとくれ」

そう言って、おばちゃんは後ろにある紙袋を取り出して、ガラスケースの内側からプリンを取り出し詰めていく。
実に手際よく丁寧な対応だ。

「このガラスケースは初めてみますが、冷えているようですね。素朴な店構えですが、こちらはかなり高価な魔道具ですよ」
「そうなのか?」

元の世界じゃ、こういったガラスケースは珍しくも何ともなかったが、こっちの世界じゃ高価なものらしい。
冷凍庫も冷蔵庫も無いもんな、家には似たようなもんがあるが、高級魔道具らしい。
これも、そうなんだろうなあ。

「お待たせして悪かったね。冷たい今が食べ頃だけど、今日中なら常温でも美味しく食べられるよ」
「いいものが買えてよかったよ。ありがとう」
「気に入ったら、また是非来ておくれ。瓶を戻せばちょっぴりおまけもするからね。ありがとうね!」

話してる間にも、奥からプリンが運ばれてケースに並び始める。
奥にはデカい冷蔵庫が見えたから、並ばない分は、向こうで冷やされているらしい。
たくさん買っちまったから、後ろの客まで行き渡るか心配になったが、そこは大丈夫なようだ。

「私が」

プリンの入った紙袋を受け取ろうとすると、横から逞しくもスラリとした腕が伸びてきた。
はい、ときめき入りましたー……と、脳内でツッコミが入る。
や、しょうがねえじゃん?
アサヒファーストな奴と付き合うの初めてなんだもんよ。
みんな自分俺サマファーストで自分勝手な奴らばかりだったから、他人からしたら些細なことかもしんねーけど、キュンとすんだ畜生。

「なら、こっちは俺が持つよ」
「わかりました」

4個入りの方を片手に抱えると、当然のように空いた手を取られ指を絡めてくる。
眩しすぎる笑顔付きでそんなんされた俺は、根性で猫を被ったまま微笑み返した。


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