3 / 44
<第一章 第2話>
しおりを挟む
<第一章 第2話>
作戦を早く、軌道に戻さなければ。
そう思い、ルビー・クールは、ナットに合図を送った。あごを左に、クイックイッと二回、動かした。
ナットが青ざめた表情のまま、二、三歩近づいた。金髪のウイッグを手に掲げて。
違うわ! ウイッグなんて今はどうでも良いのよ!
そう、心の中で叫んだ。だが、どうやって意図を伝えれば良いのかが分からない。
手首を拘束されたままで、右手の人差し指で、左下を指した。
だがナットは、その合図に気づかない。
ジョゼフ=ピエールが、怒鳴った。血相を変えて。
「おまえか! おとといの土曜日、北東エリアの広場で拳銃を乱射したのは!」
乱射とは、人聞きの悪い言い方だ。まるでテロリストのようだ。だが、いったいどちらがテロリストなのか。
ルビー・クールの心の底に、怒りが湧き上がってきた。殺そうとしたのは、彼らのほうだ。
守っただけだ。自分の命を。それに、孤児院の子どもたちの命を。
ルビー・クールは、ジョゼフ=ピエールをにらみつけながら、わざと、すっとぼけた。
「さあ、なんのことかしら」
広場の奥の方から、声が上がった。複数だ。
「あの女だ!」
「あいつが拳銃乱射女だ!」
「オレは現場で見たぞ!」
「赤毛の魔女だ!」
「あの女が、仲間たちを殺しまくった!」
どうやら、この広場にいる三千名ほどの党友たちは、北東エリアの絞首刑台広場から逃走した連中のようだ。
党友たちの言葉を耳にしたせいか、ジョゼフ=ピエールの形相が、ますます歪んできた。怒りが膨れ上がってきたのだろう。
「赤毛の魔女め! 第六師団を壊滅させたというのは、本当か!」
第六師団のアジトにいた約三千名の大部分は、捕虜にした。だが、うまく逃走した者も、百名以上いる。彼らが、この南東エリアに逃げてきたのだろう。そして、目撃したことを、第八師団に報告した。
「知らないわ。人違いよ」
また、すっとぼけた。
「しらをきる気か」
そこまで言って、ジョゼフ=ピエールが口を閉じた。ルビー・クールのことをにらみつけた。
何かを、考えているのだ。
まずい、まずい、まずい。作戦がばれる前に、早く作戦を軌道に戻さなければ。
ジョゼフ=ピエールに気づかれないように、右手の人差し指で何度も合図を送ったが、ナットは気づかない。金髪のウイッグを手にオロオロとしている。
ジョゼフ=ピエールが、左右を見回した。
「赤毛の魔女を捕まえたのは、誰だ! そのときの状況を報告せよ!」
「アッシでさあ」
党員たちの中から、一人の中年男が現れた。
ホイールだ。
ジョゼフ=ピエールの表情が、変わった。不審そうな顔に。ホイールを疑っているのだ。
あたりまえだ。無産者革命党の党員の大部分は、十代から二十代の若者だからだ。
「おまえ、所属は?」
「第六師団第一連隊第二大隊第五中隊でさあ」
「古株か?」
「いや、アッシは二ヶ月ほど前に入ったばかりでさあ。勢いのある団体だと思いやしてね」
変な話し方だ。悪い男を演出しているのだろう。
「そうか」
素っ気ない言葉だった。ジョゼフ=ピエールは、納得したようだ。
ホイールの正体は、ばれずにすんだ。
十月の市民ホール占拠事件以降、無産者革命党の悪名は帝都中に知れ渡り、入党者が急増した。大部分は、社会に強烈な不満を持つ極貧層の若者たちだ。とはいえ、その中に、中年男が一人や二人混じっていても、不思議ではない。
「それで、拳銃使いの赤毛の魔女を、どうやって捕らえたんだ?」
「寝込みを襲ったんでさあ。この女、ホテルに泊まっていたんでさあ。そのホテルのボーイがアッシの知り合いで、ブルジョア女が泊まっているって教えてくれたんでさあ。寝ているときも金髪だったので、まさか、あの赤毛の魔女だとは知らなかったでさあ」
「そうか。よくやった」
ジョゼフ=ピエールは、ホイールの嘘を信じたようだ。
ホイールは、ゆっくりと、ジョゼフ=ピエールに近づいていた。話しながら。
「師団長閣下、火あぶりの準備は、もうできてまさあ。早く、薪に火を……」
突然、怒鳴りつけた。ジョゼフ=ピエールが、血相を変えて。
「馬鹿者! オレ様に命令するな!」
まずい、まずい、まずい。
ホイールが持ち場を離れてフォローをしたのに。
このままでは、作戦が失敗してしまう。
なんとかしなければ。
しかし、どうやって?
ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
作戦を早く、軌道に戻さなければ。
そう思い、ルビー・クールは、ナットに合図を送った。あごを左に、クイックイッと二回、動かした。
ナットが青ざめた表情のまま、二、三歩近づいた。金髪のウイッグを手に掲げて。
違うわ! ウイッグなんて今はどうでも良いのよ!
そう、心の中で叫んだ。だが、どうやって意図を伝えれば良いのかが分からない。
手首を拘束されたままで、右手の人差し指で、左下を指した。
だがナットは、その合図に気づかない。
ジョゼフ=ピエールが、怒鳴った。血相を変えて。
「おまえか! おとといの土曜日、北東エリアの広場で拳銃を乱射したのは!」
乱射とは、人聞きの悪い言い方だ。まるでテロリストのようだ。だが、いったいどちらがテロリストなのか。
ルビー・クールの心の底に、怒りが湧き上がってきた。殺そうとしたのは、彼らのほうだ。
守っただけだ。自分の命を。それに、孤児院の子どもたちの命を。
ルビー・クールは、ジョゼフ=ピエールをにらみつけながら、わざと、すっとぼけた。
「さあ、なんのことかしら」
広場の奥の方から、声が上がった。複数だ。
「あの女だ!」
「あいつが拳銃乱射女だ!」
「オレは現場で見たぞ!」
「赤毛の魔女だ!」
「あの女が、仲間たちを殺しまくった!」
どうやら、この広場にいる三千名ほどの党友たちは、北東エリアの絞首刑台広場から逃走した連中のようだ。
党友たちの言葉を耳にしたせいか、ジョゼフ=ピエールの形相が、ますます歪んできた。怒りが膨れ上がってきたのだろう。
「赤毛の魔女め! 第六師団を壊滅させたというのは、本当か!」
第六師団のアジトにいた約三千名の大部分は、捕虜にした。だが、うまく逃走した者も、百名以上いる。彼らが、この南東エリアに逃げてきたのだろう。そして、目撃したことを、第八師団に報告した。
「知らないわ。人違いよ」
また、すっとぼけた。
「しらをきる気か」
そこまで言って、ジョゼフ=ピエールが口を閉じた。ルビー・クールのことをにらみつけた。
何かを、考えているのだ。
まずい、まずい、まずい。作戦がばれる前に、早く作戦を軌道に戻さなければ。
ジョゼフ=ピエールに気づかれないように、右手の人差し指で何度も合図を送ったが、ナットは気づかない。金髪のウイッグを手にオロオロとしている。
ジョゼフ=ピエールが、左右を見回した。
「赤毛の魔女を捕まえたのは、誰だ! そのときの状況を報告せよ!」
「アッシでさあ」
党員たちの中から、一人の中年男が現れた。
ホイールだ。
ジョゼフ=ピエールの表情が、変わった。不審そうな顔に。ホイールを疑っているのだ。
あたりまえだ。無産者革命党の党員の大部分は、十代から二十代の若者だからだ。
「おまえ、所属は?」
「第六師団第一連隊第二大隊第五中隊でさあ」
「古株か?」
「いや、アッシは二ヶ月ほど前に入ったばかりでさあ。勢いのある団体だと思いやしてね」
変な話し方だ。悪い男を演出しているのだろう。
「そうか」
素っ気ない言葉だった。ジョゼフ=ピエールは、納得したようだ。
ホイールの正体は、ばれずにすんだ。
十月の市民ホール占拠事件以降、無産者革命党の悪名は帝都中に知れ渡り、入党者が急増した。大部分は、社会に強烈な不満を持つ極貧層の若者たちだ。とはいえ、その中に、中年男が一人や二人混じっていても、不思議ではない。
「それで、拳銃使いの赤毛の魔女を、どうやって捕らえたんだ?」
「寝込みを襲ったんでさあ。この女、ホテルに泊まっていたんでさあ。そのホテルのボーイがアッシの知り合いで、ブルジョア女が泊まっているって教えてくれたんでさあ。寝ているときも金髪だったので、まさか、あの赤毛の魔女だとは知らなかったでさあ」
「そうか。よくやった」
ジョゼフ=ピエールは、ホイールの嘘を信じたようだ。
ホイールは、ゆっくりと、ジョゼフ=ピエールに近づいていた。話しながら。
「師団長閣下、火あぶりの準備は、もうできてまさあ。早く、薪に火を……」
突然、怒鳴りつけた。ジョゼフ=ピエールが、血相を変えて。
「馬鹿者! オレ様に命令するな!」
まずい、まずい、まずい。
ホイールが持ち場を離れてフォローをしたのに。
このままでは、作戦が失敗してしまう。
なんとかしなければ。
しかし、どうやって?
ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる