絶体絶命ルビー・クールの逆襲<奪還編>

蛇崩 通

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<第一章 第2話>

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  <第一章 第2話>
 作戦を早く、軌道に戻さなければ。
 そう思い、ルビー・クールは、ナットに合図を送った。あごを左に、クイックイッと二回、動かした。
 ナットが青ざめた表情のまま、二、三歩近づいた。金髪のウイッグを手に掲げて。
 違うわ! ウイッグなんて今はどうでも良いのよ!
 そう、心の中で叫んだ。だが、どうやって意図を伝えれば良いのかが分からない。
 手首を拘束されたままで、右手の人差し指で、左下を指した。
 だがナットは、その合図に気づかない。
 ジョゼフ=ピエールが、怒鳴った。血相を変えて。
 「おまえか! おとといの土曜日、北東エリアの広場で拳銃を乱射したのは!」
 乱射とは、人聞きの悪い言い方だ。まるでテロリストのようだ。だが、いったいどちらがテロリストなのか。
 ルビー・クールの心の底に、怒りが湧き上がってきた。殺そうとしたのは、彼らのほうだ。
 守っただけだ。自分の命を。それに、孤児院の子どもたちの命を。
 ルビー・クールは、ジョゼフ=ピエールをにらみつけながら、わざと、すっとぼけた。
 「さあ、なんのことかしら」
 広場の奥の方から、声が上がった。複数だ。
 「あの女だ!」
 「あいつが拳銃乱射女だ!」
 「オレは現場で見たぞ!」
 「赤毛の魔女だ!」
 「あの女が、仲間たちを殺しまくった!」
 どうやら、この広場にいる三千名ほどの党友たちは、北東エリアの絞首刑台広場から逃走した連中のようだ。
 党友たちの言葉を耳にしたせいか、ジョゼフ=ピエールの形相が、ますます歪んできた。怒りが膨れ上がってきたのだろう。
 「赤毛の魔女め! 第六師団を壊滅させたというのは、本当か!」
 第六師団のアジトにいた約三千名の大部分は、捕虜にした。だが、うまく逃走した者も、百名以上いる。彼らが、この南東エリアに逃げてきたのだろう。そして、目撃したことを、第八師団に報告した。
 「知らないわ。人違いよ」
 また、すっとぼけた。
 「しらをきる気か」
 そこまで言って、ジョゼフ=ピエールが口を閉じた。ルビー・クールのことをにらみつけた。
 何かを、考えているのだ。
 まずい、まずい、まずい。作戦がばれる前に、早く作戦を軌道に戻さなければ。
 ジョゼフ=ピエールに気づかれないように、右手の人差し指で何度も合図を送ったが、ナットは気づかない。金髪のウイッグを手にオロオロとしている。
 ジョゼフ=ピエールが、左右を見回した。
 「赤毛の魔女を捕まえたのは、誰だ! そのときの状況を報告せよ!」
 「アッシでさあ」
 党員たちの中から、一人の中年男が現れた。
 ホイールだ。
 ジョゼフ=ピエールの表情が、変わった。不審そうな顔に。ホイールを疑っているのだ。
 あたりまえだ。無産者革命党の党員の大部分は、十代から二十代の若者だからだ。
 「おまえ、所属は?」
 「第六師団第一連隊第二大隊第五中隊でさあ」
 「古株か?」
 「いや、アッシは二ヶ月ほど前に入ったばかりでさあ。勢いのある団体だと思いやしてね」
 変な話し方だ。悪い男を演出しているのだろう。
 「そうか」
 素っ気ない言葉だった。ジョゼフ=ピエールは、納得したようだ。
 ホイールの正体は、ばれずにすんだ。
 十月の市民ホール占拠事件以降、無産者革命党の悪名は帝都中に知れ渡り、入党者が急増した。大部分は、社会に強烈な不満を持つ極貧層の若者たちだ。とはいえ、その中に、中年男が一人や二人混じっていても、不思議ではない。
 「それで、拳銃使いの赤毛の魔女を、どうやって捕らえたんだ?」
 「寝込みを襲ったんでさあ。この女、ホテルに泊まっていたんでさあ。そのホテルのボーイがアッシの知り合いで、ブルジョア女が泊まっているって教えてくれたんでさあ。寝ているときも金髪だったので、まさか、あの赤毛の魔女だとは知らなかったでさあ」
 「そうか。よくやった」
 ジョゼフ=ピエールは、ホイールの嘘を信じたようだ。
 ホイールは、ゆっくりと、ジョゼフ=ピエールに近づいていた。話しながら。
 「師団長閣下、火あぶりの準備は、もうできてまさあ。早く、薪に火を……」
 突然、怒鳴りつけた。ジョゼフ=ピエールが、血相を変えて。
 「馬鹿者! オレ様に命令するな!」
 まずい、まずい、まずい。
 ホイールが持ち場を離れてフォローをしたのに。
 このままでは、作戦が失敗してしまう。
 なんとかしなければ。
 しかし、どうやって?
 ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
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