11 / 44
<第三章 第4話>
しおりを挟む
<第三章 第4話>
魔法詠唱しながら、釘を投げた。前方にいる男たちに。
正確には、投げるふりをしただけだが。本物の釘は。
絶叫した。前方の男たちが。左目を押さえながら。魔法の釘が、突き刺さったのだ。
後方に振り返りざま、魔法の釘を投げた。
すぐさま、左手側、九時の方角に投げ、振り返りながら三時の方角にも投げた。
前後左右の男たちが、絶叫しながら後退した。
再び前方、六時の方角を向くと、飛び込むように踏み込んだ。二本の短剣を振り上げながら。
振り下ろした。同時に。左右の短剣を。正面にいた男二人の手首に。
ナイフを落とした。絶叫しながら。
その直後、大きく一歩踏み込んだ。その二人の間の空間に。
彼らの後方には、中隊副隊長と中隊参謀がいる。左手で、左目を押さえている。
ナイフをたたき落とした。左右の短剣を振り下ろして。
その直後、さらに一歩踏み込んだ。
突き刺した。同時に。左右の短剣を。中隊副隊長と中隊参謀の喉に。両刃の刃を地面と水平にして。
次の瞬間、ルビー・クールは、左右の腕を交差させた。短剣を持ったまま。
ほとばしった。大量の鮮血が。二人の首から、水平に。
切り裂いたのだ。頸動脈を。
中隊副隊長と中隊参謀は、白目をむいて、その場に崩れた。
時間切れだ。
ルビー・クールは、後方に大きく跳躍した。三度。
周囲を見回しながら、包囲網の中心に戻った。
すでに、九秒たった。魔法持続力は、切れた。男たちの左目から、魔法の釘は消えた。
だが男たちは、まだ左目を押さえている。幻痛は消えたはずなのに。それだけ、精神的打撃が大きいのだろう。
包囲網は、先ほどよりも広がっていた。魔法の釘による恐怖で、後退したからだ。
もう一押しだ。あと一押しで、包囲網を瓦解させることができるはずだ。
なぜなら、中隊全体に命令を出す者は、もういなくなったからだ。
あとは、小隊長が数名残っているだけだ。
無産者革命党の一個中隊百名は、十個小隊で編成される。一個中隊には小隊長が十名いるはずだが、実際には、中隊長、中隊副隊長、中隊参謀が、第一小隊から第三小隊までの小隊長を兼ねる。よって、残りの小隊長の数は、最大で七名だ。
小隊長らしき男を捜した。
だが、わからない。なぜなら、誰も命令を出さないからだ。男たちは皆、恐怖で引きつった表情をしている。
しかし、退却は、しない。攻撃も、してこない。誰も、命令を出さないからだ。
あと一押しを、どうするか。
そう考えたときだった。
怪鳥のような奇声が聞こえた。後方、十二時の方角だ。
視線を向けた。
血しぶきが、天高く舞い上がった。幾筋も。
男たちが情けない悲鳴をあげながら、波が引くように左右に後退りした。
包囲網に、穴が開いた。
道が、開かれた。
その道から、跳び込んできた。エルザが。奇声をあげながら。
「同志ルビー! 助太刀に来たわよ!」
この女には、借りを作りたくない。
「あら、わざわざ悪いわね。強い男はもう、あらかた倒したけど」
「強い男?」
ルビー・クールは、エルザの足下の死体に視線を向けた。
エルザも、足下の死体を見た。
「この男、どっかで見た!」
「狂犬ジャンゴよ」
「あたしが殺したかったのに!」
エルザが、そう叫んだ。
「この男、パパの手下を三名も殺したから、パパが激怒して、五万キャピタの賞金をかけているのよ」
一瞬、心が動いた。五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)は、帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費を、一年間まかなえる。
欲しい、と思った。
すぐに心の中で、頭を振った。マフィアから、カネをもらうわけには、いかない。
素っ気ない態度で、言った。
「あら、悪かったわね。あなたの獲物を横取りして」
「横取りじゃないわ。縄張りでキツネ狩りをしたけれど、こいつ、隠れるのがうまくてね。直接、出会ったことはないわ。この男の顔は、手配書で見ただけ」
エルザが、気味の悪い笑みを浮かべながら、ルビー・クールに視線を向けた。
「ねえ、こいつ、強かった?」
「速かったわ。だから二秒で、かたがついたわ」
エルザが奇声をあげた。笑っているようだ。
ルビー・クールが、短剣の切っ先で指し示した。
「そっちの死体は、皆殺しのブルーノよ」
「鉄血会が、情報提供に千キャピタの賞金をかけてたけど、こんな組織に身を隠してたのね」
「鉄血会の縄張りを荒らしたの?」
「違うわ。鉄血会の掟三箇条を踏みにじったから、激怒したのよ。三箇条は、その一、祖国を守る。その二、教会を守る。彼らにとっての教会は、カトリック教会だけだけど。その三、おんな子どもを守る」
思わず、ルビー・クールの感情が高ぶった。腹が、立った。彼らが支配する娼婦たちのことを、思い出したからだ。
「女を守るですって? 女を食いものにしてるくせに!」
「男は、女を食いものにするものよ」
「そんなのは間違ってるわ。男は、女を大切にするべきよ」
エルザが、笑った。ケタケタと。
「いいわね。その考え、気に入ったわ」
そのときだった。
怒鳴る声が、聞こえた。フランクだ。
「赤毛! 銃撃するぞ!」
まずい、まずい、まずい。この位置関係なら、自分とエルザにも、銃弾があたってしまう。
「待って! 撃たないで!」
「ダメだ! 時間がない! カウントダウンだ! 十、九……」
まずい、まずい、まずすぎる。たった十秒では、包囲網を突破できない。
フランクの四十五口径の銃弾があたったら、かすっただけでも、肉をごっそり削られる。
ルビー・クールは、血の気が引くのを感じた。
魔法詠唱しながら、釘を投げた。前方にいる男たちに。
正確には、投げるふりをしただけだが。本物の釘は。
絶叫した。前方の男たちが。左目を押さえながら。魔法の釘が、突き刺さったのだ。
後方に振り返りざま、魔法の釘を投げた。
すぐさま、左手側、九時の方角に投げ、振り返りながら三時の方角にも投げた。
前後左右の男たちが、絶叫しながら後退した。
再び前方、六時の方角を向くと、飛び込むように踏み込んだ。二本の短剣を振り上げながら。
振り下ろした。同時に。左右の短剣を。正面にいた男二人の手首に。
ナイフを落とした。絶叫しながら。
その直後、大きく一歩踏み込んだ。その二人の間の空間に。
彼らの後方には、中隊副隊長と中隊参謀がいる。左手で、左目を押さえている。
ナイフをたたき落とした。左右の短剣を振り下ろして。
その直後、さらに一歩踏み込んだ。
突き刺した。同時に。左右の短剣を。中隊副隊長と中隊参謀の喉に。両刃の刃を地面と水平にして。
次の瞬間、ルビー・クールは、左右の腕を交差させた。短剣を持ったまま。
ほとばしった。大量の鮮血が。二人の首から、水平に。
切り裂いたのだ。頸動脈を。
中隊副隊長と中隊参謀は、白目をむいて、その場に崩れた。
時間切れだ。
ルビー・クールは、後方に大きく跳躍した。三度。
周囲を見回しながら、包囲網の中心に戻った。
すでに、九秒たった。魔法持続力は、切れた。男たちの左目から、魔法の釘は消えた。
だが男たちは、まだ左目を押さえている。幻痛は消えたはずなのに。それだけ、精神的打撃が大きいのだろう。
包囲網は、先ほどよりも広がっていた。魔法の釘による恐怖で、後退したからだ。
もう一押しだ。あと一押しで、包囲網を瓦解させることができるはずだ。
なぜなら、中隊全体に命令を出す者は、もういなくなったからだ。
あとは、小隊長が数名残っているだけだ。
無産者革命党の一個中隊百名は、十個小隊で編成される。一個中隊には小隊長が十名いるはずだが、実際には、中隊長、中隊副隊長、中隊参謀が、第一小隊から第三小隊までの小隊長を兼ねる。よって、残りの小隊長の数は、最大で七名だ。
小隊長らしき男を捜した。
だが、わからない。なぜなら、誰も命令を出さないからだ。男たちは皆、恐怖で引きつった表情をしている。
しかし、退却は、しない。攻撃も、してこない。誰も、命令を出さないからだ。
あと一押しを、どうするか。
そう考えたときだった。
怪鳥のような奇声が聞こえた。後方、十二時の方角だ。
視線を向けた。
血しぶきが、天高く舞い上がった。幾筋も。
男たちが情けない悲鳴をあげながら、波が引くように左右に後退りした。
包囲網に、穴が開いた。
道が、開かれた。
その道から、跳び込んできた。エルザが。奇声をあげながら。
「同志ルビー! 助太刀に来たわよ!」
この女には、借りを作りたくない。
「あら、わざわざ悪いわね。強い男はもう、あらかた倒したけど」
「強い男?」
ルビー・クールは、エルザの足下の死体に視線を向けた。
エルザも、足下の死体を見た。
「この男、どっかで見た!」
「狂犬ジャンゴよ」
「あたしが殺したかったのに!」
エルザが、そう叫んだ。
「この男、パパの手下を三名も殺したから、パパが激怒して、五万キャピタの賞金をかけているのよ」
一瞬、心が動いた。五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)は、帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費を、一年間まかなえる。
欲しい、と思った。
すぐに心の中で、頭を振った。マフィアから、カネをもらうわけには、いかない。
素っ気ない態度で、言った。
「あら、悪かったわね。あなたの獲物を横取りして」
「横取りじゃないわ。縄張りでキツネ狩りをしたけれど、こいつ、隠れるのがうまくてね。直接、出会ったことはないわ。この男の顔は、手配書で見ただけ」
エルザが、気味の悪い笑みを浮かべながら、ルビー・クールに視線を向けた。
「ねえ、こいつ、強かった?」
「速かったわ。だから二秒で、かたがついたわ」
エルザが奇声をあげた。笑っているようだ。
ルビー・クールが、短剣の切っ先で指し示した。
「そっちの死体は、皆殺しのブルーノよ」
「鉄血会が、情報提供に千キャピタの賞金をかけてたけど、こんな組織に身を隠してたのね」
「鉄血会の縄張りを荒らしたの?」
「違うわ。鉄血会の掟三箇条を踏みにじったから、激怒したのよ。三箇条は、その一、祖国を守る。その二、教会を守る。彼らにとっての教会は、カトリック教会だけだけど。その三、おんな子どもを守る」
思わず、ルビー・クールの感情が高ぶった。腹が、立った。彼らが支配する娼婦たちのことを、思い出したからだ。
「女を守るですって? 女を食いものにしてるくせに!」
「男は、女を食いものにするものよ」
「そんなのは間違ってるわ。男は、女を大切にするべきよ」
エルザが、笑った。ケタケタと。
「いいわね。その考え、気に入ったわ」
そのときだった。
怒鳴る声が、聞こえた。フランクだ。
「赤毛! 銃撃するぞ!」
まずい、まずい、まずい。この位置関係なら、自分とエルザにも、銃弾があたってしまう。
「待って! 撃たないで!」
「ダメだ! 時間がない! カウントダウンだ! 十、九……」
まずい、まずい、まずすぎる。たった十秒では、包囲網を突破できない。
フランクの四十五口径の銃弾があたったら、かすっただけでも、肉をごっそり削られる。
ルビー・クールは、血の気が引くのを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる