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45. 薪はきちんと燃やすように

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 45. 薪はきちんと燃やすように



 私たちは今、オベロンというオアシスの街に来ている。そして昼食を食べ終える。このくらいの暑さなのに身体は正直だ。だからそのまま「それじゃあさっさと宿を見つけて休みましょうか」と言ってみんなを促して歩き出した。それから少し歩くとお目当ての宿屋が見つかった。外観は古びていていかにも老舗という感じだ。

「すいませーん」

 中に入ると恰幅の良い女将さんがカウンターの中から出てきた。

「いらっしゃいませ、ようこそ『風の軌跡亭』へ!」

 女将は元気な声で出迎えてくれた。その声につられて奥から従業員らしき人達が出てきた。みんな若そうだ。

「今日はお泊まりですか?」

「えぇ、とりあえず一泊お願いしたいんだけど部屋はあるかしら? あと食事も頼みたいわね」

 私がそう言うと女将は笑顔で答えた。

「はい! うちは一階が食堂になってますんで、そちらを使って頂ければ宿泊代には含まれておりますよ。それとお部屋の方は空いてる所ならどこでも構いませんけど……」

「う~ん、どうする?」

 私たちは顔を見合わせて相談した。するとルチアが私の袖を引っ張った。

「私あっちが良い!」

 そう言って指さしたのは階段の横の部屋だった。そこだけ他と違って扉や壁紙が新しい気がする。

「ふーん。いいんじゃない?あの部屋でお願いします」

「はいはい、わかりました。それではご案内いたしますね」

 女将の後に続いて部屋まで行く途中、従業員の子達が興味深げにこちらを見ていた。きっとフィーナを見てるんだろうな、きっとエルフを見るのは初めてなんだろう。

「こちらになります。何かありましたらいつでも声を掛けてくださいね」

 女将はそう言って戻って行った。私たちはすぐに荷物を置いてベッドの上に座った。

「ふぅ……やっと休めるわね」

「うん、でも思ったより疲れてるみたいだよ。なんだか眠くなってきちゃった」

「ボクもちょっと横になりま……」

「あんたはそっちで横になりなさい。なんでわざわざルチアの横にくるのよ」

 ルチアの隣に行きかけたエドを引き剥がして、私はエドと共に反対側のベッドに腰掛けた。本当に油断も隙もあったもんじゃないわね!エドは私を睨んでくるが睨み返してやるとおとなしくなった。

「よし、じゃあ今のうちに今後の方針を決めましょうか。まずはこの街にいる間だけど……」

「あのぉ~、よろしいでしょうか?」

 突然の声掛けに驚いて振り向くと、そこには先ほど私たちに……いやフィーナに興味津々で見つめていた従業員がいた。

「えっと、どうかしましたか?」

「いえ、実はお客様に折り入ってお願いがありまして……」

「お願いって何でしょう? 私たちに出来ることであれば協力しますけど。ねぇリンネ様」

「本当ですか!?ありがとうございます!!」

 彼女は嬉しそうな顔をしたあと、少し申し訳なさそうにして話し始めた。

「実はですね、このオベロンの北東には小さな廃墟の街があるんですけど、そこにある教会の地下には古代遺跡の入り口があって、そこには珍しいアイテムとかもあるらしいんですよ。」

「古代遺跡の入り口?」

「はい。それで街の人の中には冒険者の方達に依頼して探索してもらう人もいるみたいなんですけど、ただ最近あまり良くない噂を聞いていまして……」

 彼女の話を要約するとこうだ。最近その廃墟の教会の地下の古代遺跡の奥に古代の神殿のような建物が発見されたらしい。

 だがそこに入る為の鍵が無くなっているようなのだ。恐らく誰かが持ち去ったと思われるのだが、まだ鍵は見つかっていないそうだ。そしてその話を聞いた一部の冒険者が面白半分で中に入っていったところ、大量のアンデットに襲われたうえにボス級の魔物まで現れてしまい大怪我をした者がいるという事だった。それ以来誰も入ろうとしないらしい。

「そういうわけなのですが、もしよかったら調べてきてくれませんか?もちろん報酬は弾みますから!」

「いや私はただのパン屋だから。そういうのは他の冒険者に……」

「そこをなんとかお願いしますよ!!もう街には頼れる人がいなくて困っているんです!」

 彼女が必死にお願いしてくる姿を見て私は考え込んでしまった。別に受けても良かったんだけど、今はそんな気分になれなかった。だってこんな話聞いたら絶対面倒な事になるに決まってるもの。そんな時エドが話かけてくる。

「あのリンネ様。その地下の古代遺跡にも砂船の何かが見つかるかもしれません。せっかくだから行きませんか?それにボクも少しぐらい強くなりたいですし」

 うーん……まぁエドの言うこともわからないでもないけど……。危険だしなぁ。もしかしたらミゼットでの出来事がやる気に火をつけたかしら?まったく薪はきちんと燃やすようにね?焼きムラがでるんだから。

 エドがせっかくやる気になってるんだもの少しくらい付き合ってあげようかしらね。

「分かったわ。でもその廃墟の街には私とエドだけで行くわ。危険だから。それなら行ってあげるわよ」

「それで構いません。よろしくお願いしますリンネ様」

 こうして私はエドと、廃墟の街に向かうことにしたのだった。
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