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 無心でニジルリゴケを集めること、数時間。

 目的の半数以上は集まった。今日はこのへんにして、続きは明日だ。ここから先も、ローゼのお楽しみタイムである。
 
 洞窟の片隅、お気にいりの場所に焚き火をおこす。リュックから取り出した熾石しせきを石ころで囲み、ふーふーと息を吹き込めば揺らめきながら炎があがる。暖かさはあるが、煙は出ない。ダンジョン内でも使える冒険者御用達の、特別な炎だ。
 
 焚き火を囲って、ぐるりと広めに魔物忌避剤を撒いておく。この十三層に強い魔物はいない。魔物忌避剤があれば、安心して夜を越すことができる。
 あともう少しで忌避剤を撒き終わるという頃、ぼとりと粘着ねばつくものが落ちてきた。小さなスライムだ。まだ忌避剤を撒いていない隙間に、べたっと張りついている。
 スライムは戦闘力こそ低いが、倒すのにコツがいる面倒な相手だ。皮手袋をはめた手ですくって、ぺっと追い払った。スライムが落ちていた跡にも魔物忌避剤を隙間無く撒いておく。
 ランタンの火を忌避剤の端にうつすと、ジリジリと音を立てながらぐるりと一周忌避剤が燃え上がる。煙とともに青い輝きが地面に現れ定着した。これで魔物避けは完成だ。
 
 いつものように焚き火の前に座り込み、香草を挟んだ干し肉を焼き、雑穀パンで挟む。木製のカップにベルグラスの粉末をいれて、沸かした湯で溶かす。湯気とともに爽やかな柑橘系の香りがふわりと広がり、気持ちが落ち着いてくる。香りを味わいながら一口飲んで、カリカリの干し肉の端っこにかぶりつく。極上の、おひとりさまダンジョンディナーである。
 採集作業はもちろん、こうやって一人でのんびり過ごす時間が、ローゼは好きだった。

 焚き火を眺めているうちに、少しずつ瞼が重くなってくる。眠り込んでしまう前に、焚き火を消しておく。かわりに細長いろうそくに火をつけて、少し離れたところに立てた。
 シュラフに潜り込めば睡魔がやってくるのはすぐだった。ランタンとろうそくの明かりしかない、どこまでも深い閉塞的な闇。その中にただ、自分の呼吸だけがある。
 生きている。そう実感しながら、ローゼは眠りにつくのだった。
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